冒険と開発②
// 1SNAR = 134円
ー天空の城レストー
ドアを開けると光が広がり、その眩しさから目が眩んでしまった。明るさに慣れた頃、目の前に広がる光景が信じられず、立ちすくんでしまった。
宮殿のような豪華なインテリアの広い部屋。スヘルツとルナリアは動画で見たゲーム内と同じ服装をしている。奥には複数人のメイド服姿の女性が姿勢良く立っていた。
「あれ、お二人は……どうして?」
「中々良いものを持っているじゃあないか。どうしたとは、なんか良からぬことでも考えていたか?」
スヘルツはニヤリとしながら答えた。
「春田様。お着替えは用意してございます」
ルナリアは顔を真っ赤にして答えた。二人の視線を辿ると、どうやらボクの下半身に行っている。
ボクは視線を辿って下半身を見た。そこには見慣れてはいるが、今は見えてはいけないものがそこにはあった。
「え?えーっ????」
すかさず大事な部分を両手で隠して、後ろを振り返った。ドアの向こうには置いてけぼりになった着ていた服が、中身がすっぽりなくなってしまったように重なって落ちている。
何度もスヘルツ、ルナリア、ドアの向こうを見た。猫耳のメイドの一人がこちらを見ていたが目があった途端、視線を外された。全裸の男が女性たちの前に立っている情景がそこにはあった。
「ようこそ、ファルノアスへ」
スヘルツが両手を大きく広げてくるりと回った。
ー天空の城レスト・客室ー
「なんで言ってくれなかったんですかぁ」
ボクは裸を複数人の女性たちに晒してしまったことにしょげていた。ルナリアが新しい服と、着替えるための部屋を用意してくれた。
「申し訳ございません。私は説明した方が良いと申したのですが、スヘルツ様が秘密しろとおっしゃいましたので」
やはりおもしろがっていたのか。まったく、あの社長は……
「それに、私がこれから異世界に行くので服を脱いでください。と説明をしたら信じていただけたのでしょうか」
「いやぁ……確かに信じるのは難しいですね」
最近見飽きてきた異世界へ行っちゃう話が、まさか自分の身に起こるなんて夢みたいだ。それらの原作者はみんな異世界に来てるのか?というか……
「まだ死んでないですよね?」
ルナリアは一瞬驚いた顔をしたが、笑いながら答えた。
「おもしろいことを言いますね。春田様は生きていらっしゃいますよ。事務所の地下の扉から来たではないですか」
確かにそうだ。急な展開で直前のことも忘れていた。良かった"転生もの"ではないらしい。
「あの扉は春田様がいる世界とこちらの世界を繋いでいます。ただ残念なことに、あちらの世界の物をこちらに持ち込むことはできません」
「それで服だけすっぽり抜けていたのか……だからルナリアさん達の服も脱いであった。でもなぜボク自身は通ることができたんですか?」
ルナリアはボクの首から下がっているカードを指差した。
「お渡ししたこちらのカードについているレストストーンには特別な力があります。契約の際、春田様とレストストーンは繋がり、その力で異世界間の壁を抜けらたのです」
「レストストーン?契約の時に赤く光った石か」
カードを見ると赤い石が埋まっている。そして不思議なことに、さっきは読めなかった文字がハルタカズキと書いてあるのを読みとることができた。
「そうですね、この世界についてお話しましょう。少し話が長くなりますがよろしいですか?」
「急なことで理解が追いつきません。ぜひ、お願いします」
そういうと近くの椅子に腰かけ、説明を始めた。
「この世界の半分はスヘルツ様によって作られました。スヘルツ様は春田様の世界で言う神様なのです」
「半分はやさしでできてるのような言い方しなくても……それに神様だったなんてな」
もうどんな話が飛び出してこようと疑うことはなかった。
「スヘルツ様はその身の半分をレストに変え、さらにレストを分解したものがスナーです。スナーにより、この世界を創造されたのです」
「スナーは草木、人や動物など、この世界のあらゆるものに変化することができ、命の源となっています。そして貨幣の役割もしています」
ルナリアは袋からピンク色の石を取り出した。
「これがスナーです。そしてカードについているのがレストです」
カードについているレストは赤色の石で、スナーは現実世界のスナーコインにあるデザインと同じピンク色をしていた。
ルナリアが何やら小声で呪文のようなものを呟くと、突如スナーから植物の芽が出て、葉が生えて成長し、たちまち綺麗な紫色の花が咲いた。
「すごい、魔法みたいだ。レストとスナーは違うものなんですか?」
「レストは直接、スヘルツ様から作り出されたもの。"世界を変える特別な力"のあるとても貴重なものです」
「狙われる危険もあります。再発行はできませんので、無くなさないように気をつけてください」
「ちなみにこのカードのレストはスナーに例えると、どのくらいの価値があるんですか?」
<……スナーぐらいです>
ルナリアがとても小さな声で教えてくれた。それを今日のレートで計算をして、ボクが一生働いても稼げない金額だとわかった。
「気をつけます!!!」
急に怖くなってカードを服の中にしまった。どうやらこの世界のテンプレート(雛形)になる部分はスヘルツが作ったようだ。その上でボクのように招かれた開発者が"世界を変える特別な力"を使い、領土別に世界を作っているのだろう。
「えーっと、社長はどうして、レストをボクらに与えて作った世界の続きを作らせようと?」
「それは……」
ルナリアはあまり話したくない様子で口籠ってしまったが、しばらく黙った後、詳しく説明をしてくれた。
天界にいたスヘルツは天使の頃、よく下界に降りては人々を助けていた。その可愛い容姿から絵画のモデルになるなど下界や天界でも人気者となっていた。しかし歳を取り、年功序列で神様となったスヘルツは昔のように周りから、もてはやされるされることは無くなっていった。そして天界で引きこもるようになる。引きこもり生活のなか、偶然見つけた日本のゲームやアニメ・漫画の文化に衝撃を受けどっぷりハマり、さらに引きこもりを加速させていった。
そんなある日、天界で一番偉い神様の元にスヘルツは召集された。
「スヘルツよ。神様となってから何もしていないじゃないか。お主はクビじゃ!」
これまで神様として何も成果を上げていなかったため、クビを宣言される。それは嫌だと泣きつき、暴れ、なんとかチャンスをもらう事に成功する。任務は新しい世界を創造すること。これができなければ下界へ堕とされる事になる。
そして自身の半分を使い、オタク文化の中で得た知識を元に人間・獣人・魔物のいる世界を創造した。"私が考えた最高の世界"と意気揚々として天界で一番偉い神様の元に提出した。
「スヘルツよ。なんかな……ありきたりなんじゃ。こうもっとおもしくならんかね?」
スヘルツの身は合格点が出るまで保留となった。ありきたり。おもしろいもの。最高の世界と思っていたのに何をすれば良いのか、わからなかった。他の神様の中で似たような世界を創造していることは分かっていた。たとえばあのアニメの世界はアイツが創造した世界にそっくりだ。それに影響された自分は何手も後を行っている。
「もうやりたくない……」
ファルノアスで模索していたスヘルツはルナリアの胸の中で泣いていた。自身の半分を失ったせいで、歳は20代ぐらいに戻ってしまっている。
「スヘルツ様、一人でお考えなさらないでください。私達もいます」
周りには身の回りの世話をしてもらうために作っておいた者たちがいた。
「一人で……そう言ってもお前たちじゃ……」
自分では限界を感じていた。一人で考えなくてはいいのであれば誰か他に考えてくれ。ゲームや漫画とか作っている様なやつらはどうやって新しいものを考えているのだ。作っているやつら……そうか。
「この後はヤツらに任せてしまおう!」
そういうと、オタク文化の中から流行りのVRMMORPGに目をつけ、さっそくファルノアスへゲーム機を通じて下界の人間が干渉できるよう手を加えた。そして、さらにその身からレストをいくつか作り、誘いに乗った開発者へ配っていく。そして上書きするように開発者は領地を発展させていった。
「これが、私の知っているこの世界の全貌です」
人気子役が堕落して引きこもったような話には同情できないが、最高と思った作品がダメ出しされ、さらにふわっとした内容で改善を要求される。これには近い経験が何度もあるから、辛さがわかる。今の少女の姿になったのはレストを配ったせいか。カードを取り出し、埋め込まれているレストを眺めた。
「ご説明いただき感謝します。この世界のことを知ることができました」
「ところで社長はどこにいるのですか?」
この部屋にはルナリアとメイドが2名いるだけでスヘルツの姿が見当たらない。
「スヘルツ様でしたらファルノアスの様子を報告するため天界に戻られました。遊んでいるように見えますが、お忙しい方なのです」
神様も報告に戻るなんてサラリーマンみたいなものだな。
「そうなんですね。ルナリアさんはボクなんかの相手をしていて大丈夫なんですか?社長の秘書ですし」
「それには問題ありません。ルナリアは現在10体います。そのうちの1体スヘルツ様に同行しています。"私"は春田様をご案内するように言われていますので」
「10体?同じ人が何人もいるんですか??」
確かにゲーム内と考えれば同じ顔の大量生産されたキャラは出てくる。それと同じに考えて良いのだろうか。10人のルナリアさんに囲まれてみたいと、いらない妄想をする。
「そうですね。色々とあちらの世界と違うこともあります。後ほどガイドブックをお渡ししますので、目を通しておいてください」
「わかりました。この世界に慣れるにはしばらくかかりそうですね」
とりあえずボクが納得した様子を見ると、ルナリアは椅子から立ち上がった。
「それでは開発現場に向かいましょう」
そういうと二人は部屋を出て歩き出した。
ー天空の城レスト・神殿ー
「こちらから現場に行くことができます」
案内された神殿の中でルナリアが手を差し出した先には石の支柱で支えられている鳥居のようなものがあった。その先は光り輝き、先は見えない。
神殿の中には人の姿がちらほらあり、一人一人に天使のような姿をした女性が付いて案内をしている。そこにいる人は髪型や色、背丈や性別、種族までもが目紛しく変わっていた。
この光景には見覚えがある。ゲームのキャラクターメイキングだ。この神殿はファルノアスを始めた時、一番最初に訪れる場所だ。
「ボクも来る前に、一度プレイしてみました。外から見るこんなだとは不思議な感じです」
「皆さん真剣にお姿を選ばれていますから、お邪魔にならないようにポータルを通りましょう」
ポータルとは各村や城下町やダンジョンなどに繋がっていて通れば一瞬で行くことができるものだ。
メイキング終えたプレイヤーが鳥居の中へ走って行き、光に包まれ消えていった。
素晴らしい冒険が始まる予感をさせてくれる。胸の鼓動が高まった。
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