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コインタワー

 冒険者なんて上手いこと濁したものだとアルマは感じていた。

 もはや役場と変わりないギルド内で現在証明書の発行を待っているアルマはカウンターの椅子に座ったまま周りを見渡す。

 誰かが散らしてくれたのか、ギルドの質素な建物の中についてきては書類を盗み見しつつ「アルマちゃんって言うのね」やら「後で依頼してもいいかい」なんて話しかけてきた彼らは一人もいない。カウンターの裏で久々の仕事にてんてこ舞いになっている職員達以外は本当に静かなものだと思う。まあ窓の外からのぞき込んではいるのだけれど。


 30分ほどで奥から一人戻ってきたリンさんがアルマと記載された特殊素材のカードとバッジをカウンターに並べる。

「本拠地をこの街で登録しました、カード型とバッジ型のどちらか片方身に着けておいてくれれば身分証となりますので」

「ありがとうございます、この後先ほど頂いた書類にも記載されていたので引き続き住居や依頼の確認をしたいんですが」

「読み込んでくれたんですね、説明の手間が省けます」


 そう言って頭を下げるリンさんが「でもよろしいので?」と問いかけてきたが何に対するものなのかわからずに首を傾げる。


「本拠地ですよ、先ほど説明しましたけど大都市の方が大きな依頼などを受けられます。後から移転もできますが召集時は同じ拠点の人と組むわけで……。ここを拠点にしている魔術師はアルマさんだけですし負担は相当大きくなるかと。まあ私共はいてくれた方が嬉しいんですけれども……」


 この街を優先してくださる方だから余計に……。

 なんて、己の家族がいるこの街に戦力が増える方が良いだろうに本心とは逆のことを口にするリンさん。尻すぼみになっていって最終的に音にはなっていなかったが文脈的にも心配してるだのが続くのだろう。


 コネはあっても困らないが、人に見せられない能力を使ってひっそり第二の人生を過ごすのだから最低限でいい。

 ただそんなことは口が裂けても言えないので「のんびりと過ごしたいんです」とだけ返した。履歴書や入社面接のように何をやっていただのを聞かないこの世界でそれ以外の言葉は必要ない。

 大学を出てから友人達とゲームをする間もなくずっと働いてきたのだ。共に暴れたかった友人とは一生出会えなくなったが、あの日やりたいと夢想したことをまんべんなく楽しみたいと思うのは普通だろう。


 再び「本拠地をここにしてくれてありがとうございます」と頭を下げたリンさんにこちらこそお世話になりますと返す。名刺があったら完璧に取引先との挨拶の場になっていた。


「なんだか重くなってしまいましたね、気分を変えて住居探ししましょう!なにか希望はありますか?」

「雨風凌げて日当たりの良く洗濯物を干せる場所がある所で、トイレと浴室は別で……あと台所は大きめならこしたことはないです。一軒家希望。見学もさせてください」

「ははっ、いきなり欲が出てきましたね」

「家の妥協はできませんから」

 使いやすさやら掃除のしやすさ、あとはうっかり使ったり練習したりするかもしれない死霊魔術秘匿の為からなのでスローライフはまったく関係ないけどと頭の中で付け加える。


 彼にとって私はお金に目がくらまなかったことでどうやらとっつきにくいイメージがあったらしい。

 さらにこの世界では魔術師が重宝される、どこに行こうが職はあるしお金以外でも良い待遇をされたくなって傲慢になっていった挙句大都市に拠点を移す人間が後を絶たない中、せっかく出たレアな芽にどうにか居ついてもらおうと懸命に人をたてていたようなのだ。

 それが一歩線を引いているようにこちらは感じていたのだが、魔術師だろうと目の前の私は普通の人間だってことが解ってもらえたのか、はたまた仮宿のようなものではなく本格的に尻を落ち着けようと思っているのが伝わったのか一気に友好的な態度に変わった。ようやく彼の笑顔が他人に向けるものじゃなくなったのがとても嬉しい。


「自炊タイプなんですね、じゃあ料理屋より食料品店が近くにあった方が良いですね。そうなると大きい家はあまりないのですが……」

 土地はあるんですけどどうしても空き家ばっかになってしまうからそんなに建ててないんですよねぇとファイリングされた物件をめくりながらぼやいている。

 カーネリアンさんに敗戦し死んでいった冒険者達の荷物から半分くらい金貨を持ってきているがこれで足りるだろうか。

 出来れば賃貸じゃなくて買いたいのだが相場を知らない。頭金もいるだろうし税金軽減とはいえどのくらいまで減るのかもわからない。

 予定では街をこっそり見て物の相場を調べてから物件を買おうと思ってたのだけれど、ここまで両手をもって引導されて逃げられなかったしそもそも冒険者ギルドが物件の管理までしているとは思わなかったし。

 腹を括りドンとポーチから金貨袋を取り出す。荷物を漁っていた時は重さを感じなかったものだが、これも馴染んだからなのか相当な負担を私に与えてきていたのでそろそろ減らしたい。重い。


「人里離れて(別の世界で)暮らしていたので相場が解らないのですが物件購入するならこれで足りますかね?魔物(を狩ろうとした人間)から集めた(らしい)んですが」

 時間だけはあった道中で今後必要になるであろう嘘をいくつもしっかり練っておいたうちの一つである。練習もしたし突っかかりもしなかった。違和感はないはずだ。

 多分に含みを入れた文章をサラリと口にしジャラジャラとひっくり返した袋から硬貨を流し出して大きさと種類別にタワーにした後恐る恐る顔をのぞき込む。

「ヒェッ」

 リンさんからは生気が抜けていた。


「リンさん死なないでぇ!」

 ファイルをめくりかけたまま硬直した青年をぺちぺち叩いていると不穏な言葉に奥でどこかに通信をしていたらしい中年の職員が顔を出した。縋るような気持ちで視線を送れば男はカウンター前の硬貨タワーに目をひん剥き裏に逃げるように引っ込む。

「全員作業を止めてカウンター前に集合しろ!」

 いきなり発せられたどでかい声に思考が塗りつぶされ一切内容が解らなかったのだが、すっ転んだりドアを二人で抜けようとして詰まったりしながら飛んできた職員達が一斉に自分の前に駆けてきたので恐怖で思わず椅子から飛び上がって後退る。

「一体どこで……」

「……もしやめちゃくちゃ手練れなのか?」

「私ツヨクナイ…魔物……イッパイ狩ッタケド……人里に行かなかった、から使わなかったデス……」


 奥からいくつかのはかりを持ってきた職員達が手袋を嵌める。

 慎重に分銅を乗せ鑑定をしだしたのをみてローブの下で滝のように汗を流し始めていた。

 先ほどまでの女優っぷりは見事に霧散し、冷静な人間が見たら違和感しかないほどに目を泳がせてカタコトに嘘100%を乗せて回答する。違和感しかないせいで逆に違和感が感じられないほどに焦り動揺していた。

 再度主張するが、狩られたのは人間だし、狩ったのはカーネリアンさんとその仲間たちである。

 彼らは魔物であるから街に買い物に行かない。リピズスが戻ってくるのを信じて待っていた700年ただただ貯めこまれてきた。偽の貨幣を作る意味はないから彼らは信じていいはずだ。

 あの二人を信じきっていたので大丈夫だと思っていたのだが大事になっていく自体にまさか旧型なのか、はたまた偽物なのか?と秒刻みに不安が煽られ募っていく私を後目にカウンターを囲み数えていく。

 終わったらしい職員達が「すべて本物ですね」と手袋を外しながら再びタワーにして返してくれたのでホッと一息ついた。

 いつの間にか背後に回っていた職員2人に気づきしょっぱい顔をしながら椅子に戻る。絶対疑われてた奴ゥ……。


「相当数……いえ、置いておきましょう。これなら賃貸じゃなくてむこう10年分の税金までまとめて払えますよ」

「えっ家ってそんなに安いんですか?」

「大都市なら不可能でしょうがここは最辺境の街ですので」

 郊外というよりド田舎寄りの街だしなぁと濁す職員に頷いた。本当に辺境なんだな、カーネリアンさん軍資金ありがとう。やはり大都市は給料も高ければ家賃もバカにならないようなのでここで静かに暮らしていきます。

 亡き火竜に脳内で静かに感謝を唱えていれば「リンがあの状態なので私が引き継ぎますね、見学は最後でよろしいですか?」と中年の職員がグレード上げた物件資料取って来いだの周りの職員に指示を飛ばしながら問いかけて来た。


 裏へ運ばれていくリンさんを「アッハイ」と間抜けな返事をしながら見送ることしかできなかった。

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