第四話「少女たちの噂話」
数日後の朝。
まだ授業の始まらない教室では、おしゃべりに興じている生徒も多く、賑やかで穏やかな空気が醸し出されていた。
窓側に座る二人の少女も、外から差し込む日光に照らされて、明るく談笑している。
「昨日、うちに変なハガキが送られてきたのよ。『これと同じ手紙を十人に送らないと不幸が訪れます』みたいな」
「それって、チェーンメール?」
首を傾げながら聞き返したのは、サラサラと長い黒髪が特徴的な、スレンダー体型の眼鏡っ娘だ。
天然茶髪をショートにした、見るからに活発そうな生徒が、友人の言葉を少しだけ訂正する。
「そう、チェーンメールのアナログ版。確か『不幸の手紙』って言うんだっけ」
「ああ、それなら聞いたことがあるわ。昭和の昔に、かなり流行した話でしょう?」
と言った後、一瞬の間を置いてから。
黒髪ロングの少女は、軽く前髪をかき上げて、言葉を続ける。
「『不幸の手紙』といえば、最近は『不幸の子犬』というバージョンもあるそうね」
「何それ? 子犬が送られてくるの? ウケるー!」
キャハハと笑い飛ばす、茶髪ショート。
「そうそう。子犬を育て上げて大人の犬にして、十匹以上の子犬を産ませて配らないと、不幸に見舞われるらしいわ。もちろん、最初から子犬を受け取らず、見なかったことにする、というのも駄目よ」
「いやいや。おかしいじゃん、それ。手紙書くのと違って、時間かかるじゃん」
「そうなのよ。でも『不幸の手紙』みたいに一方的に『不幸が訪れます』ではなくて、きちんと全部の子犬の飼い主を見つけたら、良いことがあるという話で……」
「それじゃ『不幸の子犬』じゃなくて、『幸運の子犬』じゃん」
話がそこまで進んだところで。
「大変、大変!」
後ろ髪を束ねた小柄な少女が、二人のところに駆け寄ってくる。まさに『ポニーテール』という名称通り、馬の尻尾のようにブンブンと髪を振りながら。
「二人とも、聞いて! 三組の生徒が一人、昨日の帰り道、トラックに撥ねられたんですって!」
「三組の誰?」
「窓際の席の、ぼっち眼鏡!」
「ああ、あの地味な子。どうでもいいじゃん」
「まあ、あの子だったら、友達もいなさそうだし……。私たちにも関係ない話ね」
と返す二人に対して、ポニーテール少女は、左右に大きく首を動かした。
「どうでもいい話じゃないし、関係なくもないわ! 私の幼馴染のケンタ君、密かに、あの『ぼっち眼鏡』に憧れてたみたいで……」
「へっ? あんな子に? 趣味わるー!」
「まあ、おとなしくて眼鏡というだけで、需要あるのかもしれないわね。地味だからこそ可愛く見える、いわゆる『地味かわ』かしら」
黒髪ロングが、自分の眼鏡にクイっと指を当てる。まるで「それならば私もモテそうなものだけど」とでも言いたげに。
一方、ポニーテールの子は、幼馴染を馬鹿にされて、少しムッとした表情。だが、あらぬ方向に話が逸れそうなのを察して、すぐにその表情を消して、言葉を続けた。
「とにかくケンタ君、『俺、お見舞いに行く!』とか言い出しちゃってさあ。今日の放課後、本当に病院まで行くつもりみたい。ケンタ君、今まで『ぼっち眼鏡』とは一言も口きいたことすらないのに……」
(「不幸の子犬」完)




