蛇に睨まれ
私たちの婚約が新聞の社交欄に載り、大々的に発表され、世間の知る所となりました。
あれ以来ティエリーは忙しいらしく、なかなか話をする機会がありません。
今日の夜会はお父様の名代と言うことで、どうしても出席しなければならなくて、結局1人でやって来ました。
知り合いもいなければ、楽しくもない夜会なので、お料理を頂く事にしましょう。
一通り挨拶を済ませた私は、おいしそうなお料理を皿に取り口に運びます。
あ、飲み物はきちんと確認しましたわよ。
うん!このチキンのトマト煮込みは絶品だわ!
「エリーゼ嬢」
振り返ると1人の男性が立っておりました。
「まぁ、お久しぶりですブロア様」
私この方すごく苦手なんですわ。
なんだか蛇のような目で、いつも私を見てくるんですもの。
「婚約おめでとうと言うべきかな」
「ありがとうございます」
近づいてきたので、思わず後ずさりました。
「僕にはもうチャンスは無いのかな?」
あらやだ、すごく気持ち悪いですわ。
生理的にこの方私ダメなんだわ。
「ええ。結婚式は3ヶ月後ですの」
「それはまた早急だね」
「ティエリーが早く式を挙げたいと、急ぎましたの」
「そう。本当に残念だ」
嫌だわ、早く何処かへ行ってくれないかしら。
すると、今度は別の方からお声が掛けられました。
正に天の助けですわね!
「エリーゼ様!お久しぶりですわね。ご婚約おめでとうございます」
な、なんでこの方が!
真っ赤なドレスに身を包んだ、ヴィヴィアンヌ様でした。
今1番会いたくない方だというのに。
天の助けどころか、地獄に真っ逆さまですわ。
「ありがとうございます」
「でも私、諦めませんわよ!」
「‥‥それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味ですわ」
怖いわ!
2匹の蛇が私の前にいますわ!
どなたか助けて頂けないかしら?
「エリーここにいたんだ!」
「ダゴベール!」
ああ、困った時のダゴベールですわ!
でもなんでここへ?
「すみませんね、僕の従妹を借りますよ。緊急の用事が出来まして」
「「名残惜しいですね」」
ダゴベール、神ですわ!
本当に助かりました。
でもなんでここへ?
「ダゴベール、緊急の用事って?」
「嘘に決まってるだろ?」
「えっ?そういえば、どうしてここへ?」
「今日の招待客リストを見て、ティエリーが僕に頼んだんだ」
「どういう事ですの?」
「今みたいな場面を想定してね。でも、少し遅かった様だね。ごめんエリー」
「ううん、助けてくれてありがとうダゴベール」
「このまま帰ろうエリー」
「うん」
ちょっとお兄様に甘えたくなりました。
だから帰りの馬車は、ダゴベールと一緒です。
「ティエリーと婚約したんだってね。婚約おめでとうエリー」
「‥‥ダゴベール〜!」
「ど、どうしたのエリー?」
感情が溢れ出して、ダゴベールの前で泣いてしまいました。
ここの所抱えていた複雑な気持ちを、ダゴベールに全て話しました。
やっぱりお兄様には頼ってしまいます。
「エリー、エリーはティエリーの事、どう思っているの?」
「‥‥想ってはいけない相手ですわ。あの方にはヴィヴィアンヌ様がいらっしゃるし。私はただのからかい相手で、広告塔ですわ」
ダゴベールが深い溜息を吐きました。
「何にも伝わってないじゃないか。全く、ティエリーは何をやってるんだよ」
「何をって?お仕事なさってますわ?」
「出た!エリーの天然!」
「天然じゃありません!」
プーッと頰を膨らますと、ダゴベールが笑います。
なんだか少し元気出たかも。
「エリー、きちんとティエリーと話をするんだよ。それに、エリーの気持ちも伝えるんだ」
「わ、私の気持ちって‥‥」
「分かっているんだろ?もうずっと前からそうなんだろ?」
ダゴベールには敵わないわ。
気付かれていましたのね。
コクンと頷き、ダゴベールに正直な気持ちを言いました。
「私、私、ティエリーの事が好きですの」
ダゴベールは満足気に微笑んで、頭をポンポンしてくれました。
お兄様、大好きです。
あ、この好きは家族の好きですのよ。
読んで頂いてありがとうございます。