婚約しました
私が呆気に取られている間に、支度を済ませた両親とティエリーとで、婚約の証明書と誓約書が取り交わされていました。
ええと、何時そんな書類用意したのかしら?
お仕事は有能ですものね。
って、そこじゃありませんわ!
そりゃあこうなった以上、婚約しない訳にはいかなかったけど、せめて愛のある婚約をしたかったわ。
今更ですけど。
「リーゼ、食欲ないの?」
はっ!晩餐の席でしたわ!
「いいえ、ちょっとボンヤリしていただけですわ」
隣でティエリーが世話を焼いてきます。
ご丁寧に、ステーキを食べ易い大きさに切ってくれた
り。
「もう!子供じゃないですわ!自分で出来ます!」
「僕がやりたいんだよ」
ティエリーはなんだか嬉しそうですわ。
うん、そうですわよね、女相続人という広告塔が手に入ったんですもの。
あらあら、お父様がなんだかウルウルしていますわ。
「お父様?どうかされました?」
「僕等の小さかったエリーが、婚約して、結婚してしまうんだなと思うと、少し寂しくてね」
「貴方、結婚してもエリーはお嫁に行く訳じゃありませんわ。それに、近い将来孫の顔が見られますわよ」
「はっ!そうだね!今から楽しみだね!」
お父様ごめんなさい。
近い将来に待っているのは、婚約解消です。
「ティエリー君、結婚式はいつ頃にしようか?」
あら、困ったわ。
そんな事具体的に決められないわ。
「僕としては一刻も早く、リーゼと結婚したいので、3ヶ月後はどうでしょう?」
「3ヶ月とは、忙しいね。通常婚約してから1年くらいの期間を置くものだが」
「誰かにリーゼを攫われやしないかと、心配なんですよ。本当は今すぐにでも式を挙げたいくらいです」
「その気持ちは分からないでもないが。まあ、我々としても、その分早く孫の顔を見られるから、特に異論はないな」
お父様、変な方向に向かってません?
あなた今孫の事しか頭にないでしょ?
そう、3ヶ月ね。
3ヶ月後には婚約解消って事ですのね。
「エリーはティエリーさんにリーゼって呼ばせているのね?」
「ええ。エリーじゃなく、リーゼと呼ぶ様にと。僕はこの呼び方の方が好きですね」
あら、お母様何を言いだしますの?
リーゼって呼ばせる意味を話したりしませんよね?
「ウフフ。リーゼって呼び方は特別なのよ。ねっ!エリー」
「お、お母様!その話は後で自分で話しますわ!」
「あらあら、エリーったら照れちゃって。ね、貴方」
「そうだな。この調子なら孫の顔を早々に見られそうだな」
何の話か分からないティエリーが微笑んでいます。
出来れば今の話は、忘れて頂きたいわ。
翌朝早朝から仕事があるというティエリーは、晩餐を済ませて帰り支度です。
内緒話が必要だと思ったので、1人で見送らせて貰いました。
「3ヶ月っていう事は、このお芝居も3ヶ月で終了って事ですのね?」
「婚約はね。でも、僕はそのまま君と結婚するつもりだよ」
「なっ!?話が違いますわ!」
「シー!リーゼ声が大きい」
「‥‥ごめんなさい」
「お父上は孫を楽しみにしておられる。このまま解消したら、どんなに悲しむかは分かるよね?」
「でも、貴方は、貴方には‥‥」
「君がどう思おうと、昔から僕の一番大切な女の子は君だよリーゼ」
「そんな訳ないわ‥‥」
「僕は君ともっと話す時間が必要だね。さ、今日はもう冷えるといけない。中に入って」
ティエリーはそう言って、帰って行きました。
そんな訳ないのに‥‥
読んで頂いてありがとうございます。