お客様
「お嬢様、二日酔いに効く薬湯をお持ちしました」
ズキズキと痛む頭を抑え、机の上で手紙を書いています。
「ありがとう、エマ」
机の上に薬湯の入ったカップを置き、エマは続けました。
「お嬢様はアルコールを受け付けない体質なんですから、くれぐれもお気を付け下さい。全く、お嬢様を抱き抱えたランドゥール様を見た時は、何事かと思って肝を冷やしましたよ」
「‥‥はい。気を付けます」
エマには敵いませんわ。
我が家の優秀なメイド頭ですの。
私がアルコールを受け付けない体質だと分かったのは、昔ダゴベールの家で頂き物のウイスキーボンボンを、ティエリーとこっそり食べた時ですわ。
ひっくり返って大騒ぎになりましたの。
「エマ、この手紙を届けてくれる?」
書き終えた手紙をエマへ渡します。
お騒がせしたので、シュザンヌ様へお詫びの手紙ですわ。
「分かりました。それとお嬢様、夕方には旦那様と奥様がこちらに着きますので、それまでには二日酔いを治して下さいね」
「お父様達が?来るのはもっと後になるかと思ったのに?」
「大切なお客様がいらっしゃるそうですよ。お嬢様もきちんとした格好でお迎えする様にと、連絡が来ました。ですから、お酒を抜く為に護身術でもレッスンして、汗をかいたらどうです?」
「汗をかくとお酒って抜けるの?」
「じっとしているよりは早く抜けます」
「分かったわ。やってみる!」
エマに勧められた通り、汗をかいたらスッキリしました。
あ、護身術っていうのは、以前の誘拐事件後に習い始めた、東方の体術の事ですの。
フー!いい汗かきました。
入浴を済ませ、夕方近くから身支度に取り掛かります。
エマとあと2人のメイドが、私の髪をセットしたり、メイクしたりと、忙しく動き回っていますわ。
「お客様がいらっしゃるだけなのに、飾り過ぎじゃないかしら?」
「いいえ!大事なお客様なんですよ。お嬢様は大人しくしていて下さい!」
「はぁい」
エマには敵いませんわ。
身支度もすっかり整い、玄関近くのサロンでお茶を飲んでいると、表が騒がしくなりお父様達が入って来ました。
「エリー!」
「お父様、お母様、随分お早いお着きですね」
「当たり前だろう!私達の可愛いエリーが、大人になってしまうんだ!」
「?」
「フランシス!準備は出来ているか?」
「旦那様全て整っております」
「よし!後は到着を待つか。我々も支度をしよう!メリッサ、急いで支度を整えて!」
「ええ貴方。あ、エリーはここでお客様をお迎えしてね。私達は身支度を整えて来ますから」
「はぁ?えっ!お客様って?」
「忙しいわ!エリー後はよろしく」
両親は慌ただしく二階へ上がって行きます。
大人って何の事?
えっ?お客様って誰?
なんだか訳が分かりませんわ。
仕方ないから、言われた通りにしますけど。
サロンで待つ事およそ30分かしら?
お客様が到着されたみたいね。
表が騒がしくなりました。
私は玄関の扉へ急ぎ、お迎えの準備。
どんな方かしら?大事なお客様って私の知っている方かしら?
扉が開き、黒髪の良く知った顔が現れました。
「えっ!?お、お客様って、えっ?」
「やあリーゼ。今日も一段と可愛いね」
「な、どうして‥?」
「ご両親に許可を頂く為に連絡したら、今日招待されたんだ」
「許可って、お仕事関係ですの?」
「何を言っているんだい?昨日言っただろう?」
「?」
「覚えてないとは言わせないよ」
「え、ええと、どの話でしたっけ?」
「僕等の婚約さ」
「!!!!!!」
えー!!昨日の今日ですわよ?
展開が早過ぎません?
読んで頂いてありがとうございます。