投資
あんまり抱きついたまま離れないから、くすぐってみましたわ。
効果アリですわね。
脇腹が弱いのは知っていますのよ。
パーティ会場へ入ると、招待客が一斉に私達を見ました。
当然ですわね。注目度No.1のイケメンと、金ヅルNo.1の令嬢がパートナーとして現れたのですもの。
ザワザワと騒がしくなった人垣を掻き分け、シュザンヌ様を探します。
隣のティエリーは、私の腰に腕を巻き付け何故か上機嫌。
私はいい広告塔になっているのかしら?
「エリーゼ様!お会いしたかったわ!」人垣の中からシュザンヌ様が現れました。
「シュザンヌ様!私も!本当に本当におめでとうございます!」
シュザンヌ様が現れたのをチャンスとばかりに、ティエリーの腕からスルリと抜け出して、シュザンヌ様に駆け寄りました。
「シュザンヌ様、なんだかお綺麗になられましたね。お顔が輝いていますわ。お相手の方はきっと素敵な方なんでしょう?」
「エリーゼ様ったら、ご自分のお顔を鏡で見てご覧なさい。大きくてキラキラした紫色の瞳や、愛らしい唇。フワフワと揺れる金髪なんて、まるで天使の様だわ。私など足元にも及びませんわ」
「ダメダメ私なんて!単なる金ヅル女ですし。全然!ちっとも!可愛くないわ」
「あら、貴女の隣の方はそうは思っていない筈だわ」
いつの間にか、隣にはティエリーが!
そしてまた腰には腕を巻き付けられました。
「シュザンヌ嬢、この度はお祝い申し上げます。それと、先日はご助力感謝しています」
「私が協力するのはあの一度だけですわ。どうやらあまり上手くいってない様ですけど?」
「中々手強い相手なんで。でも、僕は諦めませんよ!」
「私の大切な物を預けるのですから、傷付けたら勘弁致しませんわよ?」
「僕にとっても大事な宝物です。全力で手に入れてみせますよ!」
何の話?
ええと、投資かしら?
シュザンヌ様から、火の粉が飛び散って見えるのは私だけ?
「シュザンヌ様、婚約者の方をご紹介頂けないかしら?」
「まあ、私ったら!フフッ。連れて来ますので、ここでお待ちになって」
シュザンヌ様は婚約者の方を探しに行かれたわ。
聞いてもいいかしら?
気になるんだもの、聞いてもいいわよね?
「シュザンヌ様に事業の協力をお願いしたのですか?
投資とか?」
「うん、まあ、そんなところかな。手強い相手でね」
やけに歯切れが悪いわね?
「私にも何かお手伝い出来ますか?」
「君は僕の隣にいてくれればいいんだ。それだけで僕は幸せだよ」
ふ〜ん。肩書きという広告塔に精を出せって事なのね。
「エリーゼ様、お待たせ致しました。こちらが私の婚約者のフランツ・ジュール様ですわ」
シュザンヌ様の婚約者フランツ様は、少し丸顔のホンワカした雰囲気の方ですわ。
「はじめまして!エリーゼ・ド・ユリテーヌと申します。こちらはパートナーのティエリー・ランドゥール様」
「シュゼから聞いていた通り、天使の様に愛らしい方ですね。ランドゥール君は僕の1学年下だから、良く知っているよ」
「お久しぶりです。お祝い申し上げます」
「しかしランドゥール君、君が婚約したとは聞いていないよ?これからなのかい?」
あ、やっぱりこの場は婚約のお披露目会なのね。
焦りますわ。
「手続きが完了次第発表する予定です。僕としては明日にでも発表したいんですけどね。リーゼを早く僕の婚約者にしないと心配ですよ」
まあ!流れる様に嘘をつきますのね。
演技派ですわ。
「僕もシュゼと出会ってから、毎日そんな気持ちだったよ」
フランツ様は優しくシュザンヌ様を見つめました。
お熱いですわね。
シュザンヌ様も頬を染めて、本当に可愛らしい!
私達みたいな見せかけの仲とは格が違います。
「ランドゥール様、エリーゼ様はとても純真で天然なところがありますの。小細工はそのまま受け取るし、はっきり言わないと伝わりませんわ。良く胸に留めて下さいませ」
「‥‥肝に銘じます」
「まあ、シュザンヌ様ったら!私だってきちんと分かっていますわ!」
「ほほほ!本当、エリーゼ様は可愛らしいわ。どうか幸せになって下さいな」
「なれたらいいなと思いますわ。フランツ様、シュザンヌ様を幸せにして下さい」
「もちろんですよ。君達の婚約披露には是非呼んで下さい」
「‥‥ええ」
挨拶が終わったら、どっと疲れが出ました。
嘘をつくのは向いていませんわ。
ティエリーはさっきから、黙って何かを考えているみたい。
投資の事かしら?
読んで頂いてありがとうございます。