おまけ
ユリテーヌ家の結婚式から2ヶ月後、僕とシュゼは結婚式を挙げた。
シュゼの満足のいくウエディングドレスを着せてあげられた事は、非常に喜ばしい事だ。
僕のシュゼは本当に美しく、誇らしく思えた。
晴れて夫婦となり、シュゼは僕の事を"あなた"と呼ぶようになった。
夫となった相手を"あなた"と呼ぶのは、シュゼの昔からの夢だったらしい。
少々照れ臭いが夫婦になった実感が湧くから、これはこれでいいのかもしれない。
シュゼの夢は叶えてやらないと。
「私、奥様らしくしますわ」
と言ってシュゼが始めたのは庭いじりだ。
活動的な彼女は、刺繍や読書があまり好きではないらしい。
外に出て余計な事に首を突っ込まれるよりは、庭いじりの方がよっぽどましだと思い、シュゼのやりたいようにさせている。
母上もシュゼと一緒に楽しんでいるようで、僕よりよっぽど気が合うらしい。
そんな様子で結婚生活の最初の3ヶ月は、あっという間に過ぎていった。
「アイザックの準備は整いました。新しいギーズ侯爵として、いつでも発表出来ます。いつ頃発表しますか殿下?」
「半月後が良いだろう。披露目はせず、発表だけでな。今後ギーズ侯爵には公の場は避け、領の管理や情報収集に精を出して貰う。面会を希望する貴族達には、体が不自由な為誰にも会えないという噂を流してくれ」
「分かりました。アイザックは殿下の見込み通り、いい働きをしてくれる事でしょう。やはり餌が効いていますね」
「アイザックには働きに応じて褒美も与えねばな。まだ先になるが。ところでフランツよ、妻君は息災か?」
「はい。毎日庭いじりに精を出しています。そのせいか、最近は寝てばかりいますが」
「ハッハッハそれは平和で何よりだ。今日はもう帰って、妻君の体を労ってやりなさい」
「それではお言葉に甘えて失礼させて頂きます」
「うむ。くれぐれも妻君を大事にな」
「ありがとうございます」
何故か殿下はシュゼを気にしていたが、珍しく興味を持ったのだろうか?
まあ、お陰で陽の高いうちにシュゼの元へ帰れるのは有り難い事だ。
家に帰ったら夕食前だというのに、シュゼがうたた寝をしていた。
「シュゼ、起きて。こんな所で寝ては風邪をひくよ」
「‥‥う‥ん、あなた‥お帰りになってましたのね。私ったら、お迎えもしないでごめんなさい。とにかく眠くて」
「庭いじりも程々にしないと。そんなに疲れるまでやっては駄目だよ」
「今日はやっていませんわ。最近眠くて体が動きませんの」
もしや殿下がシュゼの体を労ってやれと言ったのは、何かの病気にかかっているという事なのか?
僕は直ぐに執事を呼び、主治医を手配する様に指示を出す。
「大丈夫ですわあなた。眠くてだるいだけですもの。疲れが溜まったのよきっと」
「いいや、きちんと医者に診てもらおう。君は最近寝てばかりだし、食事だって果物ばかりでロクな物を口にしていないじゃないか。君に何かあったら、僕は生きていけないよ」
「大袈裟ですわね。あなたを置いて死んだりしませんわ。でもそこまで仰るなら、診てもらいますわ」
「そうしてくれ。何もなければそれでいい」
僕はシュゼに口付けて、不安を隠すように抱きしめた。
暫くすると主治医がやって来た。
診察に邪魔だからと、僕は部屋から追い出された。
シュゼの側に付いていたいが、子供の頃から診て貰っている主治医だから逆らえない。
落ち着き無くウロウロと廊下を行ったり来たりしていると、主治医が笑顔で僕を呼んだ。
「若様、おめでとうございます!」
「は?何がだ?シュゼの一大事にめでたい事などあるわけがない!シュゼは大丈夫なのか?」
「ですから、おめでたですよ若様!」
「だから、めでたくなど‥‥おめでた?」
「はい。奥様は妊娠3ヶ月です」
「えっ?」
驚いてシュゼを見ると、ほんのり頬を染めて微笑んでいた。
「あの、喜んでくださいます?あなた?」
僕はシュゼの手を握って額や頬に何度もキスを落とした。
「こんなに嬉しい事はない。いつだって君は僕を驚かせるんだ!」
「フフフ‥私幸せですわ。これからはお腹の子供の為に大人しくしていないといけませんわね」
以前殿下が言った言葉を思い出す。
「結婚して3ヶ月もすれば大人しくなるだろう」
殿下も人が悪い。
分かっていてわざと言ったのだ。
それでも僕はこれ以上ないくらい、幸せなのだから仕方がない。
シュゼを守る事が僕の生き甲斐なのだから。




