財産を増やしていきましょう
真っ白なウエディングドレスに身を包み、鏡に向かって深呼吸をします。
「お嬢様、良くお似合いですよ」
エマがドレスの裾を直しながら、声を掛けてきました。
「どうしましょうエマ!緊張してきちゃった!」
「今更ですよ。お嬢様は緊張しているくらいが丁度いいんです」
「酷いわね。いくら私だって流石に自分の結婚式で無茶しないわ!」
「結婚式で無茶出来る人がいたらお目にかかりたいですよ。その様子なら緊張も解れたようですね」
エマには敵いませんわ。
コンコンとドアがノックされ、お父様が入ってきました。
「エリー準備は出来たかい?そろそろ行くよ」
「はいお父様。準備万端ですわ」
「エリー‥‥綺麗だよ。まるで女神様のようだ」
「言い過ぎですわ。でもありがとうお父様。それから今日まで慈しんで下さって感謝しています。これからはティエリーと2人、力を合わせてユリテーヌを守っていきます」
「エリー〜〜!!」
「旦那様!泣く必要はありませんよ!お嬢様はお嫁に行くのではありません!」
「あ、そうだった!お婿に来るのはティエリー君だ!」
エマにピシャリと突っ込まれて、お父様も冷静になりました。
お父様にエスコートされながら、教会大広間へと向かいます。
細かい彫刻の施された一際大きな扉を開けると、真っ赤な絨毯が祭壇へと続き、その途中には白いタキシードに身を包んだティエリーが立っています。
髪を後ろに撫で付けてこちらを見つめる姿が、本当に素敵で頰が熱くなりました。
今絶対顔が赤くなっているわね。
ベールを被っているお陰で助かったわ。
それにしても私の旦那様はなんて素敵なんでしょう!
ティエリーの元へ辿り着くと、お父様はエスコートをティエリーに譲り、座席に移動しました。
ティエリーの左腕に手を添えて、祭壇へ一歩ずつ進みます。
「リーゼ綺麗だよ。世界一の花嫁だ」
私にしか聞こえない声の大きさでティエリーが囁きます。
「貴方こそ、本当に素敵だわ」
私も同じく囁きました。
祭壇へ辿り着くと神父が式を粛々と進行していきます。
「では、指輪の交換を!」
神父の声に合わせてお互いに向かい合い、祭壇に用意された指輪をお互いの左手の薬指に嵌めました。
「これより2人を夫婦と認めます。誓いのキスを」
ティエリーは私のベールを上げて、そっとキスをします。
その瞬間に招待客から盛大な拍手が巻き起こりました。
シュザンヌ様、フランツ様、ダゴベール夫妻、お父様、お母様、ランドゥールのご両親とお義兄様、チェン師匠‥‥その他沢山の人々に祝って貰い、感激して目が潤んできます。
そんな私の目元をティエリーがハンカチで押さえ、式場をゆっくりと後にしました。
披露宴会場はポリニュー邸で行います。
私達にとってあまりいい思い出はありませんが、だからこそ新しい出発の場に相応しいと、2人で相談して決めました。
中の改装も終わり、これからは披露宴会場としても利用出来る様にしていくそうです。
私達はその初めてのカップルとなる訳ですが、いい宣伝になる事でしょう。
どうか辛い思い出の多いこの邸が、沢山の幸せに包まれます様に!
披露宴では、沢山の招待客から祝福を受け、目も回る程の忙しさでした。
やっと全員が帰路に就き、落ち着けたのは深夜近くです。
そして今夜は2人だけで過ごせる様にと、王都で1番格式の高いホテルのスイートルームをお父様が用意してくれました。
「疲れたかいリーゼ?」
「少し。でも沢山の人々に祝福して貰って、とても幸せだわ」
「今日から僕もユリテーヌだ。これで君にランドゥール様なんて呼ばれなくてすむよ」
「あら?貴方は私の財産目当てなのではなくて?」
「そうだね。僕は君というかけがえのない財産を手に入れて、これからもっと増やしていくんだ。僕等の子供という財産をね」
「フフフ。最初はあんなに貴方の事が苦手だったのに、今は貴方の隣にいられてとても幸せよ」
「僕は君と初めて出会った時から、ずっと君を愛している。これから先もずっと愛し続けるよ。覚悟はいい?」
「覚悟ならとっくに出来ているわ‥‥」
これから先も貴方と2人で、沢山の愛という財産を増やしていきましょう。
ここで本編完結となります。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
この後は、番外編を少し更新して行く予定です。
良かったらもう少しお付き合い下さい。




