面会
暗くジメジメとした石造りの廊下を案内されるままに付いて行くと、こんな場所には不釣合いな上等な椅子が二脚並んで置いてありました。
「こちらで暫くお待ち下さい」
私達はその椅子に腰を下ろし正面を見ると、向かい側には鉄格子があり、その奥には粗末な椅子が一脚ありました。
フランツ様から連絡があったのは一昨日の事。
まだ先になると思っていたのに、急遽ヴィヴィアンヌ様と面会する事になったのです。
理由はアインの容態の悪化。
生きる気力を無くしたアインは、どんなに食べさせようとしても、水分以外は受け付けなくなったという事です。
シュザンヌ様とは事前に打ち合わせをする予定でしたが、急な展開に全く打ち合わせが出来ず、ぶっつけ本番でやってくる他ありませんでした。
「大丈夫ですわ。私がついていますエリーゼ様」
学園時代に何度も聞いたその台詞は、自然と心を落ち着かせてくれます。
シュザンヌ様は本当に頼もしいのです。
先代の日記にはペール卿に関する重要な情報が載っている事もあり、ヴィヴィアンヌ様に読ませるページだけを開いて、四角いガラスのケースに入れて持って来ました。
ギーズ侯爵に関する記述も見せてはいけないそうです。
ですから、先代が身重の娘を邸から追い出したという事が書かれたページのみになりました。
膝の上にガラスケースを置いて、向かい側の椅子をじっと見つめ深呼吸します。
カチャンと鉄格子を開ける音がして、刑務官とヴィヴィアンヌ様が入って来ました。
私とシュザンヌ様は、ヴィヴィアンヌ様の変わり様に驚き、一瞬言葉を無くしました。
艶やかだった赤毛は輝きを無くし、右側に三つ編みで一つに纏めてあります。
顔色は蒼白で目の下には薄っすらとクマが浮かび、何の飾りもない灰色の薄汚れたドレスで身を包んでいました。
ヴィヴィアンヌ様が中央の粗末な椅子に腰を下ろすと、刑務官は入り口の前に立ちました。
ヴィヴィアンヌ様は私達を見て睨みつけます。
最初に口を開いたのはシュザンヌ様でした。
「ごきげんようとでも言っておきましょうかしら?あんまりご機嫌はよろしくなさそうですけど」
「‥何しにいらっしゃったの?わざわざ私を笑いにでも?だとしたら悪趣味ね」
ヴィヴィアンヌ様は片方の口の端を上げて、皮肉っぽい笑顔を浮かべました。
「勘違いしないでちょうだい。誰が好んで貴方の顔なんか見たいものですか。用があるからわざわざやって来ただけですわ」
「あ、そう。でも私には用がないので失礼させて頂くわ」
そう言ってヴィヴィアンヌ様は立ち上がろうとしました。
シュザンヌ様!ちょ、初っ端から煽りすぎですわ!
オロオロとシュザンヌ様を見ると、ニヤリとしています。
「いつもながら虚勢の張り方は天晴れね。貴方にはそれしか無いんですものね。そうやって虚勢を張って自分を守るしか能がないのよ。逃げ出す事の言い訳の代わりに」
シュザンヌ様がそう言うと、ヴィヴィアンヌ様は立ち上がり私達の前の鉄格子を掴みました。
「虚勢ですって?逃げ出す?誰が貴方達ごときに!!」
奥歯からギリギリと音が聞こえそうな程、苦々し気に噛み締めています。
すると刑務官はヴィヴィアンヌ様へ鞭を振り下ろしました。
「あうっ!!‥」
ヴィヴィアンヌ様は痛みを堪え顔は苦痛に歪みます。
刑務官は更に何度も振り下ろし、ヴィヴィアンヌ様はその度に体を弓の様に反らしました。
「やめて!!」
私は堪らず叫びました。
「ですが反抗したら鞭打ち10回と決まっています」
刑務官は無表情に答えます。
「私達の話が終わるまで手出し無用よ!!逆らったらユリテーヌが許しません!!」
すると刑務官は顔色を変え、無言で元の位置に戻って行きました。
ヴィヴィアンヌ様はハアハアと荒い呼吸をしながら、私を見て言いました。
「‥‥礼は‥言わないわ。ご立派な公爵令嬢様。上からの眺めはさぞや景色のいい事でしょう」
ヴィヴィアンヌ様は皮肉たっぷりに私を睨みつけました。
私は今からこの方と、しっかり話をしなければいけません。
縮み上がっている場合ではないのです‥
読んで頂いてありがとうございます。




