ユリテーヌの性分
夕方ダゴベールが帰って来たので、昼間のアリノール様とのやり取りを話しました。
「僕はアリノールを全面的に信頼しているから、彼女の案には異議を唱えないよ。ただ、何故エリーがそこまでしてやらなければいけないんだい?ティエリーが反対する事に僕が賛成すると思うの?」
ダゴベールにズバリと切り捨てられてしまいました。
何故と聞かれて、はっきりと答えられない自分もいます。
私のこの気持ちは単なる同情とか、偽善といった物なのでしょうか?
「とにかく、エリーがどうしてもそうしたいと言うならば、ティエリーの許可も取るべきだ。僕はそれしか言えないよ。エリーはもう子供じゃないし、これからティエリーと夫婦になるんだから、2人で話して決めるべきだよ」
「‥‥分かったわ。でもティエリーはこの件について話したがらないんですもの。どうしたらいい?」
「今日迎えに来るんだよね?僕等も一緒にいるから、きちんと話し合ってごらん」
「ありがとうダゴベール!」
アリノール様は黙って聞いていましたが、笑顔でダゴベールに言いました。
「厳しくしようとしたんでしょ?エリーちゃんが危険な目に遭わないように。でもやっぱり貴方はエリーちゃんには甘いのよね」
「当たり前だろ。可愛い妹なんだから」
「ウフフ。分かっているわ」
素敵なお兄様とお姉様です。
夕食はやっぱりマルゴお義母様から呼ばれて、ランドゥール邸で摂る事になりました。
伯父様と伯母様は出掛けた先で友人と会ったので、外食して帰ると連絡がありました。
私を迎えに来たティエリーとダゴベール、アリノール様、マルゴお義母様、私とで夕食です。
「エリーちゃんはチキンが好きだったわよね。はい、あ〜ん‥」
「母上!リーゼには僕が食べさせるから邪魔をしないで下さい!」
「相変わらず意地悪ね、貴方は。いつもエリーちゃんを独り占めして」
「リーゼは僕の妻になるんですからね。世話をするのは僕の役目です」
「2人共、私は自分で出来ますから」
ダゴベール達は「相変わらずね」と言って笑っています。
ランドゥール家の人達はどうも私に構い過ぎますね。
こんなに愛情を注いでくれてありがたいことではありますが。
夕食を終えて渋るお義母様をなんとかなだめて、ダゴベールの家に戻って来ました。
サロンでお茶を頂きながら、ダゴベールが切り出しました。
「ティエリー、エリーの話を聞いてやってくれないか?最初に言っておくけど、僕はティエリーが反対している事をエリーに勧めようとは思わない。だけど君が納得して2人が合意したのであれば、僕達は協力する事にするよ」
ダゴベールらしい言い方です。
公平で思いやりのあるダゴベールの言い方には、ティエリーも否とは言えないのです。
ティエリーは何の話か薄々気付いているらしく、長い溜息を吐きましたが、それでも黙って頷いてくれました。
私は今日アリノール様と話した事全てをティエリーに話し、アリノール様が提案した事を実行に移したいと伝えました。
「何故リーゼはそこまでしてやりたいと思うの?僕には理解出来ないよ。自分に危害を加えた相手にそこまでしてやる義理はないんだ」
ダゴベールと同じ事を言われました。
何故?
答えはさっきより明確に見えてきています。
私にしか理解出来ないのかもしれない。
でもそうでないのかもしれない。
そして私は出来るだけ分かり易く答えを伝えなければならないのだわ。
「自分に危害を加えた相手だからといって、それら全てを悪だとは思えないのは、ユリテーヌの血を受け継ぐ者の性分なのかもしれないわ」
「どういう意味だい?」
「ドミリオ王国を知っているでしょ?」
「ああ。確か土地は痩せているが周辺諸国との貿易が盛んな国だね」
「貿易が盛んに行われているという事は、それだけ多くの安くて品質の良い物が出回るという事だわ。でもドミリオ王国は頑なにユリテーヌ産ワインの輸入量を守っているの。他にどんなに安くて美味しいワインが入ってきてもよ。何故だと思う?」
「何故って‥‥あっ!」
ダゴベールも分かったらしく、成る程と言って頷いています。
「ユリテーヌ領民なら誰でも知っている、3代前のご先祖様の行なった偉業のお陰だわ。かつては侵略しようとしたドミリオに対して、相手が疲弊したら援助を申し出たの。これが私の言うユリテーヌの性分なのよ。もちろん私など足元にも及ばない立派な行いだわ」
「‥‥君は‥‥」
「正しいとか、間違っているとかそんな理屈ではなく、今困っている人に対して何が出来るかなの。私だって以前なら絶対ティエリーと同じ考えだったと思うわ。でもティエリーは私に沢山与えてくれたじゃない?だからこそ私はその尊さをヴィヴィアンヌ様に知って貰いたいの!」
「僕が‥?君に何を?」
「愛よ」
「リーゼ‥」
「ティエリーが教えてくれたのよ。人を愛する尊さを。アインは死からは逃れられない。でもアインのヴィヴィアンヌ様に対する愛は無償の愛だった。それを知らせないままアインを死の世界へ旅立たせるのは、私にはどうしても出来ないの。それが何故と聞かれた私の答えよ。分かってくれるかしら?」
「‥‥僕は、やっぱり反対だ。でも結局君には甘いんだよ。どうしたって君のやりたい事には協力したくなってしまうんだからね」
「ティエリー!!」
私は立ち上がり、ティエリーに抱き着きました。
ティエリーは私を抱き上げて膝に乗せます。
「エリー、ティエリーの許可を取れたからには、僕等も約束通り協力するよ。だけど決して無茶はしないようにね!」
「そうよ、決して引っぱたいたりしないようにね!」
「はぁい」
アリノール様の冗談で皆笑顔になり、私とティエリーは家に帰る事にしました。
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