事件の後は?
甲冑の部屋を出ると長い廊下の先に扉があり、玄関ホールの階段の踊り場の下に出ました。
階段の踊り場にあった絵は隠し扉になっており、私達はそこから甲冑の部屋まで続く滑り台の様な通路へ引っ張られたのでした。
精鋭部隊は数人を残して罪人達を護送して行き、残った数人で現場検証をしています。
私達は玄関ホールの左側にあるサロンへ行き、ソファへ腰を下ろしました。
ティエリーは私の肩を引き寄せ、頭を私の肩に乗せて溜息を吐きました。
「カッコよかったなぁ。リーゼ」
「えっ!な、なんで?」
「バカ女にもアインにも全く怯まなかった。バカ女から剣を取り上げた身のこなしなんか、本当にカッコよかった」
「師匠直伝ですもの。私はチェン師匠に痺れましたわ」
「チェン師匠は人間業とは思えないね。そういえばチェン師匠は?」
「今日は他にレッスンの予定があるから、頃合いを見計らって帰ると言っていたわ」
「これからまだレッスン出来るんだ!化け物かあの人は!」
「フフフ。生まれ故郷の東方の国には、お弟子さんが千人いらっしゃるんですって。国仙と呼ばれているそうよ」
「それじゃあんな烏合の衆敵にもならないね。僕もレッスン本腰入れて頑張るよ。君に少しはカッコいい所見せたいからね」
「カッコいいといえば、シュザンヌ様を守るフランツ様!なぜあのタイミングでシュザンヌ様は現れたのかしら?シュザンヌ様はどこかしら?」
「そうだね。あのタイミングは絶妙だったね。また彼女に助けられたよ。フランツさんとシュザンヌ嬢はどこだろう?」
2人で疑問に思っていると、玄関ホールから声が近付いてきました。
「もう、反省していますわ!降ろして下さいフランツ様!」
「ダメだね。分かっているかいシュゼ?僕は怒っているんだよ?」
「分かっていますわ!許して貰えるなら何でもしますから、降ろして下さい!」
「ダメだね」
フランツ様がシュザンヌ様をお姫様抱っこしたままサロンへやって来ました。
フランツ様は私達の向かい側のソファへ腰を下ろし、シュザンヌ様を膝の上に座らせます。
シュザンヌ様の体はフランツ様にガッチリ抱かれ、逃げられないようにホールドされていました。
シュザンヌ様の顔は真っ赤です。
「シュザンヌ様、本当に助かりましたわ!でも何故あそこにいらっしゃいましたの?」
シュザンヌ様はフランツ様の顔を窺って、話していいか目で訴えています。
「話したいならキス1回だね」
シュザンヌ様は困っていましたが、フランツ様の頰にキスをしました。
「頰はノーカウント。どこがいいか分かるよねシュゼ?何でもするんだろう?」
益々困り顔になるシュザンヌ様に私達も気を利かせて横を向きます。
シュザンヌ様はフランツ様の唇にキスをしたようで、フランツ様が「話していいよ」と言っていました。
「この間フランツ様が1週間以内に片付けると仰っていましたので、私毎日フランツ様の様子を観察しておりましたの。そうしましたら昨夜は私の寝顔を確認しに来ませんでしたし、今朝お出掛けの際には目つきが鋭くなっていましたから、今日だと思ったのですわ」
「えっ!?でもどうやってここを突き止めましたの?」
「それは‥‥」
「シューゼー!話す前にキス1回だよ」
私達はまた横を向きました。
フランツ様は嬉しそうに「話していいよ」と言っています。
可哀想だけどシュザンヌ様が真っ赤で可愛いですわ。
「そ、それでですね、ここを突き止めたのは、実家の者に護送馬車の後を追わせたからですの。フランツ様が片付けるという事は、必ず逮捕者がいるという事だと思って、それなら護送馬車が必要になるだろうと。だから護送馬車が向かった先を聞いて、直ぐ駆けつけましたの。女狐が逮捕される所が見たかったからという気持ちもありましたし。そうしましたら、女狐の姿は何処にも無かったのですわ。でもフランツ様は片付けると仰っていましたから私、絶対何処かにいる筈だと思って、邸の周りを探りましたの」
「シュザンヌ嬢、いつもながらその行動力と洞察力には感心するよ」
ティエリーが褒めるとシュザンヌ様はパッと顔を輝かせました。
「シュゼ?忘れたのかい?僕は怒っているんだよ」
フランツ様に言われて今度はシュンとしています。
う〜んシュザンヌ様、可愛いですわ。
「でも邸の周りを探って、よくあの部屋を突き止めましたわね?」
シュザンヌ様はフランツ様と私を交互に見て、何かを決心したのかフランツ様の耳元で内緒話をしています。
フランツ様が満面の笑みで「約束だよ」と言うと、シュザンヌ様はコクコクと頷きました。
そして安心したのか油断して口を開こうとしたシュザンヌ様に、フランツ様がチュッと音を立てて唇にキスをしました。
シュザンヌ様は真っ赤になった顔をフランツ様の
胸元に押し付けて、恥ずかしがっています。
こんなシュザンヌ様は初めて見ましたわ。
フランツ様って意外と大胆ですわね。
「シュゼはもう話せる状態じゃないから、2、3日後に尋ねてくれないか?今日はお仕置きも必要だからね」
「分かりましたわ。あんまり怒らないで下さいねフランツ様。私達もそろそろ帰ります。シュザンヌ様、ありがとう!大好きですわ」
「フランツさん、シュザンヌ嬢感謝します」
「ほらシュゼ、挨拶していいよ」
「エ、エリーゼ様、ランドゥール様また連絡しますわ。キャッ!」
フランツ様はシュザンヌ様の耳にキスしていました。
フランツ様はお仕置きと仰っていましたが、どう見ても溺愛している様にしか見えませんわ。
シュザンヌ様を助けに現れたフランツ様は、正にヒーロー登場といった感じで、腕の中のシュザンヌ様を必死に守っていらっしゃいました。
何かを約束されたみたいですが、今度会った時にこっそり聞いてみましょう。
フランツ様はシュザンヌ様をお姫様抱っこしたまま「後は部下に任せたから、僕はシュゼを送り届けるんで失礼するよ。シュゼにはお仕置きしないといけないからね」と言って、シュザンヌ様が乗って来られた馬車に乗り込みました。
最後にもう一度挨拶しようと覗いたら、熱烈なキスを交わされていたので空気を読んでその場から離れました。
私達も馬車に乗り、家路を辿ります。
ティエリーが私を引き寄せ、寄りかからせてくれました。
「疲れただろうリーゼ?眠っていいよ」
「ううん、大丈夫。でも暫くこうしていたいわ」
「‥‥終わったね」
「‥‥そうね。やっと終わったわね」
私はティエリーの手を握りました。
「この手が私を勇気付けてくれたわ。離さないでいてくれてありがとう」
「離さないよ。例え君が嫌がったとしても、死ぬまで絶対離さない。覚悟しておいて」
「覚悟なら、とっくに出来ているわ」
2人で顔を見合わせてクスクスと笑い、これから先も2人で困難を乗り越えていこうと、改めて誓い合ったのでした。
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