1週間以内
「おかえりなさいませ。フランツ様」
「シュ、シュゼ、まだ起きていたんだね。ただいま」
寝間着姿の私を見ても、なんだか別の事で焦っている様子のフランツ様に、少し強い口調で続けます。
「あら?私が起きて待っていたら何か不都合でも?」
「そんな事ある訳ないよ。思いがけずシュゼの顔が見られて驚いただけさ」
フランツ様はそう言って私にハグをして頰にキスをしました。
「フランツ様と違って、私は一日中閉じ篭っているだけですから眠くはありませんの」
ちょっと嫌味っぽかったかしら?
でも嫌味の一つも言いたくなりますわよ。
フランツ様、私には分かっているのですからね!
「僕のシュゼはご機嫌斜めの様だね」
「まあ!今頃気付きましたの?それ程に私には関心がなかったという事ですのね。胸が痛みますわ」
「シュゼ、僕の一番大事なのは君だよ!どうか機嫌を直しておくれ」
フランツ様が困り果てた顔をしていますわ。
可哀想だから今夜はこれくらいで勘弁して差し上げましょう。
「それなら暫く2人で過ごしたいですわ。フランツ様は最近全く私とお話もして下さらなかったのですもの」
「それで機嫌を直してくれるなら大歓迎だよ。後で君の部屋へ行くから待っていて」
「約束ですわよ」
「ああ、約束だ」
そう言うとフランツ様は私の唇にチュッと音を立ててキスをしました。
でも私誤魔化されませんわ。
きちんと分かっているのですからね。
私に何か隠し事をしている事を。
ジュール邸に滞在するにあたって私に用意された部屋は、バルコニーから庭全体が見渡せる見晴らしの良い広いお部屋です。
最近は夜バルコニーから月を眺めるのが日課になっておりますわ。
フランツ様がいらっしゃるまで、いつもの様に月を眺めて待ちましょう。
引き篭もり生活を余儀なくされてかれこれ1か月。
ジュールのお義父様やお義母様は良くして下さり、ジュール家の嫁として花嫁修行も進んでおります。
肝心の事件解決にはまだ至りませんので、フランツ様がお忙しいのは分かりますが、私にはここ2週間程のフランツ様の様子がおかしい事が分かってしまいましたの。
私と2人だけになるのは極力避けていらっしゃる。
それなのにどんなに夜遅くなっても、必ず私の寝顔を確認しにいらっしゃる。
何か動きがあるのは勘で分かりますし、私を守る為秘密にしているのも分かりますわ。
問い詰めても絶対教えて下さらないでしょう。
それならば行動あるのみですわ。
「シュゼ体を冷やしちゃいけないよ。こっちへおいで」
いつの間にかフランツ様は私のすぐ後ろに立って、後ろから腕を回して引き寄せました。
背中に体温を感じて見上げると、フランツ様は入浴したばかりの様で、髪は濡れたままで寝間着にガウンという出で立ちが月明かりに照らされ、とてもセクシーに感じます。
フランツ様は後ろから私の耳やうなじ、首筋に何度もキスを落としました。
「くすぐったいですわ。やめて下さいフランツ様」
「やめないよ。2人になりたいと言ったのはシュゼだからね。シュゼをたっぷり愛してる」
私の腰に腕を回し一層強く引き寄せます。
片手が段々上へ這い上がり、私の胸の上で止まりました。
「あっ‥‥」
「そんな声を出したら我慢出来なくなるよ。それとも結婚式前にお腹が大きくなってもいいのかい?」
「それはダメですわ。ですから我慢なさって」
「シュゼを前にして我慢するのは拷問に近いけどね」
「あら、最近はまともにお顔も拝見出来なかった方のセリフかしら?」
「決してシュゼを放っておいた訳じゃないんだよ。本当に忙しかったし、もう少しで色々解決するかもしれないんだ。許してくれる?」
「私が怒っているのは、私に心配させて下さらない事ですわ。フランツ様のお仕事は理解しています。私に話せない事も沢山あるでしょう。ですが側にいるのに何の支えにもなれないなんて、それが一番頭にきますの」
「シュゼ!!」
フワッと足が浮き、フランツ様に抱き上げられたのが分かります。
次の瞬間にはベッドに寝かされ唇を塞がれていました。
深く何度も繰り返されるキスにクラクラしてきました。
フランツ様も呼吸が荒くなっています。
「ああ、愛しているよシュゼ。君は僕の唯一の弱点だ」
「どういう意味ですの?」
「君が人質に取られたら僕は喜んで命を差し出すだろう」
「私にじっとしていろと?」
「そう出来ないのは知っているし、そうしない君が好きなんだ」
「矛盾していますのね」
「そうだね。でも愛しているから仕方がない。ねえシュゼ、結婚式を早めようか?」
「どうしましたの急に?」
「お腹が大きくなる前ならウエディングドレスが着られるだろう?僕はこれ以上我慢出来ない」
「‥‥それなら、エリーゼ様と一緒に式を挙げたいですわ」
「分かった。必ず式までに問題を解決してみせる。それにあと1週間以内には終わりそうなんだ」
「‥‥分かりましたわ。フランツ様にお任せします。忘れないで下さいね。私も貴方を愛していますのよ」
「ああシュゼ!」
フランツ様の理性は宇宙の果てまで飛んで行ってしまった様です。
私の体のあちこちにフランツ様の所有物である印が刻み込まれました。
1週間以内にですのね。
あら、体を使って聞き出した訳ではございませんのよ。
決して。
私は私が思う以上にフランツ様に愛されているのを実感致しました。
読んで頂いてありがとうございます。




