表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
財産目当てと言われました  作者: 栗須まり
3/51

昔話をしましょう

「さあ、キスしましたわよ!もうよろしいでしょう?」

「‥‥うん」

「?ティエリー様?どうかなさいまして?」

「いや、ごめんリーゼ、ちょっと抱きしめさせて」

「は?」

言うが早いか、こうガバッと抱きしめてきましたの。

「な、何をなさるんですか!」

「‥‥うん。暫くこのままでいさせて」

「えっ?ちよ、ちょっと‥」

「静かに‥‥落ち着くまでだから‥‥」

落ち着くって、私は落ち着きませんわ!

あら、随分鼓動が早いんですのね。

気のせいかしら?


そういえば、こんな事以前にもありましたわね。

はっ!私ったら、この人との関係性をお話しておりませんでしたわ!

暫く静かにって言われたので、昔話をしましょう。

聞いてくれます?


我がユリテーヌ領はロワーヌの南側で、王都から大分離れた所にありますの。

温暖な気候と、海沿いの領地は海産資源も豊富で、とても美しい自慢の領地ですわ。

名産品のユリテーヌ産ワインは国内外でも有名で、ロワーヌ王家御用達にもなっておりますの。

従兄弟のダゴベールは、夏になるとよく遊びに来ていましたわ。

ダゴベールは一人っ子の私を、とても可愛がって下さり、私も兄の様に頼っておりますの。

8歳だったかしら?夏になり、いつもの様にダゴベールがやって来ました。

お稽古を終えて、ダゴベールのいる庭まで真っしぐらに走りましたの。

お転婆でしたわ。私。

すると、ダゴベールの隣に黒髪の見た事もないくらい綺麗な男の子がいて、私は一瞬大好きな絵本の中の黒騎士様だと思って、驚いて転んでしまいましたの。

そして、転んだのが恥ずかしくなり、泣いてしまいましたわ。

男の子は素早く私の元へ駆け付けて、抱き起こしてくれました。

ああ、やっぱり黒騎士様は優しい!なんて思っていましたら、チュッ!

えっ!!

私は何が起こったやら分からず固まってしまいましたわ。

するとダゴベールが走って来て「ティエリー!なんでエリーにキスしたの?」って。

男の子は言いました「本物かどうか確認したかったんだ」

私はポカン。

ダゴベールもポカン。

それがこのティエリーとの出会いなんですの。


最初からこの人の言っている事は分かりませんでしたわ。


社交シーズンともなると、我が家も王都のタウンハウスへ滞在します。

母の実家は王都にあり、ダゴベールの父である母の兄が継いでおりますので、当然私は母と一緒に頻繁に出向いておりました。

ティエリーの家はダゴベールの隣。

とはいえ、そんなに顔を合わせる機会はないと思っていましたら、私が出向く度に顔を合わせてしまいましたの。

ダゴベールと仲良しですわね。

お兄様が2人も出来た!なんて喜んで、いつも一緒にいましたわ。

でもティエリーってば、私をからかってばかり。

何かにつけてキスしてきましたの。

「エリー髪に虫が付いてる。とってあげるから目を閉じて」

「えっ!イヤ〜!早くとって!」

「うん。だから目を閉じて」

「うん」

「チュッ!」

「!!!!!!」

こんな感じですわ。

「何故キスするの?」と聞いたら、「エリーが可愛いから」ですって。

私はティエリーにとって特別な存在なんじゃないかって、勘違いしてしまいましたわ。

そんなある日、私が14歳の頃ですわね。領地に戻ってから事件が起こりましたの。

私付きメイドが、情夫と2人で身代金目的に私を誘拐したのですわ。

幸いすぐ発見されて、事無きを得ましたが、暗くて狭い部屋に閉じ込められたのと、信頼していたメイドに騙されたのとで、ショックで一時口が聞けなくなりましたの。

心配した両親は、母の実家に私を預けました。

ダゴベールもいるし、気が紛れるだろうと。

ダゴベールはその頃16歳になって、貴族の子女が通うソワーレ学園に通っておりましたが、毎日早く帰って来て、私の世話を焼いてくれましたわ。

そう、ティエリーも一緒に。

あの時だけはティエリーは優しかったのです。

「エリー、君の好きなお菓子買ってきたよ」と言って、わざわざお菓子を口に運んで食べさせたり、抱きしめて頭を優しく撫でたり。

おかげで私は元通り笑える様になりましたの。

そして、私の勘違いはどんどん膨らんで、ティエリーに仄かな恋心を抱く様になっておりました。


でもそれが勘違いだと気づく迄に、そう時間はかからなかったのですわ。








読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ