決意
結婚式の招待状は頑張って夕方までに全て仕上げました。
結婚式の準備ってもっと大変かと思っていたら、なんとティエリーは婚約する前から結婚式の準備を進めていたらしく、私がやる事といったらドレスのデザインや採寸、招待状くらいしかありませんでした。
婚約する前からって‥‥
聞いた時は驚いたけど「君に断られたら全てキャンセルする予定だったんだ。僕にとっては賭けみたいな物で、何としても君を手に入れるという決心を形にしたかったんだよ」
なんて言われて、まあいいか。それだけ愛されてたのかな?みたいな結論に至りました。
知り合ってから長いですからね。
お互い長い婚約期間はあまり必要としないでしょう。
夕食後に入浴を済ませ、マリアに寝間着に着替えさせられました。
「お嬢様はそろそろお休みの時間になりますからね。本でも持ってきましょうか?」
「そうね。でもまだ寝ないわ。ティエリーに大事な話があるから、起きて待っていたいの」
「分かりました。では冷えるといけないので、ガウンを着て下さい。本は今お持ちします」
「ありがとうマリア」
マリアは3冊本を用意して出て行きます。
寝てしまうといけないので、机に移動してティエリーが帰って来るまで本を読んで時間を潰す事にしました。
夜も更けて日付けが変わる少し前に窓を開けたら、馬の蹄の音と馬車の車輪が軋む音が聞こえました。
慌てて窓を閉め玄関ホールへと急ぎます。
ちょうど扉が開き、ティエリーが入って来ました。
「おかえりなさいティエリー!」
思わず抱き付いてしまいました。
はしたないけど自分の家なら許されるわよね?
「ただいまリーゼ。起きていてくれたんだね」
ティエリーは私を抱き止め、額にキスをしました。
「ティエリーお食事は?」
「済ませたよ。‥‥うん、こういうのいいね」
「何が?」
「君がおかえりって言ってくれるだけで、疲れも吹き飛ぶよ」
「それなら毎晩そうするわ」
「ダメだよ。体が冷え切ってるじゃないか。風邪でも引いたら僕は心配で仕事が手に付かない」
「私結構丈夫なのよ。ティエリーこそ仕事のし過ぎで倒れやしないかと毎日心配してるわ。ほら、顔色だって良くないもの」
ティエリーの頰に触れると、私の手を取ってキスを落とします。
もう!本当こういうのサラッと出来ちゃう所なんて、余裕たっぷりでいつも私ばっかりドキドキしてるんじゃないかしら。
「あのねティエリー、大事なお話があるの」
「なんだい?ここじゃ言えない事?」
「ええ」
「それじゃ後で君の部屋へ行くよ。僕は着替えを済ませてくるから」
「えーと、私達の寝室で待ってるわ。入浴して疲れも取って来て」
私達の寝室と言った辺りから、なんだか恥ずかしくて赤くなってしまいましたわ。
「えっ?私達って、えっ?」
「とにかく待ってるわ」
言い終わるが早いか、一目散に寝室へ逃げ帰りました。
ティエリーはポカンとしてましたけど。
寝室に戻って、窓を開け火照った顔を冷やします。
頭もスッキリしてちょうど良いわ。
これから大事な話をしなければいけないんですもの。
暫くすると扉がノックされ、ティエリーが入って来ました。
ティエリーは窓際の私の元へ真っ直ぐ歩いて来ます。
「こら、ダメだよリーゼ!本当に風邪引くよ」
あ、窓開けっ放しだったわ。
「ごめんなさい!」
「すっかり冷えてるじゃないか。おいで、僕は今風呂上がりで温かいから」
「ええ‥‥」
ティエリーは湯上りで、まだ濡れたままの髪は額に貼り付き、寝間着にガウンという私と同じ格好ながら、いつもより胸元が開いている姿がとてもセクシーに見えます。
抱きしめられて開いた逞しい胸板に押し付けられると、ドキドキがより一層早くなりました。
「リーゼ、その、寝室の事なんだけど、君が嫌なら僕はソファで寝るよ」
「ダメだわそんなの!私は全然嫌じゃないし、ベッドはこんなに広いのよ!2人で寝ればいいじゃない?」
「う〜んそういう意味じゃないんだけどな。僕は君が横にいて、何もしない自信はない」
「何もしないって‥‥あっ!」
気付いて真っ赤になりました。
ティエリーは困った顔をしています。
「その、いいかい?」
「ええ‥‥でも、その前に大事な話があるの」
「さっきも言っていたね。どんな話?」
「私ね、考えたの。このままじゃいつまで経っても危険は去らないって。だから相手をおびき出そうと思うの」
「おびき出すってどうやって?」
「私が囮になろうと思うの」
「ダメだ!!君に何かあるかもしれないのに、僕が賛成すると思うかい?」
「ティエリーなら絶対反対すると思ったわ」
「だったらどうして?」
「私達はユリテーヌ領をこれから先守っていかなければならないわ。でも、ただ守るだけではダメなの。先を見越して行動したり、時には策略めいた事もする必要があるの。今の自分達が置かれた状況さえ打破出来ないとなったら、ユリテーヌ領を継ぐ資格はないわ。お父様はそれを分かっていて、わざと手を出さないでいるの」
「だったら他の方法を考えよう!」
「考えたわ。でも私が囮になるのが一番確実なのよ。他の方法と言ったって、現におびき出すどころか動きさえ分かってないわ。私は囮になるだけ。貴方の側を離れないわ。だから一緒に戦ってくれる?ユリテーヌ領の主人とは、そういう物なの」
「僕は次男で君の様に責任感を持って生きてきた訳じゃない。だからこそ君の一見弱々しい外見とは裏腹に、凛とした強さに惹かれたんだと思う。僕は君が手に入った喜びで、大事な事を見逃していたんだね。君の覚悟程に僕は覚悟が出来ていなかった」
「それじゃ‥‥」
「うん、一緒に戦おう。君の事は僕が命に代えても必ず守る!」
「私だって貴方を守れるわ!チェン師匠直伝ですもの」
「君に守られたとなったら男として情けないよ。でも、君は本当に強いからね。負けていられないよ」
「まあ!フフフ」
「愛してるよリーゼ」
「私も愛してるわティエリー」
ティエリーは私のガウンの紐を解き、肩から床へ落としました。
そのまま唇に深いキスをしながら私をベッドへ横たえます。
「このまま君と愛し合いたい。いい?」
荒い呼吸でサファイア色の瞳を潤ませながら私を見つめています。
コクンと頷くとティエリーはガウンと寝間着を脱いで、私の体中にキスをしました。
そうして私達は一つになり、私は初めてティエリーの温もりに包まれながら、幸せな朝を迎えたのです。
読んで頂いてありがとうございます。




