お父様の思惑
「お嬢様お茶をお持ちしました」
「ありがとうエマ。殆ど終わったわよ」
「やれば出来る子ですからね、お嬢様は。これならあと少しで終わりますね」
仕上がった招待状の山を見て、エマは満足そうに頷いています。
「そうそうお嬢様、旦那様からお手紙が届いておりました」
「やっとお父様達帰って来るのかしら?」
「お帰りになるという連絡は届いておりませんが。とりあえず開封してみてはいかがです?」
エマがお父様からの手紙とペーパーナイフを渡してくれました。
開封して手紙を読んでみました。
「えっ!?お父様達ユリテーヌ領に戻っているんですって。王都には私の結婚式前に来るそうよ」
「そうなのですか?旦那様はよっぽど楽しみなんですね」
「何が?」
「お嬢様のお子様です。ですから若旦那様と2人きりにさせて‥‥」
「ちょ、ちょっと、な、何それ!?確かに今ティエリーには一緒に住んで貰っているわよ。でもそれはあんな事件があった後だし、何よりまだ危険が去った訳じゃないからで、それはお父様達にも手紙できちんと説明してあるわ!」
「ええ。旦那様は分かっていらっしゃいます。ですがお嬢様、旦那様はああ見えて策略家ですよ。少ないチャンスは必ず物にする方です」
「チャンスって‥‥もう!そんな事の心配より、私の身の安全を心配して欲しかったわ!」
「きちんと心配しておられますよ。ですが旦那様は、お嬢様と若旦那様がどの様に危機を乗り越えられるのかも観察しておられます」
「えっ?」
「ユリテーヌ領は広大で、豊かな土地です。誰もが手に入れられる土地ではありません。その為常に狙われて参りました」
「ええ‥」
そうなのよね。実際3代前のユリテーヌ公は、海賊に扮したドミリオ王国から侵略されそうになったのだわ。
その危機を乗り越える為ユリテーヌ公は、海賊がドミリオからの攻撃であるという証拠を手に入れ、周辺諸国へ国際問題として働きかけ、戦わずしてユリテーヌ領を守ったのだわ。
侵略しようとしたドミリオは元々が痩せた土壌の上に成り立っていたので、周辺諸国から経済制裁を受けると、食糧危機が起こり戦争どころではなくなってしまった。
そこへ手を差し伸べたのがユリテーヌ公で、ドミリオは終生ユリテーヌに忠誠を誓ったと教わったわ。
実際ユリテーヌは今ドミリオにかなりのワインを輸出しているし。
ユリテーヌ領では誰もが尊敬するご先祖様。
「お嬢様と若旦那様が受け継ぐのは、そういった領なのでございます。ですから旦那様は自分達でなんとかしなさいというお心づもりなのでしょう。もちろん、どうにも出来ない時は旦那様が手を下すおつもりでしょうが。そして、あわよくばお孫様のお顔もご覧になりたいのでしょう」
「お父様の気持ちは分かったわ。でも、孫って!私達はまだ結婚前よ!」
「あと1ヶ月半で結婚式ではありませんか。その間に妊娠しても体型には支障が出ませんから、ウエディングドレスの仕立て直しもいりません」
「もう!エマったら!聞いてる私が恥ずかしいわ」
「何を仰るんですかお嬢様。貴族の令嬢にとって一番重要な仕事は、跡継ぎを産む事ですよ。旦那様の意図は分かりましたので、今夜から寝室は若旦那様と一緒に致しますね」
「ちょ、ちょっとエマ!」
「反論は聞きませんよお嬢様。今現在私の雇い主は旦那様ですから。旦那様の意思に従うのが使用人の務めです」
「うっ‥‥それを言われると何も言えないじゃない」
「観念なすって下さいねお嬢様」
エマには敵いませんわ‥‥
でも、お父様の思いは分からないでもないわね。あ、孫の事ではありませんわよ。
私達がユリテーヌ領をどう守っていくか。
ただ領の管理だけしていればいいという訳ではないという事も。
だからやはり、先手を取ってあの計画を進めるべきなんでしょうね。
シュザンヌ様の言葉を借りると「狐狩り」という事になりましょうか。
どんなにティエリーが反対しても、やるべきなのだわ。
あ、喧嘩になってしまったら、寝室は一緒だからどうしましょう!
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