2週間後
「フゥ‥‥」
「まあお嬢様!また溜息ですか?」
「うっ!だって、私何にも出来ないんですもの」
「今は焦ってもしょうがありません」
エマにお説教をくらってしまいました。
「若旦那様も仰っていたではありませんか。お嬢様が動く事が一番危険だと」
「わ、若旦那様って、まさか‥‥」
「ランドゥール様に決まっているではありませんか。あと一月半もすれば正真正銘の若旦那様になられますから」
うわっ!!な、なんだか照れ臭いですわ。
顔が熱い!
「お嬢様もそろそろ呼び方を変えねばなりませんね」
「えっ?なんで?」
「お嬢様は奥様になられるんですよ。いつまでもお嬢様呼びではいけません」
「えー!私はお嫁に行く訳じゃないわ」
「行かなくとも、けじめはけじめです。ですからお嬢様の事は今後若奥様とお呼び致します」
ひゃ〜!!
照れ臭いですわ!!
思った以上に照れ臭いですわ!
顔から火がっ!!
「早く慣れて下さいね若奥様。その内にお母様と呼ばれる日も来ますから」
エマはニヤリと笑いながら半分面白がっています。
「エマ、面白がってるでしょ?」
「若奥様があんまり溜息ばかりなさるので、これでも心配してるんですよ」
「ま、待って!とりあえず結婚式が終わるまでは今迄通りに呼んで!‥‥照れ臭くって」
「わかりましたお嬢様。それより溜息ばかりついていないで招待状を書き終えて下さい。後でお茶をお持ちしますので、その時どれくらい進んだかチェックしますよ」
「はぁい。手厳しいわエマは」
「当たり前ですよ。私はお嬢様を箱入り娘に育てた覚えはありません。それに、もう日数もあまりありません。急いで仕上げて下さいね。ご自分の結婚式なんですから」
「はぁい」
エマには逆らえませんわ。
机に向かい、黙々と結婚式の招待状を仕上げていきます。
集中して何かしている方が余計な事を考えずに済んで、気が紛れますわね。
エマもそれが分かっていてああ言ったのでしょう。
あの男に攫われた事件からそろそろ2週間。
ティエリーは次の日から私の願い通り我が家に住んで、仕事以外では一緒にいてくれます。
護衛も5人雇って、常に私の周りを守ってくれています。
この2週間、びっくりする事件が次々起こって、目まぐるしい変化が国内を騒然とさせていました。
びっくりする事件の一つは、ポリニュー侯爵の逮捕です。
ランドゥール商会への不正横領と、麻薬栽培に関わった罪、更には借金返済の為の詐欺まで行っていたそうです。
侯爵は爵位も侯爵領も屋敷も全て奪われ、判決が出るまで投獄されているとティエリーが説明してくれました。
もう一つはペール伯爵。貴族院議員の重鎮としてかなりの権力者だったペール卿は、ポリニュー侯爵領で麻薬を作り、ランドゥール商会の販売ルートを使って外国へ売り捌き、私腹を肥やしていたと新聞に載っていました。
そして私の誘拐事件もペール卿が絡んでいたそうです。
捕らえたフリッツや御者の証言から、ペール卿の庶子であるマンティスという男が馬車の手配や計画を行ったという事実が分かったそうです。
ですが今だに警戒を緩めないのは、ヴィヴィアンヌ様と麻薬販売の実行犯、支店長をしていたアインの行方がまだ分かっていない為ですわ。
シュザンヌ様の手紙には、フランツ様から絶対に外出しないよう釘を刺されたと書いてありました。
フランツ様が仰るのだから、かなり信憑性がある事が分かります。
あれから2週間、相手はどの様に私を観察しているのでしょうか?
そしていったい何処にいるのでしょうか?
様々な不安がよぎる中、私はチェン師匠に護身術以外を習い始めました。
師匠曰く「攻撃は最大の防御」だそうです。
私もただ守られているばかりじゃありませんわ!
最初は反対したティエリーですが、フリッツから身を守ったのが護身術のおかげだと知ると、仕方なく許してくれました。
「僕もリーゼを怒らせない様にしないとな」
なんて冗談言ってましたけど、ティエリーもチェン師匠に時間の許す限り稽古をつけて貰っていましたから、半分本気かもしれませんわ。
それにしてもティエリーは朝早くから夜遅くまで働き詰めで、その上稽古までこなして体を壊さないか心配です。
私が出来る事は何だろうと考えると、やっぱり溜息を漏らしてしまいますわね。
そこでちょっとした計画を思い付いたので、今晩ティエリーに相談してみようと思います。
まあ反対はされるでしょうが‥‥
読んで頂いてありがとうございます。




