北の離宮の密談2
皮袋を開けると中から地図が出て来た。
「フランツよ、今から行ってこの地図の場所にある物を取って来てくれないか?」
「直ちに!」
フランツは北の離宮から部下を2人連れて、地図にある王都の西の外れの廃村へ向かった。
地図の印は廃村の真ん中の小川の右側を指し、そこにはあばら家がある。
辿り着いた時には既に日が暮れていたので、部下が火を起こしトーチを作って辺りを照らした。
あばら家の扉を開けると思いの外綺麗に片付いていて、最近誰かが掃除をした形跡がある。
トーチで足元を照らしながら、フランツは慎重に進む。
かつては家族が住んでいたのだろう。子供の座る小さい椅子とぬいぐるみが暖炉の前に置いてある。
ぬいぐるみには「アイン」と書かれていた。
ここはアインの生家なのか‥‥
恐らくぬいぐるみが何らかの目印なのだろう。
わざわざ目立つ場所に置いてあるというのがその証拠だ。
フランツは椅子を退けて部下と一緒に椅子のあった場所を隈なく調べてみた。
床板に切れ目が入っており、叩くと音の違う箇所がある。
部下が床板を持ち上げると簡単に外れ、床下には脇に抱えられる程の大きさの箱があった。
フランツはその箱を持ち上げ脇に抱え部下に言った。
「急いで戻るぞ!殿下がお待ちだ」
〜〜〜〜〜
「さて、何が入っているかな?」
殿下はウキウキしながら箱を開けている。
それにしてもこの方はいつも全てを分かっている。
少々不気味に思う程に。
「やはりな。見ろフランツ!他国ならバレないと思ったらしい。ご丁寧にペールの封蝋まで押してあるぞ」
「これは‥‥!」
「正に動かぬ証拠というやつだ。他国に流した麻薬取引に関する書類全てが揃っている。アインは抜け目なく、全ての書類を2部づつ作成していたのだな。いずれペールに罪を着せられるのを見越して」
「これでペール卿を完全に排除出来ますね」
「まあ見ていろ。やつの最後をな」
「殿下、一つ質問よろしいですか?」
「なんだ?」
「何故殿下には全て分かってしまうのでしょう?」
「そろそろ聞かれる頃だろうとは思っていた。なあフランツ、王家がなぜ王家として600年もの長い間君臨し続けていられるのか分かるか?」
「特に大きな戦争もなく、悪政を行った王もいなかった為だと思いますが」
「そうだ。戦争はうまく逃れ、愚王は王位に就かなかった。そう出来たのは事前に全て分かっていたからだ。私の様にな」
「それはどういう‥‥」
「我が王家の祖先には力があった。王になれる程強力な。その力を古の民は魔法と呼んだ。神話や昔話でしか語られないがな。しかし私はその力を科学だと判断している。何故なら、私の様な能力を王家の遺伝子に残したからだ」
「遺伝子ですか?」
「うむ。私と同じ力を持つ者は2・3世代に1人の割合で600年間王家に生まれ続けてきた。そうして先を読み、国と王家を守ってきたのだ。科学と言ったのはつまり、人為的に遺伝子を操作したという事だ。多くの人体実験を繰り返してな」
「人体実験‥‥という事は、犠牲も伴うのではないでしょうか?」
「ああ、王家は確実な結果が出るまで、王族に施そうとはしなかった。その為多くの命が犠牲になり、別の能力を持つ者も生み出した。フランツよ、其方は他の者より身体能力が極めて高いが、それは生まれつきだと思うか?」
「まさか‥‥ですが、殿下の仰る別の能力とは‥」
「最初の実験で生き残ったのはジュールだけだった。だが王家の望む予見の力は持ち合わせてはいなかった。そこで王家はジュールの遺伝子を調べ、生き残った理由を探った。それによりジュールは生かされたのだ。実験を繰り返し行われながらな。その内に王家も方法を見付け、それを王族に施した。王家のこの能力はジュールの血の元に成り立っているのだ」
「‥‥‥」
「にわかには信じ難いかフランツよ?」
「‥‥はい」
「そうであろう。それで良いのだ。ジュールの能力は王族しか知らない。だからこそジュールは王家直属なのだ。そして、ジュールが絶対に裏切らない事も王族は知っている。其方はこの話を聞いて私を恨むか?」
「ショックは受けましたが、殿下には今後も忠誠を誓います」
「一つ教えてやろう。其方は敵の次の動きがゆっくりと見える事があるだろう?それは私の予見と同じだ。僅かではあるが、ジュールは確かに予見の力を受け継いでいる。次が読めるのだ」
「!!」
「それから、私は全てが分かっている訳ではない。断片的なヴィジョンが見えるだけだ。対象となる相手の名前を口にした時に。だからこそ、其方が必要なのだ。私のヴィジョンを裏付ける証拠集めの為に。全てを知った上で、これからも力を貸してくれるか?」
「それがジュールの使命です王弟殿下」
「すまぬな、フランツ。私も時々、望まぬ力の大きさに耐えきれない事があるのだ。其方に話す事で運命共同体の様な気持ちになりたかったのかもしれん。さあ、明日はペールの断罪が待っている。今日はご苦労であった」
「はい。退がらせて頂きます」
「ああ、そうだフランツ」
「はい?」
「まだ捕まっていないポリニューの娘にくれぐれも注意しろ。あれは追い詰められて大人しくしている様な女ではない」
「はい!ご忠告感謝致します」
フランツはやるせない気持ちで、すっかり暗くなった夜道を家路へと向かった。
馬を飛ばしながら「シュゼはどうしているだろう」等と考えながら‥‥
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