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財産目当てと言われました  作者: 栗須まり
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フリッツの証言

フランツとフリッツでややこしくなりました。


フランツ・ジュールは1台の馬車を調べていた。

エリーゼ誘拐事件に使われた馬車だ。

本来この様な仕事はジュールがわざわざやるべき仕事ではないが、誘拐された場所がフランツの婚約者の家という事実が、彼をここまで突き動かしたのだ。


彼は一見そうとは分からないが、婚約者を溺愛していた。

だから少しでも婚約者に関わる事件は、自分の手で解決しなければいけないと決めているのだ。


捕えたフリッツは牢屋の中で喚いている。

「自分だけが裁かれるのは公平ではない」と。

フリッツの証言はこうだった。


数日前に庶民で賑わう酒場へ出掛けた。以前からたまに利用していた酒場だ。

そこで出会った男にカードへ誘われ、一緒にカードを楽しんでいた。

最初はフリッツの一人勝ちだった。

相手の男は何度目かの勝負に、金銭による賭けを持ち掛けてきた。

気を良くしたフリッツは二つ返事でそれに乗った。

しかし、気が付けばとんでもない金額の借金が出来ていて、到底フリッツに支払える金額では無かった。

そこで男は「この程度の金額なら、貴方がユリテーヌ領の主人になれば、簡単に返済出来ますよ」とフリッツをそそのかし、エリーゼ誘拐計画を持ち掛けてきた。

全てはその男が準備するから、フリッツは馬車の中で待機し、エリーゼを自分の物にすればいいと。

フリッツはその計画に乗り、男の言う通りに実行するしかなかった。


この証言が本当なら、エリーゼの行動は監視されていたという事になる。

そして、エリーゼが滞在したシュザンヌの家も。


自分の仕事が諜報員という事もあり、シュザンヌに何かあってはいけないと私兵を付けていたが、どうやらそれだけでは足りない様だ。

シュザンヌに降りかかる全ての火の粉は、事前に排除しなければならない。


そしてフリッツの言う謎の男。

本来フリッツはナルシストで嫌味な男だが、誘拐をやってのける様な度胸の持ち主ではない。

そして、計画性のある人間でもない。

その点を踏まえ、やはりフリッツの言う男というのが存在するのだと結論付けた。


男に繋がる手掛かりを一つずつ潰していかなければならない。

そこで手始めに馬車から調べる事にした。

馬車は表面を塗り替えた跡があり、ユリテーヌ家の馬車に似せている。

車内はいたって普通の内装だが、床はフリッツの流した血で汚れていた。

フリッツは鼻骨骨折をしていたが、それはエリーゼに反撃された為だと言う。

「なかなか勇ましいお嬢さんだな」

大量の血の跡を見ながらフランツは呟く。

これだけの血の量だったら恐らく床下まで染み出しているだろう。


なんとなく体を屈めて外から馬車の床下辺りを覗き込んでみた。

ところが血は一滴も染みていない。

「おかしいな‥‥」

フランツは部下を呼び、馬車の車内を隈なく調べさせた。

血溜まりを拭き取り、床板を剥がし始めると、大理石で出来た本来の床板が出てきた。

成る程、血が染み出さない訳だ。

部下がフランツを呼び、何かを発見した旨を伝える。


「これは‥‥!」

大理石の床板にはモザイク画で紋章が描かれていた。

手の込んだ贅沢な作りで出来たそれは、流石に壊すのは惜しかったのだろう。


「我が愛しの婚約者殿は、洞察力に優れているな。ジュールの嫁に相応しい」

フランツはモザイク画で出来たポリニュー侯爵家の紋章を見ながら呟いた。


「狐狩りか‥‥」

そう呟いたフランツの顔付きは、初めてシュザンヌに出会った時と同じ鋭い目つきになっていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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