昔話をしよう2
僕等が滞在している間、僕の天使はとても懐いてくれたよ。
最も兄くらいにしか思っていなかっただろうけど。
家へ帰る日が近付いてくるのが、嫌で嫌でたまらなかった。
このまま天使に会えなくなってしまうのが、僕には耐えられなかったんだ。
でも、天使は「今度は私がダゴベールの家へ遊びに行くわ。そうしたらティエリーもまた遊んでね」と言ってくれたんで、僕はまた会えるんだと思って喜んだ。
それからの僕は毎日ダゴベールに「エリーはいつ来るの?」と聞いて、ダゴベールを呆れさせたよ。
そうして、待ちに待った天使がやって来たんだ。
僕は毎日ダゴベールの家へ出掛けて、天使に会う機会を逃さない様にした。
久しぶりに見た天使は、女の子に変わっていたんだ。可愛くて愛しくて、僕は何かにつけてキスする機会を狙っていたよ。
僕の事を忘れて欲しくなかったから。
でも、彼女は「からかってばかり!」と言って怒ったんだ。僕も子供だったから、好きな女の子にちょっかい出しすぎたかもしれない。
怒った顔も可愛くて、またキスして怒られたりね。
彼女が14歳の時、事件は起こった。
誘拐されたと聞いた時は、心臓が飛び出るくらい驚いたよ。
幸いすぐ発見され、事無きを得たが、ショックで
彼女は声が出なくなっていた。
ダゴベールから「エリーを暫く預かる事になった」と聞かされた時は、有頂天になったよ。
毎日彼女に会える喜びで、居ても立っても居られなかった。
授業が終わると、一目散にダゴベールの家へ向かい、彼女に会いに行った。
だけど彼女は、僕が思った以上に傷付いていて、笑顔まで出なくなっていたんだ。
僕は彼女の声と笑顔を何としてでも取り戻したかったし、彼女を守りたいと思った。
だから少しでも彼女を元気付けたくて、お菓子を買ってきて食べさせたり、抱きしめて頭を撫でたりしたんだ。
当時の僕にはそのくらいしか出来なかったしね。
そうして毎日彼女に会いに行っていたら、ある日「ありがとうティエリー」と言って笑ってくれたんだ。
嬉しかったよ。嬉しくて、彼女の顔中にキスをしたら「くすぐったい」と言って更に笑ってくれた。
ずっと一緒にいたいと、その時強く思ったよ。
彼女は元気を取り戻し帰ってしまったが、翌年には僕等の学園に入学すると聞いて、僕は煩わしい学園生活を過ごす事が出来たんだ。
その当時の僕の学園生活は、本当に煩わしい物だった。
好きでもないお菓子を渡されたり、やたらと騒がれたり。
中でもポリニュー侯爵の娘には手を焼いていたんだ。
あの当時、ポリニュー侯爵はランドゥール商会の得意先で、何かにつけて親の名前で僕を従わせようとするあの赤毛の娘が大嫌いだった。
でもそんな煩わしさも、彼女に会える喜びが塗り替えてくれたんだ。
入学してきた彼女を見て、僕は息を飲んだよ。
彼女は益々綺麗になって、誰よりも輝いていたから。
そう思ったのは僕だけじゃなく、沢山の男子生徒達が彼女に見惚れていた。
僕はヤバイと思ったよ。僕の大切な天使が、誰かの物になってしまったらどうしよう?と焦った。
だから彼女に近付いてくる男どもに、釘を刺して回ったんだ。
内容はちょっと言えないけどね。
ある日赤毛の娘に中庭へ呼び出された。
気乗りがしなかったけど、また親の名前を使って脅してくるから、仕方なく赤毛の娘の言う通りにしたんだ。
赤毛の娘は僕に並んでベンチに座り、僕の手を握ってきた。
気持ち悪かったよ。視界の端に彼女が見えたから、早く近くへ行きたくて、作り笑顔で出来るだけ冷たい声を意識して「僕には用がないから離してくれ」と言ったんだ。
大抵の女の子達は、これで離してくれるから、その時もそうなると思っていた。だが、赤毛の娘は違った。
僕の手を更に強く握り「貴方の婚約者になりたいわ」と言ってきたんだ。
僕はゾッとして「僕には心に決めた相手がいる。何より僕は君が好きじゃない」と言ったよ。
すると赤毛の娘は「そう、今のところはね。でも私、諦めませんわ」と言って手を離した。
だから僕は用心して、なるべく赤毛の娘には近寄らない様にしようと思ったんだ。
そんな事があって暫く、彼女に会いたくても中々会えない日が続いた。
探しても、会いに行っても、彼女はすぐにいなくなってしまうし、以前より態度がよそよそしくなってしまった。
僕は何か彼女に嫌われる様な事をしたのだろうか?
悩んでも分からないから、また彼女を探した。
その度に彼女はサッといなくなってしまうんだ。
その内に気付いたよ。僕は彼女に避けられているって。
胸が苦しかったが、どうしようも無かった。
読んで頂いてありがとうございます。




