修羅場?
動悸が激しく、息苦しさを感じます。
でもダメ!
私は修羅場なんて演じるつもりは更々ありませんわ!
深呼吸して、冷静に口を開きましょう!
「突然の訪問で、申し訳ございません。お取り込み中の様ですので、私は失礼致しますわ、ランドゥール様」
踵を返して、入り口へ早足で向かいます。
マリアが私の手を握り、背中を支えてくれています。
早く、早く、この場から立ち去りたい!
入り口の扉はもうすぐ!
走り出してもいいかしら?
いいわよね。
だって、早くしないと‥‥
「リーゼ、待って!」
追いかけて来たティエリーに、腕を掴まれました。
「お離しになって!」
「リーゼ!」
「もうリーゼとは呼ばないで!」
「!!!!!!」
仕方なく足を止め、ティエリーに向き直ります。
「お芝居は終わりにしましょう!さようなら。お元気で」
堪えていたのに、涙が零れ落ちました。
ティエリーは何も言わず、私の腕を離します。
マリアはティエリーをキッと睨み、私の背中に手を添え「行きましょうお嬢様」と言って連れ出してくれました。
馬車の中から綺麗に色付いた、沢山のツツジが見えます。
「ツツジが綺麗ね、マリア‥」
「‥‥お嬢様?」
「‥‥フフッ‥‥折角のツツジが、なんだかぼやけてよく見えないわ‥‥」
「お嬢様!!」
マリアがハンカチで一生懸命、私の涙を拭いてくれました。
ごめんね。ありがとうマリア‥
家に着いて、真っ直ぐ自室へ向かいました。
ベッドへ倒れ込み、声を殺して泣きました。
どれくらい泣いたでしょうか?
少し冷静になって、段々考えもまとまってきました。
まず、両親が戻ったら、結婚式も全て白紙に戻して貰おう。
今後はティエリーに会わない様に、ユリテーヌ領へ戻り、お父様のお手伝いをしよう。
これから先、結婚は多分しないでしょう。
跡継ぎは、養子でも貰えばなんとかなるでしょうし。
あ!あと、シュザンヌ様だけには、今回の事を報告しなければ!
ダゴベールはティエリーと親友だから、言わなくても伝わるだろうし。
うん。大体まとまったわ。
早速シュザンヌ様にお手紙を書きます。
一気に書き上げ、エマに手紙を頼みました。
シュザンヌ様に、慰めて欲しかったのですわ。私。
手紙を持って行った下働きのトー二が、シュザンヌ様から言付けを預かって来ました。
「今すぐ私の家へお越しになって!」
私は飛んで行く事にしました。
あ、飛んで行くといっても、馬車ですけど‥‥
シュザンヌ様の家に着くや否や、シュザンヌ様が私に飛び付いて来ました。
「エリーゼ様!まあ!こんなに目を泣き腫らして!さあ、私の部屋へいらっしゃいな!」
シュザンヌ様の顔を見たら、また涙が止まらなくなりました。
シュザンヌ様は冷えたタオルと氷水を用意して、私の目を冷やしてくれます。
親友って大切です。
一生変わらぬ友情を誓いますわ。
私は今日起こった事や、最近の婚約に至るまでの経緯全てを、シュザンヌ様に話しました。
親友にウソをついているのは、心苦しかったのですの。
シュザンヌ様は、最後まで黙って聞いて下さいました。
私の目を冷やしながら、シュザンヌ様は微笑んで、そして静かに言いました。
「どうやら肝に銘じていなかったようね。さて、どうしてやりましょうか?」
シュザンヌ様の声が、なんだか氷より冷たく感じたのですが‥‥
気のせいかしら?
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