会いに行ったら‥‥
「きちんとティエリーと話をするんだよ。それに、エリーの気持ちも伝えるんだ」
ダゴベールはそう言ったけど、どう話せばいいの?
それに、ティエリーは相変わらず忙しそうで、ここ1ヶ月程、まともに顔を見ていないわ。
結婚式の準備は着々と進んで、益々不安な気持ちが膨らんでしまいます。
もう一つ、私の心を占めているのは「寂しい」という気持ち。
会わない様に避けていた時は、何ともなかったのに、一旦自分の気持ちを認めてしまうと、会いたくて堪らなくなってしまいます。
あんなに苦手だったのにね。
苦手だと思った理由に気付いてしまったわ。
あのサファイア色の瞳に見つめられると、胸がギュッとして、落ち着かなくなるの。
いけないわ!家に一人でいると、どうしても考え込んでしまうわ!
お父様とお母様はワインの商談で、3日前から隣国へ出掛けたきりだし。
「お嬢様」
「ひゃい!」
いきなりエマに声を掛けられたから、変な返事になってしまいましたわ。
「お部屋に篭ってばかりは良くありません。気分転換に出掛けられたら如何ですか?」
「出掛けるって何処へ?」
「王立公園のツツジが見頃とか。ああ、確か、王立公園の側にはランドゥール商会の本社がありましたっけ」
「‥‥それって」
「婚約者が会いに行って、何の問題がありましょうか?お寂しいのでしょう?」
エマには敵いませんわ。
全部お見通しなんですもの。
〜〜〜〜
「約束はしておりませんが、エリーゼ・ド・ユリテーヌと申します。ティエリー様はいらっしゃいますか?」
決心が鈍らないうちに!と思って、公園に寄らず直接来ちゃいました。
こういうのは、勢いが必要ですものね。
あ、今日はメイドのマリアに付いてきて貰いました。
マリアとは年が近いので、おしゃべりも弾みます。
「‥‥御婚約者様ですね。あいにくと、只今、その、来客中でございまして‥‥」
ん?
やけに歯切れが悪いわね?
「終わるまで待たせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「わ、分かりました。では、別室でお茶でも如何ですか?」
「いえ、勝手にやって来たのですもの、お部屋の前の廊下で結構ですわ。お気遣いありがとうございます」
「そ、そうですか。すぐに報告して参りますので、お待ち下さい」
そう言うと、秘書さんは走って行きました。
なんでしょう?
やけに焦っているような?
何かあったのかしら?
ティエリーのオフィスは1階にありました。
廊下には大きい窓があり、その前には背もたれのないソファが置いてあります。
「お嬢様、座って待ちましょう」
マリアに言われて腰を下ろそうとしたら‥‥
「バタン!!」
すごい勢いでオフィスの扉が開き、ティエリーが出てきました。
あら?なんか複雑な表情?
「ティ‥‥」
私が声を掛けようと思ったら、開け放たれた扉の奥から赤髪の女性が出て来ました。
「お待ちになって!ティエリー様!」
えっ!?
女性はティエリーの腕にしがみ付きます。
そして私を見て、ニヤリと笑いました。
「あら?どうして貴女が?」
勝ち誇った顔で私に言います。
それはこっちのセリフではないでしょうか?
ヴィヴィアンヌ様!
「‥‥リーゼ‥‥」
ティエリー、困った顔をしてらっしゃるわね。
修羅場ってこういう事を言うのでしょうね。
読んで頂いてありがとうございます。




