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第四話 謎の男

「到着しました」


 ロンウィがそう言い、俺たちは馬車を降りる。

 コフィが感嘆の声をもらした。


「わぁ……きれい」


 それは巨大な都市だった。

 清楚さを感じる白い建造物がどこまでも立ち並び、ぎりぎり視界に入るほど遠くに、都市を囲む十メートルほどの高さの石レンガの防壁のようなものが見える。

 大通りはたくさんの人で賑わい、屋台からはおいしそうな匂いが漂う。

 

「ようこそ、平和と信仰の地・パースへ」


 そう言うロンウィの声はどこか誇らしげだ。


 パース。どこの国にも属していない巨大都市。

 デウス教の本拠地であるこの都市は、世界で最も平和な場所として広く知られている。

 巨大宗教組織のもとにあるところなのだ。どんなに力のある組織、国であろうと、デウス教相手に下手な真似はできない。


 と、コフィが指さして言った。


「あのでっかい建物は何?」


「あれは教会本部です。デウス教の総本山ですね、聖女様」


「あんな大きい建物、初めて見た」


「デウス教の信仰と力を表していますからね。ちっぽけな建物であってはいけないのです」


 コフィは初めて見るその光景に若干興奮した様子。


 俺は、ぶっちゃけどうでもいい。


 いや、確かにでかいよ。高さは五十メートル以上あるように見えるし、敷地面積もかなりあるんだろう。教会本部というより、荘厳(そうごん)な神殿だ。城と言っても差し支えない。


 けど、俺はもっとでかいのを知っている。

 東京のビル群の方がよっぽどでけえ。

 いつだか住んでいた魔王城もでけえ。

 ここからずっと遠くにある天空地帯の巨大浮遊都市もでけえ。

 俺の旧友の一人にドラゴンがいるんだが、そいつもでけえ。


 そういう世界と比べれば、世界最大の宗教の総本山でさえ、世界最大の宗教の総本山()()となってしまう。


 今更驚く必要もない。


 コフィが不機嫌そうな目で俺の方を見てくる。


「…………」


「なんだよ」


「なんか、全然楽しくなさそうだと思っただけよ」


「別にそんなことはないぞ」


「嘘つき」


「こんなでっかい建物なんて初めて見たナー」


「ジン、まさかこれより大きな建物見たことあるの?」


「聖女様、この魚は海の広さしか知らないのですよ」


「そういうことだったのね……ごめんなさいジン、あなたが魚だってこと忘れてたわ」


「誰が魚だ」


 するとコフィが、ロンウィの方を向く。


「ロンウィ、その、一ついい?」


「なんでしょうか聖女様」


「その、聖女様っていうの、ちょっと」


 少し、おずおずと言うコフィ。


「しかしそう呼ばなければ無礼に値します」


「コフィって呼んでいいから」


「しかし」


「だめ」


「しかし」


「じゃ、命令! そういう堅苦しいの、私苦手なの」


 言われて、ロンウィは困った表情。


「……了解しました、コフィ様」


「様は……はあ、分かったわよ。よろしくね」


 様はいらない、と言いかけて、ロンウィが顔をしかめたのを見て、コフィが仕方なく妥協。


 なんというか、こういうやりとりを見ていると、人ってこうやってつながっていくんだなーと、感慨を覚えなくもない。


「じゃあ、ついでに俺のこともジンって名前で」


 急にロンウィが鬼のような形相になってこちらを見た。


「黙ってろゴミが」


「すいませんでした」


 すがるようにコフィの方を見ると。


「……ロンウィ、ジンはゴミじゃないわ」


「コフィ……っ!」


「魚よ」


「コフィ!?」


「黙ってなさいジン、あ、ごめん、魚だったわね」


「コフィイイイイィィィ!」


 完全に裏切られた。

 これが現役勇者にする仕打ちかよ!


 落ち込んでいると、若いイケメンの男が俺の肩に手を置いて言う。


「君も大変だな……」


「ああ、マジで大変だよ……」


「分かるよ、その気持ち……眼の前に美少女が二人もいるのにエッチなイベントが一つも起こらないのは、辛いよな……」


「……は? キモっ、お前誰?」


 するとその男は驚愕の表情を浮かべる。


「君とは分かり合えると思っていたのにっ……」


「分かり合いたくないぞ俺は。てかお前誰だよ」


「僕か? 僕は――」


 突如、光でできた金槌を持ったロンウィが男の前に現れた。


「死ね」


 金槌が勢いよく振り下ろされる。


「うおっっと!」


 それをひらりと躱した男は、振り下ろされた金槌がそのまま地面を粉々に破壊したのを見て、息を呑んだ。


「ちょ! そんなもの振り下ろしたら危ないだろ!」


「黙れ変態」


 殺意丸出しのロンウィ。対して男はヘラヘラとしている。


 コフィが恐る恐る尋ねる。


「あなたは……?」


 すると男は、鮮やかな動作でコフィの元へと移動し、優しく手を取った。

 コフィが若干混乱するのにも構わず、男は爽やかな声で言う。


「僕はウィル。いずれ勇者パーティの一員となる男さ」


「勇者、パーティ?」


「だけど今、今だけは、君のための騎士となろう。君だけの、世界に一人だけの騎士に。だから君も僕のことだけを」


 その時、光の金槌がウィルの後頭部を襲った。


「死ねええええ!」


 ウィルは()()()それを受け流す。


「あぶないじゃ――うおっ!?」


 ウィルはその場から飛び退く。

 次の瞬間、さっきまでウィルが居た場所の地面から無数の光の矢が飛び出す。

 それらは勢いを失うことなく、空の彼方へと飛んでいった。


「今の完全に殺しにきてたよ!? ねえ!?」


「チッ」


「なっ! 今舌打ちした!? 君はデウス教の司祭じゃないのか!?」


 なんだか面倒なことになってきた。


「待て待て、一回状況を確認しよう。ロンウィ、こいつは一体なんなんだ」


「魚に聞かれるのは少々癪ですが……この男はウィル。とてつもなく変態で排除すべき対象ですが、本当に残念なことに、勇者パーティへの参加条件は満たしている男です。残念ながら。本当に残念ながら」


 コフィがよくわからないといった表情で言う。


「勇者パーティへの参加条件? って何なの?」


「……勇者パーティとは魔王討伐に向かう精鋭たちのことです。もちろん、強力な天命を持った人員を教会が集める手はずとなっていますが、それだけでは人員が足りない場合が多いです。ので、一定水準以上の力を持った一般人同士で決闘を行い、数名、勇者パーティに選ぶようにしているのです」


 ウィルが得意な表情をする。


「俺はそのうちの一人ってわけさ」


 なるほど、それならさっきの戦闘能力もうなずける。

 ロンウィの攻撃にまともに対処できる人間はそういない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、ロンウィはかなりやばい戦闘センスしてるからな。


 するとコフィが、少し不安げな表情で言う。


「私も、その、決闘をしなきゃないの?」


「コフィ様は聖女です。一般人枠ではなく特別枠として勇者パーティに入るので、その心配はありません」


「良かったぁ」


 すると、ウィルが大げさに驚く。


「聖女!? 僕の目の前にいるこの美少女が聖女なのか!?」


 美少女、と言われて若干動揺するも、コフィはうなずく。


 するとウィルはキリッとキメ顔で言う。


「じゃあ、勇者パーティでまた会うかもしれないね。その時はよろしくっ!」


「あ、えっと、よろしくね」


「ああ、今日もいい美少女が見れた。よし、頑張ろう! さらばっ!」


 そう言って彼は颯爽とその場を立ち去って行った。


「チッ……逃しましたね」


 変態男を逃してしまったのが気に食わないのか、舌打ちをして顔を歪めるロンウィ。

 ほんと、司祭の要素が見た目しか無い。


「まあいいでしょう。ではコフィ様、教会本部へ向かいます。早く行って手続きを済ませないと」


 謎の男の出現を経て、俺達は教会本部へと向かった。

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