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第二十五話 大魔法帝国

 選抜戦が終了して二日後、俺達は馬車に乗ってパースから出た。

 かなり急ぎの出発だ。魔族に襲われる危険性を考えれば仕方ないだろう。


 デウス教の上の奴らは分かっているかもしれないが、上級魔族を倒したことは既に魔王に伝わっている。

 大きな闇の力が消えたのだ。魔王で無くとも他の上級魔族達だって、デモンが倒されたことぐらいは感知できると思われる。

 魔王軍の幹部の生死を判別する方法ぐらい、魔王が持っていてもおかしくないしな。


 現在は馬車の中、勇者の自己紹介を聞いているところだ。


「俺はウィオル・クラウン・ライオネアス。歳は十五、天命は勇者だ。ライオネアスと呼んでくれ。これからよろしく頼む」


 淡白な自己紹介だ。腰に差した剣は恐らく聖剣だろう。王族か、もしくはデウス教の上から出てきた感じの勇者だろうな。


「一人ずつ自己紹介を頼む」


「じゃあ……」


 コフィが自己紹介を始める。


「コフィです。天命は聖女です。孤児院で育ってきたので、知らないことがたくさんあって迷惑をかけるかもしれませんが、これからよろしくお願いします」


 孤児院にいた頃からの俺の友達。優しくて明るい少女だと思っていたら、特定人物に対しては超毒舌になるという特徴を持っていた。怖い。

 なんでこう、複数人相手だと毒舌じゃなくなるんだろう。


「私はデウス教司祭位、対魔王部隊総隊長、ミドルル・ロンウィです。勇者様、聖女様のサポートを全力で行います」


 デウス教司祭位、という言葉から分かるように結構地位の高い女の子。

 見てくれはかなりカワイイが、中身はデウス神に圧倒的な信仰を捧げる狂信者。

 一見して平和を求める見習いシスターさんだが騙されてはいけない。

 異教徒には光のメイスをお見舞いするヤバいやつだ。

 こいつの前で教会批判でもすれば、すぐさまミンチにされるだろう。


「俺はウィル。天命は舞踏格闘家。平和を守るために、勇者パーティーで一丸となって頑張っていこう!」


 イケメン爽やか青年で言っていることも主人公っぽいが、残念なことに中身は変態だ。

 近接戦闘のセンスもさることながら風魔法も使える。類まれな才能を持っているのだが、変態だ。

 見た目と第一印象は良いが、変態だ。知らず知らずのうちにパンチラされている被害者の数は多い。

 魔王よりもこいつを倒すべきだと思う。


「じゃあ最後に、ジンだ。出身はコフィと同じ孤児院。天命は魚。よろしく頼む」


 自己紹介が適当すぎたのか、ライオネアスが少し睨んでくる。


「ジンは僕の師匠さ」


「断じて違う」


 ウィルが暴走した。


「そうなのか?」


 驚きの表情を浮かべるライオネアス。

 それ以上追求するな。


「うん、僕の師匠は凄く強いからね!」


「師匠言うな」


「それじゃあ運命の人でいいかい?」


 更に悪化しているぞ。


「そ、そうか。ウィルは特殊な性癖を持っているようだな」


 ライオネアスが困惑している。


「勇者様、こいつの言葉を真に受けないでください。この変態の頭はおかしいのです」


 頭がおかしい点で言えばロンウィも一緒なんだがな。


「気の強い子にキツく言われるのも、僕にとっては幸福さ」


 ウィルはM属性を獲得した。

 そろそろ本格的にヤバイかもしれない。


「そ、それよりもこれからの予定を確認したほうが……」


 コフィが言うと、ライオネアスも同調するように喋り始めた。


「そうだ、今後の予定について話しておきたいことがある。一週間ほど馬車を走らせれば大魔法帝国に入る。そこでまずは、魔法学院の入学手続き等を済ませなければならない」


「そういえば、大魔法帝国ってどういうところなんですか?」


 コフィが上げた疑問の声に、ライオネアスが驚く。


「知らないのか?」


「一度も教わったことがないので……」


「そうか……まあいい。教えよう。大魔法帝国は言わずと知れた大国だ。魔法技術が優れており、生活水準も高いと聞く。そして何よりも、完全な実力主義によって成り立っているのが特徴だ」


 ウィルが少し驚くように反応する。


「実力主義? 実力が全てってことかい?」


「そうだ。帝国の国民の地位は、実力によって決められる。年に一度開かれる闘技大会、決闘、その他の試合などで勝利すればより高い地位に、敗北すればより低い地位に移動する」


「だけど重要な役職の人が移動するとなれば、国としては困るんじゃないかい?」


「ああ、それは困るだろう。だからこそ、重要な役職というのは高い地位の者だけが就けるようになっている。滅多なことでは負けないような者だけがな。それにもし負けたとしても、更に強いやつがその役職に就くのだから問題は無いだろう」


 権力とか財力とか関係なしに、純粋な力が求められる世界ってわけか。面白い。


 するとコフィがこわごわとした様子で言う。


「でも私達は学生だから、そういうことは関係ないわよね」


 先日の闘技場の事件を思い出しでもしているのだろう。

 血で血を洗うような争いに巻き込まれたくない、なんて考えているのかもしれない。


 しかし、そんなコフィに向かってライオネアスが容赦無く言う。


「そうとは限らないぞ」


「え!?」


「俺たちがこれから入学するのは大魔法帝国の王都にある国立の学校、第一魔法学院だ。俺も詳しく調べた訳ではないが、実力主義という国の方針が色濃く反映されたところらしい」


「じゃあその学校も実力主義……?」


「さあな。詳しいことは着いてからのお楽しみだ。その様子だと、楽しいという要素は一欠片もなさそうだが」


「最悪よ……」


 頭を抱えるコフィ。戦うのはあまり好きじゃないみたいだ。

 まあ、痛いのは俺も嫌だからな。

 とりあえずコフィの気分を良くするために言っておく。


「そう心配するなって。コフィは聖女だろ? 魔法の才能はダントツであるだろうし、実力で普通の学生に劣るってことはそうそう無いと思うけどな」


 俺の言葉に、ライオネアスが頷く。


「そもそも俺達は勇者パーティーなのだ。危なかったとは言え、上級魔族も倒している。大魔法帝国でも噂になっているかもしれない」


「私達のことが?」


「ああ、そうだ。だからもっと胸を張れ。自身を持て。勇者パーティーの聖女として、しっかり前を向いていればそれでいい」


 ライオネアスがかっこいいことを言っている。


 するとウィルが呟いた。


「胸を、張る……か」


「なんでその言葉にだけ反応してるんだよ、お前は」


「気になったから、つい、ね」


 ウィルは実力面では不安は無いが、エロい女にそそのかされたりしそうだ。

 昔転生した時の帝国だと、そういうの多かったし。


「ライオネアス、帝国ってハニートラップとか多いのか?」


「ハニートラップか、わからないな。パースでは一度も無かったが」


 するとライオネアスの隣に座るロンウィが答えた。


「多いですよ。実力のある者であれば特に。ライオネアス様もウィル様も気をつけた方がいいかもしれません。お二人とも強力な天命をお持ちですから」


 今の帝国でもそういうのは多いみたいだ。


「ウィル、気をつけろよ」


「ああ、大丈夫さ。パンチラした時に見えた色は、ちゃんとメモを取ってあるからね」


「何が大丈夫なのか全く理解できないんだが」


 もうこいつのことを理解しようとするのは諦めよう。

 変態とは未知の生物なんだ。多分。





 喋ったり休憩しつつ、馬車は走っていく。



 そして一週間後、俺たちは大魔法帝国へと到着した。

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