第二十四話 事後処理、そして新たな舞台へ……
事件の翌日。
デウス教総本山の神殿のみたいな建物の一室。
世間に公表するための、騒動の内容の最終的な確認を、リンネルが主体となって行っていた。
「『勇者と聖女の殺害を目的とした上級悪魔が、選手として選抜戦に出場。最終トーナメントの場にて姿を現し、交戦。鉄拳のグラトムが敗北するが、その後勇者が中心となり選抜戦の選手達が奮闘、討伐に成功した』ということでよろしいですかな?」
リンネルは確認するようにライオネアスを見る。
「ああ、そういうことだ。……気づいたらああなっていたというだけで、正直倒したという実感が無いんだがな」
ライオネアスの言葉に、リンネルは笑顔を浮かべる。
「実感がなくとも、倒したことに変わりはありませんぞ。実際、勇者があの場で出ていなければ、被害は計り知れないものになっていたでしょうな」
「……まあ、そうか」
選抜戦で魔族が出たという恐ろしい事件は、見事勇者が魔族を討伐することによって解決した、ということになった。
俺が倒したことは、世間にはバレていないみたいだ。
若干ライオネアスが記憶に違和感を覚えているようだけど。
現在この部屋で話を聞いているのは、俺、コフィ、ロンウィ、ウィル、ライオネアス、そしてグラトム。
今回の騒動に大きく関わり、加えてこの場に出られる状態の人たちだ。
この場に出られる状態というのは、闘技場で戦って怪我などを負っていないということ。
闘技場にいた大半の人は、黒い霧や魔族との戦闘による怪我の治療中なので、落ち着いて話を聞ける状態じゃないのだ。
俺が魔族を倒した時にはライオネアスは大怪我をしていたはずだが、寝て起きたら怪我も全て治っていた、と本人が言っていた。
化け物じみた回復力は、多分勇者の加護とかそこらへんの力だろう。チートだ、チート。
グラトムは、俺が闘技場に向かっている最中に闘技場の外で倒れていたのを発見したので、その時に回復魔法を使って治療しておいた。
そのことについてはグラトムも知っているが、誰にも喋らないようにと念を押しておいたので多分大丈夫だと思う。
じゃあなぜ俺がここにいるのか。
もちろん、俺は関わっていないから話し合いに出ないと言ったのだが、コフィに無理矢理連れてこられた。
逃げようとしたけれど、寂しそうな表情で上目遣いをされたため仕方なくついていくことにした。その表情はずるい。
話し合いが終わったかと思った時、ライオネアスが悔しげな表情で。
「俺がもう少し早く出ていればな……」
と呟いた。
いや、むしろあとちょっとでも早く出てたら、俺間に合わなかったかもしれないんだけど。
するとロンウィが慰めるように言った。
「あの場で魔族の前に出るというのは、勇気のある行動だと思います。誰も非難などしませんよ、勇者様」
それに続くようにリンネルが言う。
「不甲斐ないのは私ですぞ。上級魔族とは言え、闇魔法で拘束されてしまうとは。あのような状況でこそ私が出るべきであるのに、本当に申し訳ない。全て解決してくださった勇者様には、感謝しきれませんぞ」
「しかし……」
「ええ、死んだ者は少なからずいました。しかしながら、救った者もいたでしょう。今回の失敗は、救った人々の未来のために積み重ねていけばいいのです」
「勇者がそんなものでいいのだろうか」
「ええ、もちろん。過去は変えられなくとも、これからの運命は変えられますからな。邪悪な運命に抗おうとする者を、デウス神は拒みませんぞ」
「……そうか、そうだな」
ライオネアスがすっきりとした表情をする。
さすが大司祭。口が達者だ。
「それでは、私は仕事がありますので」
そう言ってリンネルは立ち上り、部屋から出ていく。忙しい人だ。
「俺たちも行くか」
続けてライオネアスたちも出ていく。
コフィ、ウィル、ロンウィも部屋から出ていったので俺も出ようとしたところ、グラトムに肩をつかまれた。
「なんですか?」
「あの時の話だ」
「いつ?」
「闘技場前、俺を治療した時の」
「ああ……」
それは、俺が闘技場に向かう途中の話。
***
黒い霧が出たと思って急いで闘技場に向かうと、闘技場の壁に大きな穴が空いていた。
修理代とか高くつくだろうなーと思っていると、壁の近くで誰かが倒れているのが見える。
『って、グラトムじゃん』
駆け寄って、適当に回復魔法を使うと目を覚ました。
『お前は……ジンか?』
『そうだよ』
『ここは……そうか、俺は負けたのか……』
『ここで治療したことは誰にも言わないでくれよ、面倒になりそうだから。じゃ、行ってくる』
『行ってくるって……待て! 相手は上級魔族だぞ!? お前が強いことは知っているが、人間に勝てるような次元じゃねえ! 応援を待て!』
そこまでの相手なのか。
『へぇ……』
少し笑みが溢れる。
『楽しみだな』
グラトムが顔をひきつらせて、唖然として俺を見ていた。
多分無いと思うけど、釘を差しておく。
『治療したこと、絶対誰にも言うなよ、絶対だからな』
自分で言っておいて、これ完全にフラグだろと思いつつ、俺は闘技場の中に入っていった。
***
と、そんな一幕があったのだが。
今になって、どうしてグラトムは俺を引き止めるのだろうか。
「今更なんだよ、聞きたいことがあるならさっさと言ってくれればいいのに」
「聞きにくかったんだよ。それで、はっきりと言うが……」
グラトムは眉間にシワを寄せて言った。
「お前が倒したんだろ? あの魔族を」
疑いではなく、確信の目線だ。
まあ、そりゃバレるだろうなと思っていたけれど。
逆に考えてみれば、グラトム以外にはバレていないのだ。グラトムさえ黙っていてくれれば俺は安心できる。
だから。
「さあ、な」
こう言っておけば、グラトムも俺の意図を察してくれるだろう。
「食えねえやつだ。褒められてえとか、自分の栄光を知ってもらいてえとか、お前にはそういう欲が無いのか」
「今更、そんなものが欲しいとは思わないな」
グラトムは苦笑いする。
「年寄りみてえなこと言ってんじゃねえよ」
「みたい、でもないんだけどな、ま、言わないでくれよ」
「分かってるよ。俺としては広めてやりてえところなんだがな、治療の礼もある」
話がちゃんと通じる人は助かる。
変態とか狂信者とか毒舌ツンデレとか、そういう尖ったキャラはもういいから、もうちょっとグラトムみたいな人が友達に欲しい。
言葉通じないんだよなあ、あいつらは。
今度こそ部屋から出ようとすると、最後にグラトムが聞いてきた。
「それで、これからはどうするんだ? お前、もう勇者パーティーのメンバーなんだろ。何をするのか決まってないなら、ちょいとばかし訓練を手伝って欲しいんだが」
そう、俺は勇者パーティーのメンバーになったのだ。
正確には、Cブロックの代表であるスピードが、大怪我で勇者パーティどころじゃなくなったので、俺とウィルがメンバーに選ばれたわけだが。
「すまん、手伝う時間は多分無い。もう勇者パーティーの予定は決まってるんだ」
少し笑って、グラトムに言う。
「大魔法帝国の、魔法学院に入学してくる」




