第二十三話 絶対的圧倒的強者
闘技場。
そこは地獄絵図と化していた。
倒れる選手。デモンに向かって行くが、一振りでなぎ倒される。
勇者も既に気絶。二つ名を持つ者も全員倒された。
流れる血は多く、広がる悲鳴に救いは無く。
ただ唯一、残り少ない魔力で癒やしの力が働いている。
それは、奇跡の光。
「みんなっ……うぐっ……死なないでっ……」
涙を流すコフィから放たれる光は、人々を癒やす聖なる光。
だが、闘技場の中で必死にデモンに抵抗する者たちの傷は治らない。
デモンが唸る。
「コレガ、ワレラノ王ヲ脅カス存在ナノ力……クハ、クハアハハハハ!」
デモンが笑う。
「弱イ! 弱スギル! イイダロウ! オマエタチニハ苦シミヲ与エテヤル! 精々、我ラガ王ガ満足デキル悲鳴ヲアゲテミセヨ!」
デモンが右手を天に掲げる。
瞬間、闘技場が真っ黒の霧に包まれた。
「あう、ぐっっうううぅっ!」
コフィが悲痛な声を出す。
胸を強く握りしめられるような強烈な痛みが、少女を襲っていた。
(誰か……)
「たす、けてっ……」
コフィの視界が、暗く、暗くなっていった。
デモンの放つ闘技場により、観客も含め闘技場にいる全員の意識が刈り取られた。
*
屋台で飯を食べ終えたところで外に出てみると、何か嫌な気配がした。
闘技場の方から気配を感じたので見てみると、なんか黒い霧みたいなのが出現している。いつの間に。
闘技場に広がってる魔法、かなり規模が大きい。
「……よし、行くか」
闘技場に向かって、俺は駆け出した。
*
黒い霧を消し、周りを見渡したデモンは愉快そうに言う。
「アア……良イ苦悶ダッタ」
闇魔法を使ったことで闘技場にいた人間は全て気絶し、倒れている。
人間の苦しむ姿を堪能したデモンは、これ以上なく幸せな表情だ。
「全ク、勇者ガコレホド弱イナラ、モット下ノ奴デ十分ダッタナ」
一人愚痴るデモン。
デモンは上級魔族として大きな力を持っており、本来は重要な仕事を任されるはずだった。
これから脅威になってくる勇者を事前に殺すという仕事が大切だ、ということは理解していたが、あまりに勇者が弱すぎて拍子抜けしたのである。
「マアイイ、コウシテ楽シメタノダカラ」
周囲に流れる血を視界に入れ、デモンはニヤリと笑みを浮かべる。
「サテ、ソロソロ殺スカ」
デモンは倒れている勇者へと一歩踏み出した。
その時。
「……誰ダ?」
闘技場に空いた穴の方からガサッ、と瓦礫を踏む音が響く。
そこには、孤児院出身と思われるほどにボロい服を着た、十五歳ほどの男がいた。
「俺は、聖女を助けに来た、ジンという者だ」
「ナルホド。我ハ――」
「ってコフィ!? 死んでないよな!?」
倒れているコフィを目にした途端、ジンは慌てて近づいて状態を確認する。
「オイ、聞イテイルノカ、我ハ――」
「生きてるか。一応回復かけとこ」
コフィの胸に指を当てた途端、まばゆい光がコフィを包む。
コフィは一瞬、うぅっ、と苦しげに声を出した後、スースーと寝息を立て始める。
「オイ、オ前」
「ふう、これでよし」
「オイ!」
「ん? あ、ごめん、で、何?」
「……我ノ名ハ、デモン! 我ラガ王ニ仕エシ魔族デアル! 我ラガ王ニ命ゼラレ、未来ノ宿敵デアル勇者ヲ――」
「あーすまんが、そういうのめんどくさいから飛ばしてもらっていいか?」
「貴様……殺スッッッ‼」
かなり適当に扱われたデモンは怒りに身を任せ、化け物じみた身体能力を十二分に活かした攻撃を開始した。
瞬時にジンの目の前まで飛ぶと、グラトムを倒した時の数倍の力で強烈なアッパーを繰り出す。
花火の如く空の中へ打ち出されたジンの元へ、デモンは驚異的な跳躍力で追いつくと、闇魔法の結界で足場を作り、猛烈な連続攻撃を繰り出した。
蹴り、殴り、投げ、吹き飛ばし、四方八方からの超速攻撃。
闘気だけでなく闇魔法の強化も加わった圧倒的攻撃力。衝撃波が発生し、余波で下の闘技場の窓が揺れる。
デモンは両手を組んで、闇の力をこれでもかと込めると、怒りを存分に乗せて振り下ろす。
くの字に体を曲げて地面へと激突するジンに、更に追撃のかかと落としがめりこむ。
丈夫にできている闘技場の床が割れ、同心円状に闇の魔法の光が広がった。
「死ネエエエエエ!」
両手に真っ黒な魔力をまとわせ、目にも留まらぬ速さで殴りまくるデモン。
どんどんと広がるクレーターと共に、デモンが勝利を確信した瞬間。
「――なんだ」
デモンの背筋が、ぞわりと震える。
「……ッ!?」
すぐさま離れ、デモンは様子を窺う。
木っ端微塵になってもおかしくないほど殴られたはずのジンは、何事も無かったかのように立ち上がる。
人間とは思えないほどに、あまりに固いジンを見て、デモンの心の中にあるものが生まれる。
「結構期待してたんだけど、こんなもんか」
それは、恐怖。
デモンは、心臓が掴まれるような感覚を覚えた。
根源的な恐怖。
勝てるはずのない絶対的圧倒的強者からの、死の圧力。
ドロリとした生ぬるい”死”に包まれ、デモンは、吐き散らかすように言った。
「ナンダソノ殺気ハ!? オ、オ前ハ何者ダ!?」
すると、ジンは少し考えてから答える。
「俺は、聖女を守るために孤児院から出てきた魚だ」
「サ、魚ダト!? ナンダソレハ!」
「天命が魚なんだよ、天命が」
「天命ガ……魚? ク、クハハッ! 笑ワセルナ! ソンナ天命デ戦エル訳ガ無イダロウ!」
「うるっせえな、魚なんだから仕方ないだろこのやろう」
「……ソウカ。ク、クハハハ、クハハハハハハハ!」
急にデモンは、大きな声で笑い始める。
闘技場に響き渡る大音量で、それは盛大に笑い転げ。
唐突に、収まりきらない怒りを現した。
「コノ雑魚ガ! 魚ハココデ死ネエエエエエッ!」
半径一メートルは超えるであろう巨大な闇のエネルギーの塊を拳に宿し、デモンは渾身の一撃をジンに向かって突き出した。
ジンが一瞬で構える。
流れるような動きで闘気を一点のみに集中、上級魔族であるデモンですら視認不可能な速度で拳が突き出され――
――次の瞬間、デモンが、跡形もなく吹き飛んだ。
遅れて、地面を揺らすほどの轟音。強大なエネルギーが動いたことによる突風が吹き付ける。
周囲に漂っていた闇の魔力が全て霧散し、闘技場に平和が戻る。
「――な、なんだこの穴は!」
するとその時、闘技場の外から声が。
「面倒なことになりそうだな」
ジンは適当に周りを探しライオネアスを見つけると、闘技場の中央でいい感じに倒れさせる。
「これでよし、と」
上級魔族を一撃で倒した自称魚は、気配を消して闘技場から去っていった。
その後、デウス教から駆けつけた応援部隊が到着し、観客たちも次々と目覚め、闘技場は騒がしさを取り戻していった。
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