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第二十三話 絶対的圧倒的強者

 闘技場。

 そこは地獄絵図と化していた。


 倒れる選手。デモンに向かって行くが、一振りでなぎ倒される。

 勇者も既に気絶。二つ名を持つ者も全員倒された。


 流れる血は多く、広がる悲鳴に救いは無く。


 ただ唯一、残り少ない魔力で癒やしの力が働いている。

 

 それは、奇跡の光。


「みんなっ……うぐっ……死なないでっ……」


 涙を流すコフィから放たれる光は、人々を癒やす聖なる光。

 だが、闘技場の中で必死にデモンに抵抗する者たちの傷は治らない。


 デモンが唸る。


「コレガ、ワレラノ王ヲ脅カス存在ナノ力……クハ、クハアハハハハ!」


 デモンが笑う。


「弱イ! 弱スギル! イイダロウ! オマエタチニハ苦シミヲ与エテヤル! 精々、我ラガ王ガ満足デキル悲鳴ヲアゲテミセヨ!」


 デモンが右手を天に掲げる。

 瞬間、闘技場が真っ黒の霧に包まれた。


「あう、ぐっっうううぅっ!」


 コフィが悲痛な声を出す。

 胸を強く握りしめられるような強烈な痛みが、少女を襲っていた。


(誰か……)


「たす、けてっ……」


 コフィの視界が、暗く、暗くなっていった。




 デモンの放つ闘技場により、観客も含め闘技場にいる全員の意識が刈り取られた。







 屋台で飯を食べ終えたところで外に出てみると、何か嫌な気配がした。

 闘技場の方から気配を感じたので見てみると、なんか黒い霧みたいなのが出現している。いつの間に。


 闘技場に広がってる魔法、かなり規模が大きい。


「……よし、行くか」


 闘技場に向かって、俺は駆け出した。







 黒い霧を消し、周りを見渡したデモンは愉快そうに言う。


「アア……良イ苦悶ダッタ」


 闇魔法を使ったことで闘技場にいた人間は全て気絶し、倒れている。

 人間の苦しむ姿を堪能したデモンは、これ以上なく幸せな表情だ。


「全ク、勇者ガコレホド弱イナラ、モット下ノ奴デ十分ダッタナ」 


 一人愚痴るデモン。

 デモンは上級魔族として大きな力を持っており、本来は重要な仕事を任されるはずだった。

 これから脅威になってくる勇者を事前に殺すという仕事が大切だ、ということは理解していたが、あまりに勇者が弱すぎて拍子抜けしたのである。


「マアイイ、コウシテ楽シメタノダカラ」


 周囲に流れる血を視界に入れ、デモンはニヤリと笑みを浮かべる。


「サテ、ソロソロ殺スカ」


 デモンは倒れている勇者へと一歩踏み出した。


 その時。


「……誰ダ?」


 闘技場に空いた穴の方からガサッ、と瓦礫を踏む音が響く。


 そこには、孤児院出身と思われるほどにボロい服を着た、十五歳ほどの男がいた。


「俺は、聖女を助けに来た、ジンという者だ」


「ナルホド。我ハ――」


「ってコフィ!? 死んでないよな!?」


 倒れているコフィを目にした途端、ジンは慌てて近づいて状態を確認する。


「オイ、聞イテイルノカ、我ハ――」


「生きてるか。一応回復かけとこ」


 コフィの胸に指を当てた途端、まばゆい光がコフィを包む。

 コフィは一瞬、うぅっ、と苦しげに声を出した後、スースーと寝息を立て始める。


「オイ、オ前」


「ふう、これでよし」


「オイ!」


「ん? あ、ごめん、で、何?」


「……我ノ名ハ、デモン! 我ラガ王ニ仕エシ魔族デアル! 我ラガ王ニ命ゼラレ、未来ノ宿敵デアル勇者ヲ――」


「あーすまんが、そういうのめんどくさいから飛ばしてもらっていいか?」


「貴様……殺スッッッ‼」


 かなり適当に扱われたデモンは怒りに身を任せ、化け物じみた身体能力を十二分に活かした攻撃を開始した。


 瞬時にジンの目の前まで飛ぶと、グラトムを倒した時の数倍の力で強烈なアッパーを繰り出す。

 花火の如く空の中へ打ち出されたジンの元へ、デモンは驚異的な跳躍力で追いつくと、闇魔法の結界で足場を作り、猛烈な連続攻撃を繰り出した。

 蹴り、殴り、投げ、吹き飛ばし、四方八方からの超速攻撃。

 闘気だけでなく闇魔法の強化も加わった圧倒的攻撃力。衝撃波が発生し、余波で下の闘技場の窓が揺れる。


 デモンは両手を組んで、闇の力をこれでもかと込めると、怒りを存分に乗せて振り下ろす。

 くの字に体を曲げて地面へと激突するジンに、更に追撃のかかと落としがめりこむ。

 丈夫にできている闘技場の床が割れ、同心円状に闇の魔法の光が広がった。


「死ネエエエエエ!」


 両手に真っ黒な魔力をまとわせ、目にも留まらぬ速さで殴りまくるデモン。

 どんどんと広がるクレーターと共に、デモンが勝利を確信した瞬間。


「――なんだ」


 デモンの背筋が、ぞわりと震える。


「……ッ!?」


 すぐさま離れ、デモンは様子を窺う。

 木っ端微塵になってもおかしくないほど殴られたはずのジンは、何事も無かったかのように立ち上がる。


 人間とは思えないほどに、あまりに固いジンを見て、デモンの心の中にあるものが生まれる。


「結構期待してたんだけど、こんなもんか」


 それは、恐怖。


 デモンは、心臓が掴まれるような感覚を覚えた。


 根源的な恐怖。

 勝てるはずのない絶対的圧倒的強者からの、死の圧力。

 ドロリとした生ぬるい”死”に包まれ、デモンは、吐き散らかすように言った。


「ナンダソノ殺気ハ!? オ、オ前ハ何者ダ!?」


 すると、ジンは少し考えてから答える。


「俺は、聖女を守るために孤児院から出てきた魚だ」


「サ、魚ダト!? ナンダソレハ!」


「天命が魚なんだよ、天命が」


「天命ガ……魚? ク、クハハッ! 笑ワセルナ! ソンナ天命デ戦エル訳ガ無イダロウ!」


「うるっせえな、魚なんだから仕方ないだろこのやろう」


「……ソウカ。ク、クハハハ、クハハハハハハハ!」


 急にデモンは、大きな声で笑い始める。

 闘技場に響き渡る大音量で、それは盛大に笑い転げ。

 唐突に、収まりきらない怒りを現した。


「コノ雑魚ガ! 魚ハココデ死ネエエエエエッ!」


 半径一メートルは超えるであろう巨大な闇のエネルギーの塊を拳に宿し、デモンは渾身の一撃をジンに向かって突き出した。


 ジンが一瞬で構える。


 流れるような動きで闘気を一点のみに集中、上級魔族であるデモンですら視認不可能な速度で拳が突き出され――


 ――次の瞬間、デモンが、跡形もなく吹き飛んだ。


 遅れて、地面を揺らすほどの轟音。強大なエネルギーが動いたことによる突風が吹き付ける。

 周囲に漂っていた闇の魔力が全て霧散し、闘技場に平和が戻る。


「――な、なんだこの穴は!」


 するとその時、闘技場の外から声が。


「面倒なことになりそうだな」


 ジンは適当に周りを探しライオネアスを見つけると、闘技場の中央でいい感じに倒れさせる。


「これでよし、と」


 上級魔族を一撃で倒した自称魚は、気配を消して闘技場から去っていった。


 その後、デウス教から駆けつけた応援部隊が到着し、観客たちも次々と目覚め、闘技場は騒がしさを取り戻していった。

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