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第二十二話 絶体絶命

 デモンへの一斉攻撃が開始された。

 それは弾幕と言っても過言ではない量の攻撃。戦う戦士は誰もが選抜戦の選手。一定水準以上の強さを持った者たちである。


 攻撃に続く攻撃。剣斧ハンマーその他もろもろの武器が、ごはん一粒分も残させないと言わんばかりの勢いで振り下ろされる。

 反撃は無い。ライオネアス達は、反撃する間もないのだろうと考える。それほどに、苛烈な攻撃なのだ。

 もちろんそこに同情の余地はないが。


「魔法を使える者は詠唱に入れ!」


 前線から一旦離れたライオネアスが指示を出す。

 すると少々離れた位置で待機していた魔法使い達が、杖を掲げてそれぞれ魔法の詠唱を始める。その中には水の魔術師(アクア・マジシャン)・ルーシーの姿なども。


 選手たちの熱気と波状攻撃に襲われるデモン。


「魔族から離れろ!」


 ライオネアスの指示が飛ぶ。

 彼のカリスマ性が乗った声が響くと同時に、デモンに攻撃を仕掛けていた者たちが飛び退く。

 勇者、凄まじい統率力である。


「放て!」


 そして赤青黄色の多種多様な魔法、同時多発行使。

 弾幕と言って差し支えないほどの濃密な魔法の嵐は、イジメか何かかと勘違いしてしまうほどに容赦なく、デモンのいる地点に降り注ぐ。


 爆音、轟音。

 火魔法で空気が急速に熱せられることによる気圧の変化。水魔法でその反対の変化。

 気圧が猛烈に変化し、一度吸い寄せされた空気が一気に膨張し吹き付け、渦巻き、瓦礫を巻き込みながら破壊をもたらしていく。


 その威力はもはや、戦争などでしか見かけないはずの戦術級。

 魔法の一斉攻撃の火力は、それこそ勇者でも深手を負ってしまうほどのものへと昇華されていた。


「まだだ! 続けて魔法使いは次の詠唱に! 次の魔法までの間は僕たちが攻撃だ!」


 ――オオオオオオオオッ‼


 以降、繰り返しである。

 集中砲火とはこのことだろう。

 もはらライオネアス自身も、デモンの体が原型をとどめているのか分からない。

 しかし、それでも攻撃をやめなかった。一切油断もしなかった。


 なぜなら、相手はあの上級魔族。国を相手にしてしまえるほどの戦力。

 ここで負ければ、それこそこの都市にいる人間は死んだも同然。

 もしかすると、デウス教の中に上級魔族に対抗できるほどの戦力がいるかもしれない。

 だがいなかった場合は、都市が滅ぶ。


 ライオネアスにとって現在の戦いは、負けられないものだった。


「(状況も優勢だ……このまま続けていればいずれは……!)」


 実際、優勢な状況に変わりはない。勝機は少なくないと、勇者は心に余裕を持ち始めた。


 その時だった。


 再度魔法の嵐の中で、紫色の光が輝き出した。


(なんだあれは……っ!)


「全員退避ッ‼ すぐ退くんだッ‼」


 しかし既に遅い。

 半径三十メートルほどの範囲が、闇の魔力に包まれる。


「吹キ飛ベ」


 デモンが呟いた瞬間、その範囲内にいた者全員――魔法使い、近接戦士、そしてライオネアスも――強烈な力で吹き飛ばされた。


 闘気で防御しても抗えない波動。

 偶然その範囲外にいた者も、吹き飛んできた戦士に巻き込まれて飛ばされる。


 次にライオネアスは、壁を感じた。


「がはっ……」


 強烈な痛みと自分のいる場所を知り、そして、吹き飛ばされたのだと自覚する。

 壁に亀裂が入っていることから、吹き飛ばされたのかも分からないような速度だったと認識。


 反射的に闘気で防御していなければ……やられていた、と頭の中では冷静に分析するが、ライオネアスの心の中は焦りに焦っていた。


「まだ……動ける者は少しでも……魔族の足止めを……っ!」


 声を出しながら立ち上がるライオネアス。

 状況は一気にひっくり返った。







 VIP席では一人の少女が戦況を見ていた。

 その名はコフィ。聖女である。


 ライオネアスが一人突撃し、その間に逃げろと言われ。


 ロンウィは、教会の戦力やグラトム以外の道場の師範などを呼ぶためにいなくなった。

 ついでにウィルは、ロンウィに抱えられて安全な場所へ避難。その時のウィルの厳しい表情は、一見して悪魔と戦えないことを嘆いているように見えたが、実際はパンチラタイム終了に悲しんでいるだけである。


 そして現在、VIP席に残されたのはコフィのみ。

 本来なら逃げるべきところだが、コフィは動けなかった。

 自分のせいで現在の状況に陥ったのだという責任感が、心の中から離れないのだ。


 その上、魔法の弾幕と大勢の戦士たちにより滅多打ちで、コフィには今の所優勢に見えた。

 わざわざ逃げるまでもなく倒せるかもしれない、という少しの余裕が生まれたことも、この場から去らなかった要因の一つだろう。


 しかし、そんな考えはすぐさま払拭される。

 闇の魔力が広がり、一瞬で闘技場で戦う戦士たちが吹き飛ばされたのだ。

 一気に逆転。天から地へと落ちるかのよう。


「まだ……動ける者は少しでも……魔族の足止めを……っ!」


 ライオネアスが指示。動ける者が数名向かうが、デモンが腕を一振りすると薙ぎ払われる。


 相手は上級悪魔。

 勝てる見込みなど、勝算など、最初から無かったのだ。


 一人の戦士が、デモンの下に転がる。


「うっ……」


 うめく戦士に、デモンは冷たい視線を向ける。

 するとデモンは足を上げ、闘気を集中させ始めた。

 その足は、戦士へと向けられる。


「やめて……」


 コフィは声を出すが、止まらない。


「やめ、て……」


 足が振り下ろされる。


「――やめてっ!」


 強く叫んだその瞬間、コフィの目の前からレーザーのごとく光が発射された。

 デモンは驚いた表情でその場から飛び退く。

 先程までデモンがいた空間に、真っ白の閃光が飛び散り床を焦がした。


「ヤット、出テキタナ」


 コフィは、白い光を纏ってガラスの部屋から出る。

 その幻想的な姿に、その場にいた全員が目を向けた。


「みんなを、癒やして……」


 祈りと共にどこからともなく発生する淡い光。

 怪我をしている戦士たちに触れた途端、それは癒やしの力となって傷を回復させた。

 聖女のみが使える強力な力――”無詠唱範囲回復”である。


 デモンは感心したように言う。


「ナルホド、コレガ聖女ノ能力、回復魔法トイウコトカ。我ラガ王ガ警戒スルノモ理解デキル」


 コフィの光は闘技場全体の人のみを回復させていた。

 まだまだ駆け出しの聖女であるためその回復速度はかなり遅いが、広範囲かつ味方だけを回復させることができるのは、聖女だけが成せることだった。


「今だ! 全員、魔族に突撃!」


 ライオネアスが大きな声で指示を出す。

 生死をかけた一斉攻撃が始まる――


「ダガ……」


 デモンが腕を一振り。黒い魔力が、強烈なエネルギーに変換される。

 次々と、戦う者が吹き飛ばされていった。


「弱イ……本当ニ、コレガ勇者トソノ仲間ノ候補ナノカ……弱スギルデハナイカ……!」


 続けざまに倒れていく人々。

 コフィはその光景を見て、それでも力を使うが、癒やす速度が、聖女としての力が圧倒的に足りない。

 そうして間に合わずに、一人、また一人と死んでいく者が。


 その無力さに、そして目の前の残酷さに、コフィは涙を流す。


「みんなっ……うぐっ……死なないでっ……」


 絶体絶命であった。

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