第二十一話 希望の光
「俺はウィオル・クラウン・ライオネアス! 今代の勇者だ!」
闘技場に姿を現す一人の勇者。それは民衆にとっての希望の光だが、VIP席四人にとっては玉砕覚悟の博打。
鉄拳のグラトム、という名前は有名だ。当然ライオネアスも知っている。彼の戦歴も、経験に裏打ちされた強さも。
そのグラトムが、闘気を使って完全にガードしたにも関わらず倒された。
一撃で。
そう、一撃で。
鉄拳という二つ名の所以となった強烈な正拳突きも、デモンには効かず。
逆に構えも何も無しのぶん殴りで、歴戦の戦士がワンパンである。
勝てるかどうか分からない。敵が圧倒的な力を持っていることだけが確か。
だが、彼は勇者として立ち向かうしかなかったのだ。
なりたて聖女であるコフィも、デウス教の狂信者であるロンウィもそれを止めた(ウィルはパンツに夢中で特に何も言わなかった)が、その時彼はこう反論したのだ。
――勝てる確率で足を止めるのは正しいことだが、今、俺は勇者として、この選択を間違いたいんだ。
普段は冷静だが、やるときにはやる男、ライオネアスである。
その言葉を聞いた三人。コフィはその勇者然とした姿に胸をドキッとさせ、ロンウィは尊敬の眼差しを向け、そしてウィルは尚もパンチラを継続した。ブレない男である。
そして現在、勇者とデモンが対峙するところとなっている。
「オ前ガ勇者カ」
「そうだ」
「聖女モ出テコイト言ッタハズダガ?」
「都合よくこの場所にいるとは限らないだろう」
勇者の言葉を聞いて、デモンは若干疑いの眼差しを向ける。
魔族としての力を開放したデモンは、既に聖女の魔力が近くにあることを感じ取っていた。
しかし正確な場所までは把握できておらず、勇者と一緒にどこかに隠れているものかと推測していた。
「……オ前ト一緒カト考エテイタガ、ドウヤラ違ウヨウダナ」
大正解である。先程まで、グラトムとデモンの戦いを一緒に見ていたのだ。
あの時加勢すれば良かったとは、現在のライオネアスの心境である。
「お前は俺が倒す」
ここに出てくる直前に、自分が囮になるから闘技場から逃げるようにと指示したライオネアス。
先程まで一緒にいたことがバレないようにと、とりあえず倒す宣言をして話題を逸らす。
「ナルホド」
対して、デモンは余裕の笑みを崩さない。
「流石ハ勇者、加護の量ガ尋常デハナイ。ソノ黄金ノ剣カラハ巨大ナ力ヲ感ジル。喰ラエバヒトタマリモナイダロウ」
戦う前から様々な情報を得ようとするデモン。
対してライオネアスは、次々と自分の能力を考察されることに焦燥。このままでは不利になってしまうと考え、相手の気をそらすために言葉をかける。
「狙いは俺だろう。魔力の放出を止めるんだ」
「ナゼ?」
「観客は逃がせ。彼らは関係無いだろう」
「ソレハ無理ダ」
「なぜだ!?」
「ナゼ、ト言ワレレバ……」
醜悪な笑みで。
「楽シイカラ、ダナ」
「魔族がっ……」
心の底から震えるような怒りを湧き上がらせるライオネアス。
知性があるのでもしかするとまともな生物なのかもしれない、という頭の中に浮かんでいた考えが吹き飛ぶ。
狂気の塊。人間で言うところのサイコパス。
和解の余地など一ミリも存在しない。あるとすればそれは、非人道的な行為を楽しむ混沌とした欲望。
善の要素を排除し、悪のエキスを濃縮して吸い込んだカイブツ。
ライオネアスは今この瞬間にはっきりと、目の前に立つ魔族が”人類の敵”であると認識した。
「人間ハ、イイ。恐怖シタ時ノ震エガ、絶望シタ時ノ表情ガ本当ニ良イノダ」
「…………分かった」
ライオネアスはこれほど正しくない存在を初めて見た。そして確信した。
こいつは殺すべきだと。
腰から、黄金の剣をスラリと抜き放つ。
それだけで殺してしまうのではないかというほどの殺気を込めて、強くにらみつける。
「お前は生きていてはいけない存在だ。今すぐに殺してやる」
「オオ……良イ殺気ダ」
ライオネアスは、ゆっくりと歩を進める。デモンとの距離が少しずつ詰まっていく。
しかしデモンは少しも動くこと無く、余裕の表情でただ立つのみ。
するとライオネアスが唱える。
「限界突破」
瞬間、ライオネアスの体が黄金のオーラに包まれる。
目を見開くデモン。
構わず、ライオネアスは突撃する。
「っ!」
剣を素早く一振り。
攻撃がデモンの体に直撃し、切り裂いていく。
次いで何度も突きを繰り出し、敵の体を穴だらけに。
足を払い転ばせて、地面を叩き割らんばかりの勢いで大上段から振り下ろす。
「聖者の激動よ ここに宿れ」
言葉を呟いた瞬間、黄金の剣に光が灯り、そして強烈に発光。
「はあああああっ!」
両手で思い切り剣を振り切る。
デモンに当たる瞬間、光が爆発するかのように力を開放し、デモンを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたデモンは驚愕の表情。片腕が剣に切り落とされて欠けている状態。
「戦える者よ! 戦士の心を持つ者よ!」
ライオネアスは、闘技場全体に聞こえる声量で呼びかけた。
「俺は勇者ライオネアス! この魔族を共に倒す勇気があるならば、どうか一緒に戦ってほしい! 皆の力が必要なんだ!」
しかし、誰も反応しない。
勇者といえど、この状況で出てくる人はいないのか。
そうライオネアスが落胆しかけた時。
――俺はやるぞ!
大きな斧を持った人――恐らく選手権に出場していた選手の一人だろう――が闘技場へ躍り出る。
それがきっかけとなり、次々と戦士が出てくるではないか。
「これは危険な戦いだ……それでも、俺の剣に続いてくれるのか?」
――オオオオオオオ!
ライオネアスの問いに、戦士たちは大きな雄叫びを上げて答える。
「よし――行くぞ!」
戦いにおいて、勢いというのは非常に重要な要素だ。
それが強者であれ弱者であれ、勢いに乗った者を止めるのは難しい。
そして今、ライオネアスたちはとてつもなく勢いがあった。
ライオネアスは集団の力、そしてその場の雰囲気を盛り上げることによる勢いで、デモンを倒そうとしていたのだ。
これならば、押し切れるのでは。
一瞬、そうライオネアスが考えた時だった。
「――ナン、ダト」
驚愕の色に染まる魔族の声が、不吉な予感を彼に感じさせたのである。
集団は、一気に魔族へと飛びかかった。




