表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

第十九話 上位魔族デモン

 突如として出現した悪魔を前に、会場は一瞬で混乱に包まれた。


 ――魔族!? 嘘だろ!?

 ――逃げろ!

 ――魔族が出たぞっ!

 ――教会は何をしているんだ!?

 ――どけ、邪魔だ!

 ――なんでこんなところに魔族が!?

 ――俺は帰るぞ!


「静カニシナイト、殺シマスヨ?」


 その一声で、逃げようとしていた観客の動きが停止する。

 停止、させられたのだ。

 強力な魔力を浴びせられ、恐怖で縛られる。一歩も動くことはできない。

 至近距離で魔力を食らったスピードは失禁してしまっているほど。

 魔族の力は圧倒的だった。


「我ノ名ハ、デモン。我ラガ王ニ仕エシ魔族」


 デモンは名を名乗ると、太ももに刺さった細剣を見た。


「コンナ」


 握る。


「コンナモノ」


 躊躇なく引き抜く。


「コンナモノデ、我ヲ倒セルト?」


 そして放り投げた。

 スピードに歩み寄る。

 恐怖に顔をひきつらせるスピードの頭をわしづかみ。


「ぐっあああああああ!」


「イイ鳴キ声ダ」


 ニマリと笑ってからデモンは言う。


「我ラノ目的ハ勇者ト聖女ダ。ドウセココニ居ルノダロウ、姿ヲ現セ。ソウスレバ、コノ命ハ助ケヨウ」


 それは悪魔の誘いだった。







「我ラノ目的ハ勇者ト聖女ダ。ドウセココニ居ルノダロウ、姿ヲ現セ。ソウスレバ、コノ命ハ助ケヨウ」


 魔族がそう喋っている時。


 VIP席。

 魔族から見えない位置に隠れるウィル、ロンウィ、ライオネアス、コフィの四人。

 完全に逃げの構えである。

 怖いからとか危ないからとかそういう理由ではなく、単に勝算が無いからであった。 


 魔族は危険度によって下級、中級、上級に分類される。

 その危険度は個体によってバラバラだが、一つだけ簡単に見分ける方法がある。

 角の本数だ。

 魔族にとって角は魔力のタンク。莫大な量の魔力を角に溜め込み、戦闘時に使用するのだ。

 その角の本数が多ければ多いほど、保有する魔力量も跳ね上がる。危険度が上がる。

 角を持っていないか一本の魔族が下級魔族、二本持っていれば中級魔族、三本以上持っていれば上級魔族、と認識される。


 現在闘技場にいるデモンの角は三本。上級魔族だ。

一国家の軍隊に相当するレベルの戦闘力。人語を理解できるほどの知能。それらを併せ持った非常に危険な存在。

 ひよっこ勇者のライオネアスでは到底、太刀打ちなどできるはずもない。


 大ピンチである。


「どうするんだい?」


 ウィルが焦った表情で言う。

 勇者パーティーでもないウィルがこの場にいれば、とばっちりを食らうのは目に見えている。

 早くここから離れたいのだが、ジンとの戦闘によって体は動かない。つまり何があろうと逃げられない。

 それでも今正気を保っていられるのは、突然の事態に驚き、自身のスカートがめくれて若干見えてしまっていることに気づいていないコフィとロンウィの、そのパンツによるものである。

 不動の変態、ウィルである。


「ど、どうすれば……」


 魔族に指名を受けたコフィ、大混乱である。

 聖女になったばかりの彼女の脳内は、なぜこんなことに巻き込まれなきゃ無いのよ! という愚痴と不安八割、全てジンのせいであるという気持ち二割。ここに来て魚への罵倒は忘れない少女である。

 しかし言葉に出るのは不安だけ。流石にこの場で文句を垂れ流すほど、彼女の心は豪胆ではない。


「…………」


 狂信者は苦悩中だ。

 デウス教を誰よりも信仰しているロンウィは、闘技場の魔族を討伐したかった。誰よりも何よりも優先して、魔族を今すぐギッタンギッタンに殺してやりたい。その願望が爆発してしまいそうであった。

 だがその感情よりも更に強く、自分では勝てない、と直感している。

 先程魔族が放った魔力。全身でそれを感じ取った彼女はすぐさま分かったのだ。勝てない、と。もしかすると、師であるリンネルを超える力を持っているかもしれない、と。

 狂信者、歯がゆい気持ちである。


「俺に考えがある」


 この場で一番頭が切れる男、ライオネアス。

 ひよっこ勇者ではあるが、それでも勇者として今まで何度も面倒事にぶつかってきた彼だ。この場で唯一、現状の解決方法を模索している人間だった。


 ライオネアスの頼もしい言葉を聞いて、一同は希望の光を垣間見る。


「それは本当かい!?」


「ああ……確実ではないが、リンネルを待つ」


 リンネルはデウス教の大司祭。

 全盛期を過ぎたとは言え、その戦闘能力は対魔族戦に限れば折り紙付きである。


 しかし、ロンウィが声を上げる。


「先程から大司祭に連絡を取っていますが……一向に返答がありません」


 その時だった。

 デモンが思い出したように言葉を出す。


「アア、リンネル、ダッタカ。アノ大司祭ハ始末シタ。邪魔ダッタカラナ。コノ闘技場ノ周囲ニ結界モ張ッタ。応援ヲ期待シテ待ッテイレバ、多クノ命ガ飛ブゾ?」


 絶望の一言である。

 対魔族戦における切り札が、既に敵の手によって落ちていたのだ。

 四人の心境はまさに、絶望である。


「行くしか無いのか……」


 ライオネアスの一言に、ウィルが焦って反論する。


「魔族の言葉はどう考えても僕たちを誘い出すためのものだよ!? 今行っても勝てる見込みなんて全然ないし」


 他のメンバーも同様の表情。

 しかし、冷静な勇者は勇者だった。


「それでも俺は勇者だ。今ここで出ないというのは……俺の天命に、俺の生き方に反している」


「それでもさ!」


「お前は俺に、この会場にいる観客全員を見捨てろと言うのか? お前はそれが常識だと、教えられたのか?」


「っ……」


 ライオネアスの目は真剣だった。しかし、苦悩もしていた。


「くそっ……他に方法があれば」


 八方塞がりとはこのことである。

 出ていけば殺される。

 しかし出ていかなければ勇者として失格。

 この状況から一体どうすればいいのか。


 そう悩んでいた、その時。


「……ン? 出テコイト命令シタノハ勇者ト聖女ノハズダガ? オ前ハ誰ダ」


 一人、闘技場に歩む影。


「グラトム。二つ名は鉄拳」


 流れるような動作で構えに入る。

 そして一瞬で、デモンの前まで移動して言った。


「ちょいと、俺と戦ってもらうぞ」


「ナルホド」


 デモンが感心するように声を上げた。


「面白イ」


 すぐさま、戦闘が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ