第十四話 Dブロック
Cブロックのバトルロワイヤル。
開始直後、フードをかぶった男が攻撃。
一撃で、選手全員を倒すという圧倒的力を見せつけた。
その上、そんな大技を披露したというのに疲れ一つ見せずに拳を天に掲げてアピール。
それは強がりなどではなく、まだまだ余裕であることの証だ。
ガラス張りの部屋の中。
勇者という天命を持つ男、ライオネアスは、今しがた見た光景に猛烈な違和感を感じていた。
(今の攻撃……闇の属性を持っていたのか?)
闇属性魔法。
凄まじい破壊力を持ち、触れたものすべてに大きなダメージを与える。
しかし人間で使える者は少なく、使えたとしても制御が困難で、まともに発動できない場合がほとんど。
人間で闇属性魔法を使用する者は稀である。
主に魔族が使用する魔法だ。
そう、魔族。
力有る者に従い、力無きものを排他する。
種族の違う人間を排除し、世界の大陸すべてを支配下に置こうとしている危険な存在である。
ライオネアスは勇者の固有能力として、闇の属性の探知が可能だった。
ローブの男の攻撃が速すぎて、ライオネアスにはほとんど見えていなかった。
が、それが闇属性を含むものだということだけは感知できていた。
(魔族だとしたら……危険だな)
勇者の役目は魔王討伐である。
魔王に従事する魔族達は、言うなれば魔王の仲間。つまり、魔王と同じ討伐対象となる。
もし今眼前で起きている出来事が魔族の仕業であったならば、すぐさま始末すべき案件だ。
(……リンネルに報告しておくか)
しかし、ライオネアスは冷静な勇者だった。
彼は勇者。しかし、勇者としてはまだ経験が浅い。初心者である。
魔族には、下級魔族、中級魔族、上級魔族と階級が存在する。
ライオネアスが戦闘になったとして勝算があるのは、下級魔族の中でも弱い者。
中級魔族以上となれば、死を覚悟して挑まなければならなくなってくる。
それほどに、今はまだ、勇者として弱かった。
だから、出しゃばるような真似はしない。
これからの伸びしろを、現在の実力だと勘違いしない。
それが、ライオネアスの判断だった。
ライオネアスは近くにいた狂信者に声を掛ける。
「ロンウィ」
「はい、なんでしょうか」
「リンネルと少し話をしたい。呼べるか」
「分かりました。呼んでみます」
見た目だけなら完璧なシスターである少女が、魔法を行使する。
それは遠距離で通信を行える魔法。
才能と努力が必要な、難易度の高い魔法であるはずなのだが、狂信者は当たり前のように使う。
ライオネアスは、どうしてこんな変人が、こんなにも才能を持ち合わせているんだ、と心の中で愚痴る。
この言葉は、とあるAブロック勝者の、パンチラ変態青年にも大いに当てはまる言葉なのだが、ライオネアスはそのことを全く知らない。
ライオネアスは、ロンウィの表情を窺う。
(本性を知らなければ、彼女もいい子に見えるんだろうが……)
近い内に、Aブロック勝者の本性を見ることになることを、彼はまだ知らない。
不幸な男である。
すると、表情を窺われていることに全く気づいている様子の無い少女が、急に顔を顰める。
まさか、見ていると気づかれたのか、と少し身構えるライオネアス。
対してロンウィは、顔を顰めたままライオネアスへと向き直って言った。
「すみません……繋がらないようです。大事な要件でしたら、強制的に声を送ることもできますが……」
「いや、いい。後で直接話す」
気づかれていないと知り安堵した反面、ライオネアスはリンネルと通信できないことに不安を覚えた。
(いつもならすぐに出るはずだが……外せない用事でも有るのか?)
リンネルはデウス教の大司祭。
現時点では、勇者であるライオネアスよりも強い。
物理的な意味でも、権力的な意味でも、リンネルはライオネアスを大きく上回っているのだ。
だからこそ、魔族がいた場合にリンネルがいればこれ以上無いサポート役となる。
リンネルは老齢であるから、これからの成長は望めない。
が、即席的な戦力としてはとても優秀だ。
ライオネアスが魔族と十分に戦えるようになるまでの間のつなぎとして、様々な場面でサポートを行う手はずである。
そのリンネルが、選抜戦に魔族が入っているかもしれないというこの事態を見逃すというのは、ライオネアスには考えられなかった。
「……考えすぎか」
狂信者が反応する。
「どうしましたか?」
「いや、なんでもない。そろそろ昼食をとろう。それと、少し体を動かしたい」
「分かりました」
ライオネアスは、奥の席に座るコフィに声を掛ける。
「そろそろ昼食にしようと思うのだが」
「…………」
何の反応も見せないコフィに、ライオネアスは少しばかり疑問を抱く。
更に近づき、はっきりと言う。
「どうした? 何か気になることでもあったのか?」
「っ……な、なんでもない、です……」
「……そうか。そろそろ昼食だ。早めに食べるぞ」
「はい……」
どうせ同じパーティーの仲間になるのだから、もう少し砕けた口調になってもいいのではないか、と心の隅で思う勇者。
スタスタと歩みを進め、部屋を出る。
(今の……何だったの……)
一方、コフィは聖女固有の能力で、勇者よりも更に色濃く闇の存在を感じていた。
それがどれだけ強力で、逃げるべき存在なのかも、分かっていた。
しかし、それが闇属性の魔法の影響であることまでは理解できていなかった。
*
「平凡だな」
「そんなこと言ったら選手に失礼じゃないかい?」
「少しも思わないのか?」
「少しは……思うけどさ」
「ほらな。平凡だ、平凡」
Dブロックの試合を、俺はウィルと一緒に見ていた。
が、他の試合と比べてそれは普通だった。
普通すぎた。
始まって、普通に攻撃しあって、普通に倒れて、普通に人数が減って。
最後に残ったのは、神速・スピードとか言う二つ名の人。
結構速いらしい。知らんけど。
「あ、終わったか」
「そうだね」
「これで明日の出場選手は決まったってわけか」
「いよいよ、だね」
「……Cブロックの奴とやりたかったな」
「え? Cブロックって、あの、一瞬で全員吹き飛ばした人かい?」
「ああ」
「あんなに強そうなのに……なんでだい? もしかしてジンは、勇者パーティーに入りたくないのかい?」
「いや、そういうわけじゃない……ただまあ、強いやつと戦ったほうが楽しいだろ? それにだな……」
「それに?」
Cブロックの奴が使った魔法のことをウィルにも話そうかと思ったけど、やめる。
話したところでどうにかなる問題でも無い。
「……いや、やっぱりなんでもない。ところで、最後のトーナメントって今からなのか?」
「いや、最終トーナメントは明日だね」
「よし、じゃあ宿戻って寝るか。……あ、ウィル、お金は頼んだ」
「ジン、ちょっと、あんまり僕にお金を頼りすぎじゃないかい?」
「そうか、悪いな。だめなのか?」
「そんなことばっかりしていると、あんまりいい人間になれない、って言いたかっただけさ」
「パンチラばっかりやってる奴が言うな」
「パンチラは……健康にいいから」
「どういう経緯があって健康に繋がるんだよ」
「目の保養……かな?」
「だめだこいつ手遅れだ」
こんなやつと一緒の宿に泊まらなければならないのか。
最悪だ。
少し憂鬱な気分で、俺はウィルと一緒に闘技場を出た。




