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第十三話 Cブロック

「師匠!」


「師匠言うな」


 Bブロックが終わり腹が空いた。

 ので、昼飯を食べに行こうとしたところ、偶然同じく昼飯に行こうとしていたウィルと会ってしまった。


 仕方ないので、二人で外の飯屋に入って注文する。

 言うまでもないが、ウィルのおごりで。


 ウィルが興奮した様子で言ってくる。


「すごかったよ! 一瞬で全員倒れて、もうなんて言えばいいか! あんなの初めて見たよ!」


「お前、試合終わってすぐだったろ。よく観客席に行けたな。混んでなかったのか?」


「まあ、あの時は女の子のパンツを追うのに夢中でね」


「トーナメント出場者が試合後に何してんだよ」


「そして気づいたら観客席にいたんだ」


「パンツを追っている間に一体何が起きたんだ」


 相変わらずヤバい奴だ。

 強い上に変態すぎる。


 と、飯が運ばれてきたので食べ始める。


 でも、とウィルが聞いてくる。


「あの時、一体何をしたんだい?」


「あの時?」


「一瞬で選手全員が倒れた時さ」


「ああ」


 思い出しながら説明する。


「まず、首筋に手を当てて、魔法で気絶させる。その後、武器が持ち主に刺さらないように適当に位置を調整する。これを全員分やる。それだけだ」


「……え?」


「……ん?」


 ウィルが驚いている。


「それだけ、って、同時に全員倒れたようにしか見えなかったけど、どんな速度でやればああなるんだい……」


「そりゃあ、まあ、急げば間に合うんじゃないのか」


「ええ……」


「コツは、急いで移動すると衝撃波が発生するから、それが飛び散らないように魔法で消すのを忘れないことだな」


「えっ、ええ……」


「なんだよ」


「い、いや。格が違うなぁ、って思っちゃってね。僕には想像もできないよ」


「ん? いや、何言ってんだよ。ウィルも訓練すればできるぞ」


「…………え? それは、本当?」


「ちゃんと努力すればな」


「……し、師匠!」


「だから突然師匠言うな」


「僕はいつまでも君に着いていく!」


「ストーカーかお前は」


「弟子にしてもらえるなら、僕はなんでもやるよ!」


「え? 今なんでもするって」


「言った!」


「認めるのかよ」


「僕は君のために生まれてきたんだ!」


「それは流石に気持ち悪いからやめろ」


 普段からパンチラとかしてるこいつから言われると、なんか、背筋がぞわっとする。


「まあ、お互いトーナメントに進めて良かったな」


「そうだね、次も頑張ろう」


「それで、次は誰と戦うんだ?」


「ジンは、僕とだね」


「一対一で?」


「一対一だよ。今回用意された枠は二つ。だから、勝てば勇者パーティ。負ければ終わり、だね」


「だな」


「……悪いけど、僕は遠慮せずに行かせてもらうよ」


「ああ。楽しみにしてる」


「僕も楽しみだよ。女の子の」


「やめろ」


 くだらない話をしながら、飯を食べる。

 金はウィルが払い、飯屋を出た。

 闘技場に戻りながらウィルに聞く。


「そういえば、Cブロックっていつから始まるんだ?」


「多分、もう少しで始まると思う。僕たちが着く頃には、選手たちが戦ってるんじゃないかな」


「まじか、少し急ぐか?」


「そうだね。Cブロックの強い人も見たいしね」


「残ってる奴で強いのって誰がいるんだ?」


「今残ってる人だと、密剣(アサシン)・シェルさんっていう女の子と、神速(アクセル)・スピードかな」


「そうか……って、なんでその、シェルって人だけさん付けなんだ?」


 ウィルは明るい笑顔で答えてきた。


「女の子だからねっ」


「どういう判断基準だよ」


「普段からパンチラさせてもらってるんだ。だから僕も敬意を示さないと」


「敬意を示すくらいならパンチラをやめろ」


「それは難しい問題だね……」


「どんだけパンチラしたいんだ、お前は」


「戦いでは負けても、その気持ちでなら誰にも負けないよ」


「負けてくれ、お願いだから。……っと、着いたな」


 喋っている内に闘技場に到着。

 人の中をかき分けるようにして進んでいく。

 道中、俺とウィルの顔をみて驚いた表情をする人が結構いた。


 そして、なんとか観客席にたどり着く。


「俺たち、なんか色んな人に知られてるみたいだな」


 当然だよ、とウィルが言う。


「選抜戦のバトルロワイヤルを勝ち抜いたんだ。これで注目されない方がおかしいよ」


「そんなもんなのか」


 少し、周りを見てみる。

 すると、サイン用紙らしき物を持った人が、ちょっと離れた場所で俺たちのことを見ているのが分かる。

 その集団は漏れなく全員女の子だ。


 すると、その集団の一人がこちらへ寄ってくる。


「す、すいません!」


 その子はウィルの前へ。


「ん? なんだい?」


 ウィルはニコリと笑う。


「あの、さ、サインください!」


「いいよ」


 ささっと書いて、サイン用紙を返すウィル。


「キャーッ! ありがとうございますっ!」


 それを皮切りに、次々とウィルのもとへ集まる女子。

 ウィルは嬉しそうに対応。

 時々、気づかれないようにパンチラ。何してんだよ。


 そして。


「…………」


 俺には誰も来ない。


「まあ、分かってたけどな」


 あんな勝ち上がり方をすれば、まあ、こんなもんだろう。

 悪目立ちすれば結果的にはこうなる。


 ウィルみたいに好意的に寄ってくる人間は例外。

 不正だ不正だと言われて勝った奴なんかには、普通近づきたくもないだろう。


「しっかし、ウィルは大人気だな」


 かわいい女の子に囲まれてウィルの笑顔も前回だ。

 一見してイケメンだからなおさら、人気は高い。

 そんな人間がパンチラ大好き変態青年だとは誰も思いつきもしないだろう。


 世の中不公平なものだ。

 くそ、次のトーナメントでボコボコにしてやる。


 ウィルとサイン集団から少し離れた場所でそう思っていると、不意に一人の男が声を書けてきた。


「よう、ウィルは大人気だな」


「あ、グラトム」


「ッハハハ! その歳で俺を呼び捨てするのはお前ぐらいだ!」


「え? さん付けした方がいいのか?」


「いや、構わん。俺より強い奴にさん付けされるのは違和感しか無い」


「で、いつからここに?」


「Aブロックの試合の時からいたぞ。もちろん、お前の戦ってる様子も見た」


「おお。なんかありがとう」


「……お前、初対面の時は丁寧語じゃなかったか?」


「いや、あの時はその場の雰囲気に合わせただけだ。多分」


「そうか。まあそれはいいんだ。それよりも、お前、あの戦い方は無いぞ」


「え?」


「全員気絶させて、その上で武器を弾いただろ。相手の体まで気を使いやがって。自分の武器が自分に当たって怪我するのは、自業自得だ」


「ああ、まあ。できたからついでにやっただけなんだが」


「かー! 強い奴は言うことが違うな!」


 グラトムは昨日の俺の動きが見えていたみたいだ。

 ウィルは見えてなかったみたいだから、やはりこの人、この街だと相当強い部類だと思う。

 もしかして勇者よりも……なわけ無いか。


「っと、こっちも人が集まってきたな」


 グラトムは二つ名を持っている。

 道場の師匠を努めているということもあり、かなり有名な人間らしい。

 それを証明するかのように、俺達の周りに段々と人が集まってきた。


 あれ、グラトムじゃね?

 鉄拳だ! 鉄拳がいるぞ!


 などと声が聞こえてくる。

 みるみるうちに人が山のように。


「会ったばかりで悪いが、俺は少し離れるぞ」


 そう言ってグラトムは、人から逃げるようにどこかへと行った。

 俺の試合を観戦してた時はどうしてたのだろうか。

 やっぱり、逃げ回りながら見てたのか? (せわ)しないな。


 すると、ウィルが戻ってくる。


「サイン、書き終わったのか?」


「ああ、今一段落したところだよ。というか、今、師匠いなかった?」


「さっきまでいたぞ。追いかけるか?」


「いや、いいよ。もう試合始まっちゃうからさ。……あ、始まったみだいだね」


 聞き慣れた、はじめえええっ‼ という実況席の声。

 同時に、闘技場内の選手たちが動き出す。

 観客も一気にヒートアップ。


 Cブロックのバトルロワイヤルが始まった――その瞬間だった。


 選手が一斉に倒れた。

 それは俺が試合をした時とは全く違う。

 一人の男が何かをした瞬間、選手が全員、目もくらむような速度で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ、気絶したのだ。


「なんだと」


 思わずつぶやく。

 会場を支配したのは静寂。

 闘技場に残るのは、フードをかぶった男が一人。


 その男はゆっくりと、拳を天に突き出した。


 一気に、会場が湧いた。

 大歓声。

 最強と言わんばかりの派手な演出。

 拍手と叫び声が震わし、人々を興奮させる。


「ジン! 今の見たかい!? 一瞬だよ! うわぁ、すごいなぁ!」


「ああ、そうだな」


「ジン? どうしたんだい?」


「いや……なんでもない」


 控え室でも見た。

 あのフードの男。他の選手とは雰囲気が違っていた。

 何か、人ならざる何かを感じる。


 一瞬で全員を吹き飛ばした攻撃。あの攻撃を視認できたのはグラトムぐらいだろう。

 あれは打撃でも、斬撃でもない。一瞬で移動したわけでも、衝撃波を発生させたわけでもない。

 既視感を感じる。今まで何度も目にした、嫌なもの。


 あれは……。


「……まあ、戦う時に考えればいいか」


 嫌な予感が当たらなければいいが……。

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