第十話 闘技場
翌日。
俺はウィルに案内されて、選抜戦が行われるという闘技場へと向かった。
周囲を硬い外壁に囲まれたその場所は、まさに国立競技場。中心が丸く広くくり抜かれ、その周りの少し高い場所から観客が見下ろすような形の場所だった。
観客席から見下ろしながらウィルと話す。
「すげえ人数だな」
「そうだね」
闘技場は沢山の人でごった返していた。
闘技場入り口周辺にも人が溢れ、闘技場近辺にある屋台はほぼ全部満席。
どこへ行ってもガヤガヤとした喧騒がうるさい。
東京に帰ってきた気分だ。
「こんなに人がいたんじゃ受付も時間かかりそうだな」
「確かに。さっさと済ませちゃおうか、ジン」
と言うウィルの目線は近くの女の子のお尻に釘付け。
そして一言。
「豊作だね」
「やめろ」
パンチラを狙うウィルを抑え、人をかき分けて闘技場の選手受付へと進む。
受付の係と思しき女性がいたので声を掛ける。
「すいません、受付したいんですけど」
「はい、では名前、出身、天命の確認をお願いします」
そう言って選手名簿を出してくる。
すると、ウィルが後ろから出てきて言った。
「彼はテストを受けていないよ」
「え? それでは、なぜここに……まさか!?」
推薦状を取り出して受付係に渡す。
「これで出れるのか?」
「推薦状……!? 差出人は、え!? ぐ、グラトム!? あの鉄拳ですか!?」
受付係は驚いている様子だった。
あのじいさん意外と有名みたいだ。二つ名あるし。鉄拳、かっこいいな。
「は、はい、分かりました。出場を認めます。名前、年齢、出身、得意な戦術、意気込み、そして天命を、この紙に書いてください」
しかし取り乱すことなくすぐに対応を再開する。
ちゃんと仕事するじゃないか。
迷うことなくスラスラと書いて紙を返す。
受付係は感嘆の声を漏らした。
「きれいな字……」
まあ、こちとら何度も転生してるからな。
受付係は、確認するように読み上げた。
「ジン。十五歳。出身は……孤児院ですか?」
「住んでた地域の名前、知らないので」
「そうですか。それで、得意な戦術は、魔法混合近接格闘。意気込み……は、一対一のトーナメント時にアナウンスされるのでいいでしょう」
アナウンスするのかよ。先に言ってくれ。適当に書いちゃったじゃないか。
「そして天命は……フフッ。魚、ですか?」
これは本当なのか、という目で見上げてくる受付係。
「そうだ」
「……分かりました」
若干笑いをこらえている様子。
天命は一人一人に定められたもので、調べれば簡単にわかる。
だから嘘をつく理由もない。
まあ俺の場合は嘘なんだけど。
ウィルも受付を済ませ、一緒に選手控室へ向かう。
控え室に入ると、さっきまでのガヤガヤとした喧騒とは打って変わって、ピリピリとした空気が漂っている感じがした。
聞こえてくる喋り声も、外の喧騒とは違い落ち着いている。
嵐の前の静けさというやつか。
不意に、声が聞こえてくる。
――あいつ、ウィルじゃねえか
――パンチラの?
――どっかの道場で修行してたんだろ
――確かグラトムのとこだ
――グラトムだと? あそこの門下生はかなりやるらしいが
――要注意だ
――お前が最初に潰しにいけよ
――俺はいかねえよ、お前がいけよ
「ウィル、結構有名なんだな、お前」
「そんなことはないはずなんだけど……情報が流れる速度は、僕たちが思ってる以上に速いみたいだね」
すると、また声が聞こえてくる。
――ウィルの隣のやつは誰だ
――初めて見る顔だな
――弱そうだな
――なんだあのガキは
――ああ、あいつさっき受付で推薦状出してたやつだ
――推薦状? どこのだよそれ
――俺も聞きたいなそれは
――グラトムだったな
――なんだと、グラトムは認めた弟子にしか出さねえはずだぞ
――ズルしたんだろ
――そういえば、あいつの天命聞いたか?
――なんだ?
――『魚』だとよ
――魚っ、クククッ、なんだその明らかに雑魚そうな天命は
――フッ、推薦状といい天命といい、インチキの匂いしかしねえな
――あいつの得意戦術、魔法混合近接格闘だってよ
――ハハッ、聞いたことねえぞ、そんなの
――魔法使えんのか? あいつ
――どうせそれも嘘だろ
すると、ウィルが拳を握った。
そして声のする集団へ向かって一歩踏み出そうとした。
俺はウィルの肩に手を置く。
「……ジン」
「気にすんな」
「でも」
「俺は別に、評価が欲しくてここに居るわけじゃない」
「っ……なんて良いことを言うんだ。やっぱり君は僕の師匠として――」
「それは言うな」
全く、隙あらば師匠扱いしようとしてくる。
「そういえば、僕はAブロックだけど、ジンは?」
「俺はBだ。てかウィル、AブロックとかBブロックとか、それ何か意味あるのか?」
受付係に一枚の札を渡された。
そこには”B”と大きめの字で書かれている。
「選抜戦は参加者が多いんだ。だから四つのブロックに分かれて、最初にバトルロワイヤルをする。各ブロックから一人ずつ勝者が出たら、後はトーナメント形式で戦うんだ」
「なるほど」
「バトルロワイヤルは厳しいよ……四方八方から攻撃が飛んでくる。気を抜いた一瞬にやられるんだ」
「まあ、そうだろうな」
いくら一対一で強かろうと、混戦の戦い方を知らなければすぐ負ける。
勇者パーティに入れば、いずれは魔王軍と混戦状態になる時も来るだろう。
それを想定すれば、一対一だろうと混戦だろうと戦えなければならない。
「それに……今回は強者揃いだよ」
ウィルは控え室にいる人の名前を上げていく。
豪腕・グラム。水の手品師・ルーシー。神速・スピード。密剣・シェル。
どれも強敵らしい。ウィルの目線を追うと、ムキムキだったり変な武器を持ったりしている人がいた。
まあ、どれもグラトムと同じかそれ以下に見えるけど。
「色んな人がいるんだね……それに女性も……色んな色のパンツも見れる」
「おい」
「僕たちはこの中を勝ち抜いて行かなきゃないのか」
強引に話を変えやがった。
「そうだな……ん?」
ウィルにつられて俺も周りの人を適当に物色していると、一人の男が目に止まった。
フードを深くかぶっているので顔は分からない。
けどローブを羽織ったその男は、何か周りの人とは一線を画した雰囲気があった。
腰に差した剣もかなりの業物と見える。
「……グラトム以上、なのか?」
試合前に相手の実力を調べても楽しくないので、別に詮索するつもりはない。
けど、その男は他の人とは何か違う雰囲気を持っていた。
それだけは確かだった。
「ジン、それじゃあ僕はAブロックだから、試合に行ってくるよ」
「ああ、負けないように頑張れ」
ウィルは、入ってきた時と反対側にある扉を開け出ていった。
「……バトルロワイヤル、か」
ローブの男は”C”と書かれた札を腰のベルトに下げ、人の間をスルリと抜けて部屋から出ていった。
頭の中で何かが引っかかっているような気がしたが、すぐに忘れて俺は観客席へと向かった。
さあ、ウィルの初戦だ。




