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風呂場の気配

作者: 佐伯みあ

風呂場で視線を感じる。

隣の家まで500mは離れていて、

周りに人なんて居ないはずなのに。


人じゃなければ、ネズミやネコか?

でもいつも物音すら聞こえないし、

視線を感じてすぐ風呂の窓を見ても

何かいた試しがないのだ。


「それはいつからですか?」

ちょうど、定例のカウンセリングがあったので、医師に相談してみた。

「気づいたのは、ここ1ヶ月ほどのことかと…」

ふむ、と医師は頷きながら

「視線の他に、物音や足音はないとおっしゃいましたね」

と確認した。答は当然

「はい」だ。


「視線だけを感じる」

「はい」

「決まって風呂場に居る時」

「はい」

「窓の外には、隣の家が500m隔てて在る」

「そうです」


医師はしばらく逡巡していたが、やがて重たそうに口を開いた。

「おそらく、お隣の家の人の視線です」


なんだって。

でも…

「500mも離れているんです」

そんなことが。


「原因は、過矯正です」

過・矯正…


カルテをめくりながら、医師は説明を続けた。

「1ヶ月前とおっしゃったので、当時のカルテを拝見しました。確か、外科にかかってらっしゃる」

「はい。転んで、頭の処置を」

「その時に修理した感知器が最先端のモデルに置き換えられているんです。

それによって、今までより過剰に周囲の気配を察知するようになったのだと思われます」


ええと、それはつまり

「500m離れた隣人の視線に自分が気づくようになったと…」

「そういうことです」


だから物音がせず、何も近くにないのに視線だけを感じていたのか。


「どうなさいますか。再手術を希望されます?」

医師に尋ねられたが、その提案は断った。

たまたまこちらを向いていた視線を、過剰に反応する私の探知機が拾ってしまっただけで、

向こうに見られていたわけではないのだ。

特に対策も要らないだろう。


原因が分かってホッとしたので、医師に感謝を伝えて帰宅した。



退室後、医師はもう1組のカルテを取り出した。

「お隣は、視力の過矯正か…この度数では1km先の人物まで詳細に判別出来そうだ…」

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