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誰よりも私を愛したあなたへ

作者: ざまぁ推奨委員会

自分より大切なものがありますか。



この国は腐っている。貴族は平民を馬車馬のように働かせ、税を搾り取る。死なないようにギリギリのラインを見極めることに長けているのが余計にたちが悪い。そうして搾り取ったお金で自分達は贅沢極まりない生活を送るのよ。どいつもこいつもでっぷり太って!


こんなことは間違っているわ。ちゃんと必要な分の税にして、余ったものは領の発展に投資すればいいのに。民が栄えることは領の力が増すことでもあるということに気づきもしない!いえ、考えもしないのね。民が力を持つことを嫌う者が多すぎるわ。私が王妃になったら、絶対にこの悪しき思考を変えさせてみせるわ!


……そう思っていたのに。



「テレミア・スカーレット侯爵令嬢! 貴様にはほとほと愛想がつきた! お前のような女を王妃にするわけにはいかない。よってここに婚約破棄を告げるものである!」


あなただけはずっとそばにいてくれると思っていたわ。小さい頃、わたしが国のために何かしようとひとり闇雲に戦っていたとき。あなたがわたしの言葉に同意してくれたから、あなたが一緒に頑張ろうって言ってくれたから、私は今まで努力し続けられたのに!


いつの間に変わってしまったのかしら。よくみればわかることじゃない。ここ数年で二回り以上もふとって、前ほど熱心に学ぶことは無くなったわね。二人で過ごすことも、ここ数ヵ月は無かったっけ。もっとあなたに気を配っていれば、何かが変わったのかしら。でももう遅いのね。あとはみんな、滅ぶだけ。


「婚約破棄、承りました。知らぬ間に大変な御不興を買ってしまったご様子。平にご容赦願います。」


「ふんっ。引き際だけはいいようだな。少しでもごねるようならば、不敬罪で追放でもしてやろうと思っていたが。いいだろう、今までのことは全て水に流してやる。しかし金輪際王都に立ち入ることは許さぬ。お前の顔などもう見たくもないからな。すぐに荷物をまとめて王都から去るがいいわ!」


「寛大なご処置、恐悦至極に存じます。仰せの通りにいたします。」


彼がふんぞり返って去っていくのを、頭を下げ続けながら見送った。不思議と涙は出てこなかった。この後のことが容易に想像できるだけに、もう少し心が乱れると思っていたのに。見ないふりをしていただけで、こうなることがどこかでわかっていたからかもしれない。だって、もうどうしようもないところまで来てしまっているから。こんな中途半端な私のために大分彼に負担をかけてしまった。だからせめて最後は彼の言葉通りにしましょう。私の初恋の人、最愛のかた。








私が王都を去って一月あまりたった頃、各地で民による反乱が起きた。あっという間に王都は落ち、王族貴族は皆殺しになったそうだ。我が領は10年ほど前から税を軽くしたり領民の訴えを聞くための場所を設けたりとさまざまな取り組みを行ったことが実を結び、反乱は起きなかった。むしろ我が領の噂を聞きつけた反乱軍のものに新しい王となってほしいと嘆願されている。


この国は変わるだろう。すでに今までの支配階層はほとんどいなくなってしまった。新しい仕組みと新しい支配体制が必要だ。私は今まで学んだことをフル活用して仕事に追われている。忙しいのはきっとお父様がわたしに気を使ってのことでもあるのだろう。忙しくしていれば思い出も薄れていくと思っているのね。


あのとき、彼はもうどうしようもないところまでこの国は来ているのだとわかっていた。民の我慢はとうに限界を超えていて、いつ爆発してもおかしくはなかった。今更私が王妃となっていくら国のために尽くそうとも、貴族も体制も一日二日で変わるものでもない。結局反乱は起き、殺されてしまうことが目に見えていたのね。


私も薄々感じてはいたけれど、諦められなかった。でももうずいぶん前から彼はいつこうなってもいいよう準備していた。もっと早く諦めて、一緒に逃げようって言えばよかったのかな。でも私はそんなことできないし、考えたこともなかったわ。そしてあなたはそんなわたしを何より愛してくれていた。


民のために貴族の権限を制限しようとする私は多くの貴族にとって邪魔な存在だった。数年前から彼はそんな貴族たちと親しくし、私の邪魔をしようとするのを抑えてくれていた。そしてもうどうしようもないと判断したら、わたしを追い出して堕落貴族側の立ち位置にいることをアピールし、一緒に贅沢をすることで反乱から目をそらさせた。


それもこれもみんな、わたしのため。


わたしが目指したもののため。


愛しているわ。あなたはもういないけど、あなたが愛した私のまま、これからずっとあがき続ける。もう二度とこんな悲劇が起こらない国をつくってみせるわ。










―こんにちは、おひめさま。あなたの名前を聞いてもいいですか?―


―あなたはとても純粋で、まっすぐだ。僕にはとてもまぶしく思える―


―ずっとそのままでいてください。そんなあなたが何よりも好きなんです―


―愛しています。一緒にこの国を変えましょう―











ディストーン王国は200年前に一度内乱によって荒廃したことがある。そこから現在のように大陸一の大国となったのにはある一人の貴族の女性の存在が大きくかかわったとされている。


内乱前と後では体制が大きく違うため、この場では内乱前をディストーン王国、内乱後を新ディストーン王国と呼称することとする。


その女性は堕落しきった王族を批判し、自ら民の暮らしをよくするために王の許可なく様々な取り組みをしていたため王族の怒りを買い、王都から追放されてしまったといわれている。追放されてからもその活動をやめることはなく、内乱の折も彼女の治める土地では一切暴動が起きなかったという。


そしてあまり知られてはいないが現在の政治体制を築いたのはその彼女であり、彼女の存在が新ディストーン王国繁栄の核になったのは疑うまでもない。


(中略)


そんな新ディストーン王国の母と呼んでも差し支えない彼女であるが、生涯浮いた話の一つもなく、ついぞ伴侶を得ることはなかったそうだ。彼女の血をひくものが存在しないのは唯一惜しまれることである。


―『ディストーン王国の繁栄をもたらした要因』より抜粋―


相手は悲しむことはわかっていてもやめることはないんですよね。自己満足と言われればそれまでですが。

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