2.それは本当に友達か? 管仲伝04
しかし、その前にもう少し、彼らの兄、ジョーコーの話をしよう。
彼ら兄弟の妹が、魯の桓公の夫人になった。(同じ名前で違う国の君主なのが、ややこしい。)
ところが、その妹はあろうことか、もともとジョーコーと関係があったらしい。ぶっちゃけ、兄妹間不純異性交遊だ。こんな娘を他国に嫁に出す親もどうかしてるが、もしかしたら、そういう娘だから他国に出したのかもしれん。
その妹が、旦那さんの桓公と一緒に斉の国を訪問しに来た。すると妹は、旦那さんと一緒に訪問中にもかかわらず、兄ジョーコーとまた関係を持ってしまう。
このあたり、この二人の神経がどうなっていたのか、私にはちっとも理解できん。仮にも嫁にいった妹だよ。しかも旦那、同行してるんだよ…。
妹と兄の恋愛が、古代中国でどのような扱いを受けていたのか、私にはよくわからない。でも、古代の日本では腹違いの兄弟ならOKみたいだったから、それ自体がタブーだと決めつけるわけにはいかない。ただ、この兄と妹の母親が同じかどうかは、例によってまた記述がないのでわからない。
だが問題は、そこではない。兄と通じていた妹を、よその国の君主に嫁に出し、なおかつ、旦那である君主と実家訪問した際、再び通じているところだ。
節操がない、というだけではない。こういう行為は、子供の正統性を疑われる元だ。相手は他国の君主だ。人としてどうか、というだけでなく、後々の火種になりかねないことなのだ。
仮にも妹は、他国の夫人だ。しかも、息子は魯の太子、のちの荘公。
桓公は妻の浮気に気付き、夫人を責める。ただの浮気ではない。実の兄と嫁入り前から関係を持っていたという、衝撃の事実つきだ。
夫人のほうはどうやら、夫よりも兄のほうが好きだったのかもしれない。不義密通が発覚し、夫に責められたことを兄に告げてしまう。兄もろくでもないが、妹も似たようなものなのだろう。
父キコウが甥ムッチー君をひいきして争いの種をまいたように、兄ジョーコーも妹との不倫で争いの種をまく。実に面倒くさい一族だ。
妹に泣きつかれた兄は、策を弄す。よしよし、お兄ちゃんにまかせとけ、と言ったかどうかは知らんが、兄ジョーコーは、自分の欲望に実に忠実だった。
兄ジョーコーは宴を開く。あらかじめ息子の公子彭生に、殺人を依頼してある。そして、妹の夫を酔わせる。酔わされたのか、薬をもられたのかわからないが、とにかく足元のおぼつかないような状態の桓公を、力持ちの公子に命じ、抱きかかえるようにして車に乗せさせた。
果たして車を降りる時、桓公は息をしていなかった。肋骨が砕けて折れていた。
すでに公子が車にのせるとき、殺されていたのだ。自分の妹の夫であり、他国の主人であるものを、実の息子に殺させる親。大義名分など何もない。
邪魔なので消した、昼ドラが一気にサスペンスになる。
当然のことだが、魯の国からは抗議がくる。魯の跡継ぎは、荘公。彼の母は、襄公の妹。つまり荘公は、いとこに殺されたことになる。しかも命じたのは伯父。
もうね、家族で殺し合ってるのよ、この人達。迷惑なんてものじゃない。上の人としての自覚が全く無い。
ジョーコーは、魯から責められたため、公子彭生を殺す。
実行犯を処分したので、これでいいだろ、うるさくいつまでも騒いでんじゃねーよ、ということだ。公子は君主である父に命じられただけなので、殺され損だ。息子として、父親の命令には逆らえなかっただろう。
実に気の毒だ。だって、こんなことで自分の名前が史書に残るはめになったんだよ。この公子にだって、嫁や子供がいたかもしれないのに…。
魯は、わざわざ訪問した先で主君を殺され、しかもその原因が嫁に来ていた夫人の浮気なのだから、憤懣やるかたない。夫人のほうは、そのまま魯にもどることなく、斉に残っている。ま、魯に帰ったら帰ったで息子に殺されそうだ。帰れるわけがない。知らんふりして兄ジョーコーとただれた関係を続けていたことだろう。
そういうわけで、本当なら、公子に殺害を命じたはずのジョーコーをどうにかしてやりたかっただろうが、直接手を下した公子の処分で事はうやむやにされた。
要するに、魯側に斉を屈服させるだけの力がなかったのだ。魯は、主君を殺害されたので太子に交代したばかり。しかも、その母は事件の渦中にある人。本当なら、新たに君主になった太子の後ろ盾にならなくてはいけないのに、全くあてにならない。