2.それは本当に友達か? 管仲伝03
さて、昔からの友人で、何度管仲にだまされても、なぜか彼を非難することなく付き合ってきた鮑叔は、それぞれ違う上司のもとで仕事をすることになる。
鮑叔の上司は、斉の王子、小白。
管仲の上司は、斉の王子、糾。
共に、斉の国の王子で、兄弟だ。二人の王子は、斉の世継ぎ争いに担ぎ出され、敵同士になる。このあたりの事情は、世家にあたらなくてはいけない。
世家を読むと、陰鬱な気分になる。どこを見ても、昼ドラのネタになりそうなドロドロギスギスが繰り広げられているからだ。
読んでいて思う。まともなやつはいないのかよ…。
二人の友人関係を理解するためには、二人の上司について知らねばならない。特に、後に管仲が仕えることになる桓公の背景と人となりは重要だ。
私は、管仲は鮑叔が桓公に差し出した人身御供に見えるので、こういった背景を説明しないといけない。
そこで面倒だが、話を二人の王子の父親あたりまでさかのぼって見て行くことにしよう。
王子たちの父は、釐公という。この父が亡くなった後、即位したのは太子の襄公。二人の王子は、この襄公の弟になる。(登場人物の名前を、以下、キコウ、兄ジョーコーなど、ここから適当に呼ぶことにする。だって、難しい漢字が多くて、入力するの大変なんだもん。)
さて、父キコウには、どういうわけか、かわいがっている甥がいた。父の実弟である夷仲年の息子、公孫無知である。
なぜかわいがっていたのかは、例によって史記本編の説明不足でわからない。結構そこ、重要な情報だろ!と思うところも、司馬遷君は省いて書くことが多い。
きっとあれだ。ノートがわりの竹簡をたくさん用意できなかったとか、書くのがうぜーくらい面倒だったとか、本人も知らなかったとか、書いていたけど長い年月の間に抜け落ちて無くなったとか、当時の人は皆知っていることだったから省かれたとか……。
ま、理由はわからんが、書いてないものはわからない。わからないものはわからないんだよ。よって私も説明できん。
というわけで、兄弟の父キコウが、どうしてこの甥っ子のムッチー君を気にいっていたのかは知らない。
もしかしたら、初恋の人の息子だったとか、そんな理由か?(またいいかげんなことを)とも思ったが、あとで出てくるジョーコーと妹とのエピソードから考えると、この一族、異常な偏愛癖を持っていたのか?と思うのだ。妙な執着をこじらせた感のある一族なので。
だが、その可愛がり方が、普通ではない、というのが問題だった。父キコウは、息子であり、太子であるジョーコーとムッチー君を、どうやら同じくらいの待遇にしてやっていたらしいのだ。
こういったあからさまなえこひいきは、たいてい、ろくな事を引き起こさない。父キコウには、何人も実の息子が他にいるのだ。それにもかかわらず、甥っこを特別待遇するのだから、明らかにおかしい。本当は甥ではなく、実の息子だったりして、などとゲスの勘ぐりをしたくなる。
果たしてジョーコーは、自分が即位すると、さっさとムッチー君の特別待遇を格下げする。ジョーコーからすると、本来のいとこの待遇にもどしただけだ。
しかし、太子ジョーコーと同じ待遇を受けていたムッチー君のほうは、そうは思わない。なんでだよ、と怨むもとになる。もともといとこのジョーコーと仲が悪かったこともあり、後に彼は、ジョーコーを恨んでいたものにかつがれて反乱をおこし、ジョーコーを殺すことになる。
ところが、このムッチー君のほうも人に恨みをかっていたらしい。二人とも、どっちもどっちな人なのだ。彼は実質、斉の君主になったものの、すぐにまた殺されてしまう。
人の恨みって、怖いね…。まあ、二人ともろくでもないやつだったのだ。
そういうわけで、斉公の位をめぐり、二人の弟王子の出番がやって来ることになったわけだ。