2.それは本当に友達か? 管仲伝05
すでに、魯と斉、二つの国の力関係は、周公旦によって予想されていた。
斉は、太公望呂尚の封じられた国。魯は周公旦の息子、伯禽の封じられた国。そのはじまりから、典型的な違いがあった。
太公望のとったスタイルは、民のニーズにあわせてスピーディーに行う政治、伯禽は手続きが煩雑な上、ゆっくりなスタイル。
その話を聞いた周公旦は、魯は後の世で斉に臣従することになるのか、と言ったという。そういった国力の違いが、のちに斉の桓公が覇を唱える土台になっているのだ。
こんな事件が起こって、国内や国同士の関係が悪化しないわけがない。二人の弟王子のうち、公子糾の母は魯の公女である。
結局、この不義密通事件をきっかけとして、斉には不穏な空気が漂い、ジョーコーの弟たちは国を出奔することになる。好き勝手に振る舞い、気に入らなければ他国の君主であろうと平気で殺す。そんな兄のもとで、いつまで自分達が無事でいられるかわかったものではないからだ。
魯の公女を母に持つ公子糾は、魯へ。
衛の公女を母に持つ公子小白は、莒へ。
他国に逃げた公子は、この時点ではジョーコーの脅威にはならない。そういった亡命は、この時代よくある話だ。そこから舞い戻り、不死鳥のごとく復活する例は、少ない。大抵は、その地に埋もれて消える。
だが、復活するものはいる。大変少ないが、いるのだから世の中わからない。そこが面白いところだ。
そして、その実例の一つが、公子小白。のちに管仲・鮑叔の上司になる、桓公だ。
さて、出奔した二人の王子にはもともと、それぞれ守り役がつけられていた。
魯に行った公子糾には、管仲、召忽が。
莒に行った公子小白には、鮑叔が。
守り役とは、とりまきだ。それなりの家柄と学識が要求される。公子に勉強を教えたり、仕事をする時に采配したり、戦いのときには軍を率いたり、いろいろやらねばならないスーパー秘書でもある。
そうはいっても、二人の公子は当時、跡継ぎとは無縁のスペアである。太子のところに集められた一流どころよりは当然、少し下の人材をあてがわれている。
ところが、高貴な家柄や高い学識があったからといって、必ずしもよい仕事ができるわけではない。最高品質の具材を集めまくっても、料理人の腕がよくなければ、それなりのものにしかならない。出来上がり具合に、よい見本がそこにいる。
兄ジョーコーだ。
一流どころに周囲をとりまかれていたはずなのに、妹とのただれた関係にどっぷりつかり、息子に他国の君主を殺させ、平然としているじゃないか。太子だからこそ、選ばれた人間を取り巻きに選んでもらっているはずなのに、わかりやすいクズ男に仕上がっている。
それなりに、な取り巻きを持つことになった公子達は、兄と従兄弟の死をきっかけに、斉公の後継争いの渦中に放り込まれる。二人の死に際して、色々ドラマがあったのだが、それについてはここでは関係ないので書かない。(知りたい人は世家を読むべし。)
要するに、兄ジョーコーはいとこのムッチー君に殺され、ムッチー君もまた他のものに恨みをかって殺された。祖先に太公望という、仕事のできる爺さんがいたのに、子孫はこんなやつらだ。全くもう…。