バービー人形が語る世界
「顧客の不安を煽って、安心を買わせる」というのが、販売業の基本の一つだというのを、以前、何かの本で読んだことがあるような気がします。
出典を覚えていないので、もしかしたら自分が考えた言葉かもしれないとも思いましたが、自分にはこんなに上手いことは言えないので、やっぱり何かの本からの引用なのでしょう。
それによると、テレビなどで流されているCMなどは、時折、視聴者の不安を煽っているのだそうです。
例えば「コレさえあれば、いつでも安心!」というCMのコピーは逆に言えば「コレがなければ、いつも不安」だということを仄めかしているのだそうです。
言われてみればなんとなく思い当たる節があるような気がします。
さて、バービー人形というと、1959年にアメリカマテル社というメーカーから販売された大ヒット商品ですが、発売当初の着せ替え人形一体当たりの値段の相場が2ドルだったのに対してバービー人形は一体3ドルで発売するという型破りな販売戦略をとっていました。
その結果、多分ですが、主に金銭的に余裕のある富裕層の家族からの支持を受けて大ヒットをして今日までいたっているのでしょう。
バービー人形は販売されてからの歴史の中で様々な進化をとげてきました。
その一つがバービー人形の体の中に音声機能を内蔵して喋らせることができるようになったことです。
バービー人形は子供たちに「夜は彼とデートがあるの」、「ダンスパーティーには、何を着ていこうかしら?」、「ねえ、私と服を買いにいかない?」などと色々なことを喋りました。
そして、1970年代には黒や茶褐色の肌の色をした有色人種のバービー人形も登場しました。
このバービー人形を子供に買い与えたのは大半が多分、金銭に余裕ある白人家庭の人間で、有色人種の人形を買うことで自分は、人種差別主義者ではないとアピールしたのだそうです。
もしかしたら、バービー人形は白人の親達に「いいの? 有色人種のバービー人形を買わなくて? もしも、買わなかったらあなたは人種差別主義者だと思われるかもしれないわね。一度人種差別主義者のレッテルを貼られたら、あなたの社会的ステータスに大きなダメージが与えられることになるわよ。それに可愛いあなたの娘さんだって、白人のバービー人形でばかり遊んでいたら、将来、人種差別主義者になるかもしれないわね」みたいなことを言ったのかもしれませんね。
まあ、さすがにこれは冗談ですけど。
つまり、これが「顧客の不安を煽って、安心を買わせる」という手法の一形態なのでしょう。
バービー人形は着せ替え人形なので様々なコスチュームが売られています。
バービー人形のキャラクター設定はファッションモデルなので、ファッションモデルとしての様々なコスチュームはもちろんですが、他には初期はバレリーナ、女優などのコスチュームを身にまとっていました。その後、スチュワーデス、教師、獣医、実業家、宇宙飛行士、大統領候補の格好までするようになりました。
ここら辺は、現実社会での女性の社会進出の動きと関係があるのかもしれません。
更に1986年には、ナチスの強制収容所の囚人のコスチュームを着たバービー人形が販売されました。
元囚人たちからなる諸団体は、これを「犠牲者たちの苦しみを冒涜するものだ」というようなことを言って抗議しましたが、メーカー側は「これこそ、若い世代に強制収容所での苦痛を知らしめるための適切な方法であり、囚人服を身にまとったバービー人形を買い与えられた子供たちは、囚人と同様の気持ちになり、成長したら強制収容所の囚人たちが味わった苦痛がどのようなものであるのかを、理解するのが容易になるはずだ」というようなことを言って反論しました。
ちなみに、アメリカマテル社の共同経営者であり、バービー人形の産みの親でもあるルース・ハンドラーってポーランド系ユダヤ人なんですよね。
何とも言いがたい話です。
バービー人形みたいにスイッチを入れたら勝手に話し始めることができたら楽なんですけどね。