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超能力者は戦わない、戦うのは人間だ EP3『トラッシュ/ロンダリング/ヤクザ』  作者: 眞道 亀吉
トラッシュ/ロンダリング/ヤクザ 
9/22

『ジャンパー』

 電話の主は黒木の元上司、水野だった。

<こっちは滅茶苦茶だが、そっちはどうだ>

疲労困憊、というよりやけくそで笑い気味の声だ。

<強化外骨格の二個班を撃退しました、そっちはなにかありましたか>

民生部門で明らかに味方である水野につまびらかに説明する。

<そばに警官いるか、スピーカーにしてくれないか>

水野の頼みに答え、黒木はスピーカーに切り替える、

<初めまして、黒木の元上司の水野です。民生部門で皆さんの味方です>

水野の声が野戦指揮所になった事務所にこだまする。

<面白いニュースと、良いニュースと悪いニュースがありますが>

普通、この手の場合悪い話といい話の二つだ。


 <面白いニュースは煮え切らない警察庁長官を警視庁総監が辞職覚悟でぶん殴ったこと>

警察組は最初、何を言っているかわからないという表情をして、それから呆然とした。

毅然としていた機動隊大隊長まで、つんのめった。

「それって、どういうことなんですか」

いまいち警察組織を飲み込めない黒木が植山に尋ねる。

「あー、自衛隊の指揮官が防衛大臣殴るのといっしょだ、プチクーデターだな……」

植山は天上で繰り広げられる神々の戦いに思いをはせているみたいな顔になってる。


 「で、それが面白いかどうか別として良いニュースは」

平静を保とうとしている大隊長が、静かに尋ねる。

<警視庁総監の男気に感銘を受けた警察官僚、警視庁キャリア組が警視庁支援に回った。

つまり特能省にいる公安からの情報や兵力、重装備の投入が容易になる>

「駒が増えるのはありがたいですが、市街戦では密集していては良い的ですね」

<そうだな。警視庁には必要に応じて連絡してくれ、多分公安からの情報も来る>


 <悪いニュースは特殊能力対策局の動員が決まった>

野戦指揮所に沈黙が走る。

対策局は、警備部捜査一課の執行隊とはくらべものにならない戦闘集団だ。

ガサ入れする警官と、自衛隊特殊部隊位の開きがある。

<さすがに殺傷武器は持ってないだろうが、それでもな……>

バイタリティーあふれる水野の声も翳る。

「了解しました、投入部隊の規模はわかりますか」

<何人かわかりませんが、えーと兵員輸送車六台、大型トラック二台が出動してますね>

「おそらく、はったりでしょうが、ありがとうございます」


 <では、これで失礼。黒木、スピーカーを切ってくれ>

黒木はスピーカーを切り、直接水野と対話する。

<今の会話の通り、霞が関は最早当初の衣川会保護を超えた疑似内戦になっている>

<そんな感じがしました。決着はどうなりそうですか>

<全く読めない、敵もこっちも通常業務が殆ど滞ってるんだ>

<最悪ですね、役所のパワーゲームで血税を垂れ流した上に機能不全とは>

呆れる以外、なにが出来るだろう。

週刊誌にこの騒動の手記を売ったら、政権批判でそれなりに売れそうだ。

<最悪だ。だから、早い幕引きの為に個人的に一つ秘策を思いついた>

意味深な、笑いを含む声が聞こえる。

<秘策、ですか>

<あぁ、ただこの通信が傍受されてるとも限らない。黒木お前の前の職場を思い出せ>

意味深な言葉と共に通話は一方的に途切れた。


 水野の言った通り、対策局の本隊が到着した。

「兵員輸送車2台は車止めで対応、降車した敵を高圧放水車で対応中」

トランシーバーを持った隊員が片手で地図に書き込みながら報告する。

「放水一号、対応しきれるか。敵の数は」

大隊長が尋ねる。

「敵20、放水で十分に吹き飛ばしているとのことです——

続報、兵員輸送車1台到着、新たに敵10。兵員輸送車から催涙弾を発射——」

暫くトランシーバーに耳を傾ける


 「状況は不明ですが、警戒に当たっていた一個小隊が無力化されました」

通信種は少しばかりうろたえる。

「不明? よこせ」

大隊長はトランシーバーをひったくり、耳を傾ける。

「恐らく、新型催涙弾だろう。ガスマスクを無力化しているはずだ。

こっちには特型警備車を回せ、ガスマスク一丁よりまだマシなはずだ」

「了解、○特はこちらに回します」

「あと20分で機装具到着予定」

「新たな敵20名出現、遊撃二個小隊で対応させます」

野戦指揮所はにわかに活気出る。


 「案外優勢なもんだな」

植山がタバコに火をつけ作戦地図を眺める。

「だよな、俺もそう思ったんだ」

公納もぼそりとつぶやく。

「いえ、案外そうでもありません」

大隊長がきっぱりと断言する。

「こちらは放水車で対応しているのに対し、相手は歩兵でありながら捕縛出来ていません。

つまり相手の戦力は全く消耗せず、対してこちらの水は目減りしています」

植山は長いタバコを灰皿でもみ消す。

「その内、劣勢に回ると」

植山はギロリと大隊長を睨みつける。

「いえ、数ではこちらが優勢ですからこちらの優位はそこまで変わらない筈です——」


 「報告、輸送ヘリが2機接近中」

通信種が大隊長の説明に割って入る。

「近場は抑えてるんでしょ」

赤沢は地図を睨みながら唇を尖らせる。

「ええ、一番近いのは……月見公園ですね。ここには一個中隊を展開してます」

「て、敵輸送ヘリ、月見公園上空でホバリング。敵20名が降下! 」

「降下?ラぺリングなら一人一人叩きのめせ」

大隊長が、珍しく語気を強める。

舐められたとでも思ったのだろうか。

「いえ、それが、ヘリから直接、降下、つまりジャンプして……」




 大石巡査は、月見公園でヘリの侵入を拒むという命令を受けていた。

周りには同じ中隊、約70人がひしめいている。

月見公園はそれなりに広いが、これだけの機動隊を詰め込むにはちょっと狭い。


 「北東方向よりヘリコプター2機が侵入! 」

中隊長が叫ぶ。

「密集して降下を阻止せよ! ガス、ゴムは撃つな! ヘリが落ちたら大ごとだ! 」

大石を含めた中隊一同は透明なポリマー盾を北東に向け、構える。

それで別段ヘリを防げるわけではないが、こう、気が引き締まるのだ。


 やがて、割と小さいローター音のヘリが2機到着した。

特能省め、今更ヘリで来たって遅いんだ、ここにはもう足の踏み場もないぞ。

一人一人、ロープで降りてこようものなら袋叩きにしてやる。

腕に自信のある大石は、内心そんな妄想を抱いていた。


 だが、この妄想は真逆の方向に裏切られた。

おおよそ30mはあると思われるヘリから、特能省の連中が飛び降りた。

「あ、おい! 受け止めろ! 」

中隊長は驚きのあまり、敵に塩を送るような命令を下したが、敵はそれを拒んだ。

まるで何事もなかったかの様に、平然と連中は立ち上がった。

 それどころか、近くにいる順番に機動隊を張り倒す。

よく見ると、連中は素手で盾をかち割っている。

このポリマー盾は、拳銃弾を弾き返す防御力があると座学で教えられた。

つまり、連中の拳は拳銃弾より威力が上なのだ。


 敵は中隊のど真ん中に降り立ったから、ゴム弾も撃てない。

それに、連中にガスが効かない。

昆虫の様なフルフェイスのヘルメットを被っている、あれは防毒マスクなのだろう。

ヘリから20人ほどの敵が降り立った。

「連中は特能省特殊能力対策局だ! 勝てば表彰ものだぞ! 」

中隊長が今更、敵勢力の所属を明らかにする。

だが、もう遅い。中隊は半数がやられてる。

連中の身のこなしは『早すぎる』、多分強化外骨格を使っている。

それも新型、ヘリから飛び降りれるようなとんでもないシロモノ。


 公園の外側にいたから、大石が対策局の戦闘員と拳を交えるのは終盤になった。

大石の三人前にいる同僚の盾が砕かれる。

よく見ると連中は手甲とメリケンサックを合わせたような、兇悪な武器を手にしている。

多分、それにスタンガンのような機能もあるのだろう。

殴られた機動隊員は泡を吹いて倒れている。

連中は盾と共に戦意を砕き、そして最後に意思を奪うのだ。


 大石と、戦闘員が相まみえる。

同士撃ちの心配なんかしていられない、無駄だと知りつつ片手に盾を、

片手にショットガンを構える。

正確に狙いをつけ、ゴム弾を発射する。

しかし発射の直前に敵は急加速し、銃口をすり抜け、その速度と体重と手甲で盾を砕く。

 大石はショットガンを捨て、素早く腰の警棒を抜こうとする。

しかし、警官の中でも群を抜いて早い大石の身のこなしを凌駕する速度で敵の拳は鍛えられた腹筋を貫通し内臓を揺るがす打撃を放った。

内臓のショックと電撃を一度に食らった大石は、泡を吹いて失神した。




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