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超能力者は戦わない、戦うのは人間だ EP3『トラッシュ/ロンダリング/ヤクザ』  作者: 眞道 亀吉
トラッシュ/ロンダリング/ヤクザ 
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『地獄からの帰還』

  海上は開けてるからだろうか、やけにヘリのエンジン音が心地よい。

元々空母ロナルドレーガンだった『地獄』にとって、ヘリの発着など造作もない様だ。

黒木一同が乗ってきたヘリは作業員に取り囲まれると素早く発艦可能になる。


「なかなかいい経験になったわ、ありがとう」

ヘリに近づきながら赤沢はクリスに向かってやや肚から叫ぶ。

「ヘルに慣れたと思ったらまだまだ。プール、ジャグジー、紹介する所は沢山あるんだから」

クリスも微笑み返しながら叫ぶ。

「それは覗き甲斐のありそうな施設だな」

赤沢の控えめな胸を眺めながら植山が鼻で笑う。

「ここのセキュリティー破れるならほかで覗いた方が早いよ、オジサン」

クリスが植山の後頭部に軽くチョップをお見舞いする。

「確かに、それだけスキルがあるなら転職を考えるな」

植山は一人勝手に納得する。


 「皆々様、オヤジ達をよろしくお願いしやす」

氏家が両膝を甲板に着け懇願する。

「お願いっていわれてもよぅ」

植山が困った顔で黒木を見やる。

「それが僕たちの仕事ですから、どうか安心して頭を上げてください」

黒木は氏家を立たせると両膝の汚れを払ってやる。

「出所、ですかね……したらあなたは会社の社長という大看板なんですから」

もっとしゃんとしろ、と言うのとも違う。なんと続けるべきかわからない。

「そうでやすね、オヤジ以上にあっしがここで一働きしねぇといけねぇ」

氏家は全身から闘志を放つ。

「重ね重ねになりますが、どうぞよろしくお願いいたしやす」

ヘリのドアが閉まるまで、氏家は頭を下げ続けた。


ぐわっともふわりとも違うが、全身に重力が掛かる。

ヘリは徐々に高度を増す、下を覗くとクリスがあどけなく両手を振って見送っている。

氏家は会釈して、ヘリに視線を一瞥もくれていない。

全く異なるこの二人はこれからどんな生活を送るのか、少し想像するのが難しい。

「クリスちゃん、可愛かったっスね」

滝が誰となくつぶやく。

「滝君、ああいう娘が好みなの? ちょっとロリコンっぽい感じ」

赤沢はわざとらしい嫌悪の顔を作り、滝へ向ける。

「いや、そうじゃなくて。なんといというか、脆い感じが守ってあげたくなるというか」

「脆い? 」

赤沢が意外な答えに食って掛かる。

確かに、赤沢に完全勝利を決めた相手を脆いと評するこの答えは意外だっただろう。

「えぇ、肉体的、戦闘面では成長してるんですけど、精神的に、思わなかったスか」

滝もそのことに気が付かない赤沢を意外そうに眺める。

「確かに、少し脆い所はあるのかもしれねぇなぁ」

植山はボソッとつぶやいた。

「あぁ、刑事の勘っやつだ。あくまで私見だ、精神面も強くねぇと警備主任なんかできねぇ」

植山はタバコを探し、ここがヘリだと気が付いてそれをやめた。


ヘリが傾くと一挙にホバリングから高速移動の姿勢に入る。

元ロナルドレーガンがゆがみ、やがてすぐに視界から消えた。

「やっぱり、空母って大きいのね」

一人赤沢がどこか感心したように頷く。


 外はキラキラと光る海に囲まれている。

無機質で死んだメガロポリスなんかより、よっぽど生きている感じがする。

ヘリは着た時と同様かなりの低空を飛行している。

手を伸ばせば海水に触れられそうだ。

黒木はいつの間にか、ヘリの中で睡魔に襲われそのまま寝てしまった 気が付くと、黒木達は既に生命に満ち溢れた海を抜け、

魂の抜けた東京の真ん中、都庁付近へと進出していた。

 ヘリコプターは最終旋回に入ると黒木の体が一気に左右に振れる。

その振動がどこか心地いいのは何故だろうかと、ふと気になる。

 ヘリは都庁にそびえる二つの塔の南塔に降り立った。

ゆっくりとした、だが緩慢ではない動きで確実に着地する、

素早く隊員が扉を開き、安全を確かめると地面に降り立った。

「到着です、御忘れ物のないようにおねがいします」

迷彩服の陸自隊員はまるで民間航空機のアナウンスの案内じみたセリフを耳元で叫ぶ。

「こちらの部隊の性質上、届けるのが大変なので」

 そう付け加える、確かに陸自特殊部隊のヘリに置き忘れをしたからと言って、

そうやすやすと届けてくれはしないだろう。そんな暇があるとも思えない。

「御忘れ物がないか確認終わりましたらどうぞ」

隊員は地面に降りて手招きしている、そう急かしている雰囲気ではない。

むしろ『普段』よりはゆっくりしてますといいたげな所作だ。


 滝を含む4人は陸自のヘリを見送った。

ゆっくり上昇したかと思うと、一気に首をもたげ高速で移動する。

 「ご丁寧に帰りまで匍匐飛行か、レーダーにそこまで写りたくねぇってのはやっぱり……」

植山が低く唸る。

「『地獄』の位置を知られたくないのね。しかしなんで揃いも揃って寝ちゃったんだろ」

赤沢が訝し気に誰となく問う。

「アレ、特殊能力装備らしいッスよ。輸送対象を眠らせて正確な位置が分からなくなる」

少しばかり青ざめた滝が口を出す。

「おかげで、少し酔っちゃいましたよ。あー、マジで気持ち悪いっス」

哀れな滝はその場ですこしへたり込んだ。


「そんな装備もあるんだ。しかし、まぁ、あーぁ、今日残りの時間寝ようかなぁ」

赤沢は生あくびしながら極めて不真面目なセリフを飛ばす。

「残りの時間も何も、今日土曜日ですよ」

滝がつっこむと一同は一瞬で凍り付いた。

「あー、労働時間申請してない。今日の分もしかしてタダ働き? 」

時間外労働時間は相談室手帳と呼ばれる電子端末で申請できる。

「かも、しれねぇ……」

赤沢と植山はせわしなく髪をなでる。

「大丈夫ですよ、昨日の夜から今ヘリを降りた時間で換算すればいいじゃないですか」

「そういう問題だけど、なんか釈然としてねぇ。揃いも揃って曜日を忘れるなんて」

確かに、大の大人が3人もいて曜日を忘れるのはいかがなものかと思う。

「ま、それだけ衣川会防衛に粉骨砕身したってことで、どうですか」

こんなの言葉の綾だが、ある意味真実に近い。

「そうね、まぁそうなるけど…… それにしても眠い! 帰って寝る」

赤沢はまるで怒鳴ることで自分の残り少ないエネルギーを奮い立たせる様だ。


 通用口を通ると、そこは少し早めの夏景色の東京が広がっている。

黒木は上着を脱ぐと、肩に掛ける。

 「じゃ、今日はここで解散……ですか」

「そうね、私も完全に疲れたし、おっさんもでしょ」

赤沢は植山に同意を求める、難燃性のジャージが太陽にキラキラと光りまぶしい。

「だな、今日はもう疲れた。書類まとめるのも明後日でいいんだろう? そうしようや」

植山は拳銃を隠すスーツをあくまで脱がない気らしい。

少し早い熱気に当たった植山の顎から汗が一滴滴り落ちた。


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