『地獄の空母と二丁拳銃』
滝君以外に、初めて黒髪じゃない登場人物が出てきます。
しかも女の子、やったー!
書いてて脳内お葬式並みに真っ黒だったから楽しい
黒木が乗っているヘリコプターの右隣にヘリコプターに黒木が乗っている。
黒木が右手を挙げると、黒木も右手を挙げる。
ヘリが前方に傾き速度を上げてると、その加速に二人の黒木がつんのめる。
「あの、これは……」
黒木はヘリで対面に座る陸自の隊員に問いかける。
「特殊能力防衛秘密に該当しますので詳細は明らかにできませんが、光学迷彩の一種です」
丁寧だが、これ以上は語らないという頑なな口調で隊員は応答する。
彼はドアを閉め、全員にベルトを締める様促した。
ヘリは僅かに高度を上げると、一気に加速する。
視界が広がり初めてわかったが、周囲には数えきれない輸送ヘリが飛んでいる。
映画で怪獣が出てきた時もこんなにヘリは飛んでなかった。
その数に肝を抜かし、椅子からずり落ちそうになると隣の黒木もずり落ちそうになる。
恐らく鏡の迷路のように姿を複製している、この編隊のどれかに特殊能力者がいる筈だ。
初夏が訪れた無人の巨大都市の空をヘリの編隊が切り裂く。
ヘリは地を這う蛇のように低空で飛び続けた。
何回かビルを避ける為か急に旋回し、その度に黒木の体は振り回される。
ものの数分で東京湾に出る。
やたらと低空飛行だ、ヘリのローターで水しぶきが撒きあがる。
旋回がなくなり、ヘリの振動にようやく体が反応した。
「どうぞ」
言葉少なに兵士がペットボトルに入った水を配る。
ヤクザは「お気遣い痛み入りやす」と拝み、口をつける。
元刑事は軽く会釈し、受け取るが口にしない。
ケミカルジーンズを履いた役人は「あざっす」と言いつつ、手で遠慮を示した。
役人は「どうも」と片手で拝むと喉を鳴らして飲み干した。
戦闘中は戦闘に釘付けになり、または頭は巡らしていて、水分補給を脳が忘れていた。
女戦闘狂は「ありがとう」と一気に半分飲み干すと、頭の上から降り注ぐ。
お前は映画出てくる中東で補給が届いた米軍兵士か何かか。
ヘリの床が濡れたのが気に喰わないのか兵士は顔を一瞬しかめた。
だが、今日の赤沢の働きを見ればそれ位は許されてしかるべきだ。
たった1人で強化外骨格付きの20人を相手に劣勢を覆した。
全員は黙り込んでいた。
疲れてしまってエンジン音を相手に叫んで会話する気力もない。
外を見ると一面が蒼い、空と海にまぶされた胡麻の様に大量のヘリが飛翔する。
その中にはまだ『他の黒木』が乗っているヘリもいる。
その異常事態は置いておいて、陸地が見えないということは東京湾を抜けたのだろう。
『地獄』、そう呼ばれる特殊能力者収容施設は言葉と裏腹にどこかの島にあるのか。
「地上レーダーサイト圏から脱出。ミラーボール解除、匍匐飛行を継続、各機散開」
無線から想像していたより鮮明な声が聞こえる。
外を見ると大量にいたヘリが僅か6機にまで減っていた。
勿論、『他の黒木』もいつしか消えていた
光像の複製、それも『どの視点からもきちんと複製』される高度な能力だ。
多分、この輸送部隊は特殊性を帯びた部隊なのだろう。
僅かに残っていた輸送ヘリが、低空を飛びながら離れていく。
攻撃ヘリを見つけることは出来なかった、もしかしたらまだ事務所で戦闘中かもしれない。
恐らくだが、これ以外の輸送ヘリは囮だ、『地獄』の正確な位置を掴まれないための。
あの特殊能力で作られたと思しき偽のヘリも、そのための策だろう。
そうなると、結構時間がかかるかもしれない。
下手をすると東京を離れるかも、しれない。
疲れていたが初めてのヘリコプターということもあり、眠気は無かった。
ただ、ひたすらに海と空を眺めていた。
コンクリートジャングル、そう謳われたメガロポリスが死んだ今、
タダでさえ無機的だった街に最早命を感じる時は少ない。
餌となる残飯がなくなった為、ハクビシンやネズミといった類も出なくなった。
だからこの空と海は、情緒というものに関心の無い黒木すら惹きつける。
なんだか、生きている、そんな感じがした。
太陽は西に沈もうとしている、まだ地獄へは時間がかかるのか。
多分、今黒木は太平洋の入り口に立ってはいるだろう。
「彼らは本当に味方なのだろうか」
そんな不安が脳裏を過る。
「陸自のフリをしているが、本当は警備局の特殊部隊じゃだいだろうか」
無言で長時間狭いところへ押し込まれた当然の結果だ。
突如として目の前に構造物が現れた。
凸凹、突起物の多いグレーの船、護衛艦だ。
「エスコート1を通過、もうすぐですよ」
頑なに沈黙を保っていた兵士がやや微笑みながら口を開く。
人間とは不思議なもので、最初から疑うべきものを疑わず、
疑いを解かぬべき時に解いてしまう。
突然の護衛艦の出現に黒木の猜疑心は解消された。
それから5分と立たないうちに護衛艦と比べ物にならない、巨大な船が姿を現す。
あれは『空母』だ、素人の黒木でもわかる。空母ってこんなバカでかいのか。
400メートルはあるだろう長さに、幅も80mはある。
「あの、海上自衛隊のですか。空母配備したなんて聞いてないんスけど。
米軍のは撤収した筈っスよね」
滝が、恐る恐る兵士に尋ねる。
「いや、これあんた達特能省のじゃない」
兵士は呆れ顔で返す。
「そんだけ予算があれば、レールガン搭載戦車やらもっとマシな装備を揃えますよ」
兵士は肩をすくめる。
特殊能力省の空母? 黒木と滝は顔を見合わせ絶句した。
僕の仕事場は、ちょっと物騒で特殊部隊とか、装甲車とか、戦車とか攻撃ヘリを持っているのは知っていました。でも空母を持っているとは知りませんでした、オワリ。
ヘリは空母に近づくにつれ、高度を上げる。
そしていくつかの専門用語がやりとりされてから、ふわりと着艦した。
エンジンの回転数が下がる、兵士が安全を確認するとドアを開いた。
黒木は兵士の誘導に従い外に出た、まるで大地に立ったような踏みごたえが帰ってくる。
鼻に潮の香りが抜ける、野生の命のいつ以来だろう。
エンジン音が小さくなる、潮騒が聞こえる。
傾きかけてた太陽はもう夕日になっている。
超高額、大型船のサンセットクルージング、金のかかる遊びだ。
もっとも、これは客船では無くて空母だし、仕事だ。
どこからともなく、一人の女性が現れた。
金髪にレイバンのサングラス、ネイビーカラーのTシャツにジーンズ、スニーカー。
軽装で防弾装具は身に着けていない、だが武装はちょっと変わってる。
日本では製造していないSCARライフルを背負い、両太ももに拳銃を下げている。
つまり、二丁拳銃。
防弾服に身を固めているものの、武装してない赤沢と好対照だった。
体形すらも——赤沢の盛り上がった胸筋というべき場所はふくよかに膨らんでいる。
スレンダーな赤沢に対し、この白人は全身が少しばかりふくよかだ。
「いらっしゃいニューカマー、ここが保護施設『地獄』《ヘル》。
私が警備主任のクリスティアーナ、皆からはクリスって呼ばれてる、特能省職員よ」
予想通り、というべきか陽気な声の持ち主だった。
「米軍の残党……か? それが警備主任? 特能省ってのは予想以上にリベラルだな」
植山が驚きと感心を半ばにした声を出す。
「まぁ、そんな所だけど私日本人とのハーフなの、国籍は日本、パパが日本人でね。
見た目はママに似たから見た目白人だけど、文化、生活とかは安心して。」
潮風でクリスのポニーテールが揺れる、髪は夕日を反射してキラキラと光っていた。
「これは空母ですよね、本当に特能省の装備なんですか」
黒木は自分の役所の事を知らないバカと思われようが構わない、そう思った。
「確かに空母、もう軍艦じゃないのよ。ウチがロナルドレーガンをステイツから買い取って、保護施設にしたの。ほら、陸地だとどうしても場所を固定しないといけないし、
移動できた方がセキュリティヴィティーは高いじゃない。だから海に目を付けた訳」
クリスはカツンと、甲板を蹴る。
「でも、なんで空母なんですか。海自は空母持つか持たないかで相当揉めてたでしょ」
「空母なら空間は大きいし、陸地から物資を運ぶにも丁度いいでしょ。
世界のポリスから退こうとしてたステイツにとっては無用だったしね、空母。
それに『地獄』《ヘル》の所属はネイヴィーじゃないから憲法の管轄外よ」
「じゃ、中を案内するね。結構住み心地がよくて、皆出ていきたがらないくらいだから。
でもヤクザさんはファミリーがあるんだもんね、早く戻らないといけないね」
甲板の脇の階段を降りながらクリスが一人感心したようにしゃべる。
「そうでやす、早く戻るにゃどうすればよろしいんで」
クリスのすぐあとに着いた氏家は彼女の後頭部に問いかける。
「とにかく品行方正、あとは能力実験ではっきりとした実績をだすこと、これ位かな」
クリスは重そうな水密扉を軽々と開けながら話話す。
「マフィアから逃げてきた人は整形とか、そういうオペレーションとかで長引くけど、
ヤクザのお兄さんは元々ヤクザだし、戻っても仕事あるんでしょ。なら早いと思うよ」
一行はかつて格納庫だった場所に出た。
艦載機を捨てた元空母の腹の中は様々な娯楽施設の集合体だった。
映画館、運動場、ジム、喫茶店、量販店、ゲームセンター、図書館、風呂、サウナ……
まばらだが人はいる、つまり東京より人口密度は高い。
「海の上ってなんもないでしょ、別にここは刑務所じゃないから娯楽も認められるわけ。
それにここの人はいずれ社会に帰る、その時にカルチャーショックを受けないようにね」
驚いている一同に向かってクリスが説明する。
「あー、これだけでけぇ街ならショバ代が取り放題だな」
氏家が呆れつつ、頭を振る。
「馬鹿、どこのどいつが半分ムショみてぇな所でショバ代取るってんだ」
植山が氏家の後頭部を叩く。
「うーん、いやそれ結構いいんじゃない」
氏家のリストを捲るクリスから意外な言葉が出る、犯罪行為はご法度だろう。
「だって、戻ったら元のヤクザマフィアはセキュリティーカンパニーでしょ?
だったら、ショバ代は正規の警備料金としてとってみたら。職業復帰ってことで。
勿論きちんと警備もしてもらうけど、それなら私が許可出すよ」
クリスは笑っていた、屋内に入って気が付いたがこの娘はかなり若い。
単なる童顔やあどけないではない、肌や髪が本当に若いのだ。
27の黒木より絶対年下だ、なにがあってこの空母の警備主任になってるんだ。
「ところでクリスちゃん、ここのどこが地獄なんスか」
ヤクザにビビりまくって「普通の言葉遣い」だった滝が『通常モード』に切り替わる。
「インテリジェンス、インテリジェンス。地と聞けば、ランドを想起するし、
獄はプリズン。でもここは海だし、パラダイス。そういう、なんていうのかな——」
「真逆の言葉を使って相手の注意を別のところに向ける、と」
「そうそう、今のとこどこの組織にも場所はばれてないけどね」
クリスは自信げありげに微笑んだ。
ゲームセンターの前を通りかかった、賑やかな音が聞こえる。
滝はクリスと『地獄』での生活を、植山は氏家と『今後』について相談していた。
黒木はその二組の後ろをやや距離をとって歩いていた。
別に離れようとした訳じゃない、賑やかなこの『街』を眺めていて自然と後れを取ったのだ。
突然黒木は後ろから襟をグイと引っ張られる。
赤沢だった。
「気を抜かないで、あのクリスって娘、ただものじゃない」
赤沢は声を押し殺し、黒木の耳元で囁く。
「ただものじゃなかったら、ここの警備主任にはなりませんよ」
唇が重なるんじゃないかと思う程、赤座に顔を寄せてつぶやく。
「違う、あの子の眼。気が付かないの」
「レイバンのサングラスじゃ、違うんですか」
「馬鹿、横に真っ二つに切られてる。盲人よ」
「でも、普通に歩いてるし、銃も持ってる……特殊能力者? 」
「内緒話はいいけど、自分の噂されるのはスキじゃないんだ。オープンにいこうよ」
クリスのささやき声が聞こえた、
振り返るとクリスが赤沢に身を寄せるように立っていた。
クリスは拳銃をぐぃと赤沢の防護服の首筋から背中に沈み込んだ、同時に撃鉄を起こす音がした。
脊椎を撃たれれば一瞬でカタが付く。
銃口を直接ねじ込まれた防護服は今、身を守る相棒ではなく重荷でしかない。
赤沢は抵抗も出来ず、身じろいでいる。
黒木は一瞬振り返り前方を確認する、滝がクリスを探して右往左往している。
植山と氏家はなにも気づいていない、が滝に促され周囲を見渡す。
彼らからは赤沢に隠れたクリスは見えない。
黒木は自分なりに素早く脇の下から拳銃を抜こうとする。
だが、スーツに手を入れた瞬間クリスがもう片方の手で黒木に銃を向ける。
武装しているのは植山だけ、彼もクリスに気づいていない完全に『詰み』だった。
「みんなー!私はここだよ!」
クリスはそう叫ぶと両手の拳銃を同時に発砲した。




