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超能力者は戦わない、戦うのは人間だ EP3『トラッシュ/ロンダリング/ヤクザ』  作者: 眞道 亀吉
トラッシュ/ロンダリング/ヤクザ 
10/22

『激戦と最終的解決手段』

「月見公園に展開した一個中隊と通信途絶」

通信手が声を殺して絶叫する。

「敵の数は」

肝の据わった大隊長も、流石に声を震わせる。

脂汗をかいているのか通信手は目出し帽越しに、しきりに顔をぬぐっている。

「20名、装備は強化外骨格、それも特殊仕様です。手甲で盾を砕いてると……」

「盾を砕かれようが、戦闘は継続できるでしょう。なにがあったんです」

声を荒げることなく、しかし力強く大隊長が詰問する。

「それが、スタンガンか何かを仕込んでいるようで。身のこなしも尋常ではないと」

通信手は目出し帽の下にハンカチを突っ込み汗を拭う。

「遊撃小隊を事務所周辺に展開、本丸の守りの一個中隊を増派。急げ」

大隊長は、どこか世話しなく指揮棒をなでまわす。


 しかし、水野の言っていた黒木の元職場がこの戦局を左右するという事を思いだすが、ピンとこない。

黒木は、正直言ってあまり『業績』を挙げられた方ではない。

 黒木は何をした、水野はどのことを言っている。

今治市のタオル工場にに『布の形状記憶』能力者を紹介した?

ふわふわのタオルの耐久性は上がり、勝手にたたまれることで高級品となった。

『生物』を融解させる能力者を掃除会社に紹介した?

田舎の廃屋や古い公営住宅をピカピカにして、大疎開に伴う住宅不足を少しは改善した。

『動物を操る』能力者を大間の漁協に紹介した?

成長したマグロだけを確実にとらえて、海洋資源保全と収益を両立させた。


 黒木の仕事は、『そういうこと』だった。

しかし、氏家の能力の詳細は不明、どこに紹介すればいい。

ゴミが『消える』のか、ゴミが『どこかへ』行くのかわからなければ……

 そもそも元ヤクザの特殊能力者を雇う企業はあるのか。

というか三沢は氏家を手放したくないと言っていた。


そんな黒木の思考戦とは裏腹に、遂に対策局の特殊部隊がつっこんできた。

「○ジャン、目視。遊撃隊小隊が迎撃中」

対策局の特殊部隊は○ジャンと呼称されることに決まっていた。

ヘリからジャンプしたらからジャンパー、警察の略語の決まりで○をつける。

だから〇ジャン。


 遊撃隊小隊は手持ち部隊の中から精鋭を選抜したらしい。

遊撃隊小隊は、第一波で特能省執行部隊が使っていた警杖を使っている。

素材は変われど、この手のエモノは機動隊にとって使い慣れてる。

それなりに善戦するだろうという楽観視した空気が指揮所にはあった。


 しかし、その空気は一気に切り裂かれた。

〇ジャンの動きは武道というよりはスタントに近い。

ある者は殺到する警仗の針山をすり抜けて、一人、また一人と卒倒させる。

又ある者は、ブロック塀を駆け上り空高く舞うと、遊撃小隊の側面に回り込む。

密集した小隊が一瞬のうちに縦に引き裂かれた。

〇ジャンの一人が地面を蛇の如く這い、その道々で電撃を食らわせた。

それから、一個小隊が文字通り『全滅』するのにさして時間はかからなかった。


 「私も出る」

赤沢が大きなマガジンに弾を込めながら、出口に立った。

「駄目です」

大隊長が断言する。

「なんで? 私でも確かに連中に敵わないかもしれないけど」

赤沢は、腕を組み大隊長を睨む。

「確かに貴女の戦闘能力は先ほど見せていただきました、かなりものものです。

しかし、それで勝てなかったとき、我々の士気は崩壊します」

外の喧騒をまるで無視し、指揮所は静まり返る。

「それに〇ジャンがここに突入してきたときの防衛要員としても残しておきたい」

「最後のそれは、付け加えだろうけどわかった。ここで立て籠もる」

赤沢はコンバットショットガンを構えたまま、室内に残る。



 そんな一幕の間に事務所の最終防衛ラインに〇ジャンが侵入した。

隊列を組む中隊を卒倒させながら進むから、○ジャンは機動隊を踏みつけて進む。

その様を見てヤケになった一個小隊が吶喊し、〇ジャンの一人を確保した。

月見公園の一個中隊、遊撃二個小隊、事務所警備の中隊の半分、

100人近い被害を被って、ようやく一人を捕縛した。


 「機装具の到着はまだか」

大隊長がそう口にした瞬間だった。

窓の外に、人がいた。窓、といってもここは二階だ。

異形のヘルメットを被り、空を飛ぶ。これが『ジャンパー』

遂に、負けたか、とか痛いのは嫌だとかそいう思いは浮かばない。

ただただ恐怖心に捕らわれた。

ジャンパーが窓を破り、室内に突入しようする様はやたらとゆっくり見えた。

両腕を広げ、膝を突き出し、窓を突き破ろうとしている。


 ズドン

鼓膜が破れんばかりの炸裂音が耳元で鳴り響く。

スローモーションだった世界があっさりと元の速度に戻る。

ジャンパーはさっきの姿勢のまま、後ろへ落下していった。

黒木が振り返ると、硝煙を燻らせるショットガンを構えた赤沢。


 「な、なんだ今の」

公納が狼狽え、ソファーからずり落ちる。

「ヘリから飛び降りるということは、それなりの高さも跳べるってことよ」

赤沢は窓辺に走り、周辺を見回しながら答える。

「つまり、敵は立体攻撃を仕掛けられるわけだな」

ついに植山もショットガンを手にする。

「植山さん、ショットガン撃てるんですか」

黒木が止めに入る、敵の一撃は強烈。無駄弾を撃ってのされるのは割に合わない。

「馬鹿やろう、FBIでやってらぁ。アメリカの警察といやぁショットガンよ」

その言葉と裏腹に植山の手つきはおぼつかない。

多分彼が使ったショットガンと、コンバットショットガンじゃ勝手がかなり違うだろう。


「機装具中隊が到着しました! 」

静まり返っていた指揮所が色めき立つ。

装甲が施された機装具なら、いかに一撃卒倒の手甲と言えど、はじき返せる。

それに自動照準で発射されるゴム弾をよけれるはずもないだろう。


 戦況は逆転した。

いかに素早く、必殺の一撃を放つと言えど殆ど生身の人間である。

対して重機関銃を弾き、精密な射撃を可能とする鉄の巨人、機装具にとって敵ではない。

素早く回り込む〇ジャンは暴徒鎮圧用高圧放水銃インパルスガンで吹き飛ばされる。

インパルスガンの発射音は銃のそれに近い、巻き添えを食らった機動隊も吹き飛んだ。


一方空高く跳び、頭部を狙う輩はゴム銃で狙撃される。

先刻の赤沢が放ったゴム弾より強烈な一撃を食らった○ジャンは、

放物線を描いて向かいの家の屋根に叩きつけられた。


防弾耐衝撃ジャケットを着込んだ〇ジャンと言えど消耗は明らかだった。

高度に連携し突撃を繰り返すも、機装具相手には不利は明らかだった。


 横一列に並んだ○ジャンがつっこんでくる。

「向こうもヤケですね、近接したところをインパルスガンで排除、捕縛してください」

大隊長が命令を下す。

 が○ジャンは予想外の行動にでた、いきなり匍匐の体勢をとり地面に手甲を突き立てた。

電撃が地面に走る、倒れ込んでいた機動隊員が一斉にエビぞりになり、叫ぶ。

その声はまるで地獄の亡者が一斉に雄たけびを上げてている様だった。

実際はガスマスクを通じて声が漏れているせいで、重低音に響いているだけなのだが。


 電撃の効果を確認すると○ジャンはパルクールの様な動きで家々に紛れ撤収した。

「追撃しますか」

通信手がぼそりとつぶやく。

「いいえ、負傷者と捕縛した○ジャン1名の輸送を最優先に、本庁にもう一個大隊を要請。

たかだか20人に約半分がやられました。次の攻勢は凌げるかどうか」

並々ならぬ胆力の持ち主である大隊長のため息は指揮所の士気を多いに低減させた。


 「上司から連絡が来ました、次は特能省も機装具を持ち出す算段です」

滝が申し訳なさそうにつぶやく。

「もう、戦車だしましょ、戦車」

ソファーにどかっと座った赤沢が作戦地図に足を投げ出し、天井を睨む。

「そしたら次は攻撃ヘリがやってきますよ」

黒木は赤沢に向かって指を天上に向けてクルクルまわす。

「そしたら、俺の44マグナムの一撃で撃ち落としてやる」

植山がご自慢のリボルバーを取り出し、クルクルと回す。

「おい、あんたそれダーティー・ハリーのヤツかい」

三沢が急に眼の色を変えて植山ににじり寄る。

「そうだよ、私物の拳銃だよ。これは本物の——」

 

 日本は一部銃の規制緩和が行われた。

現場に柔軟性を持たせ、地方で足りない警官を補うため元自衛官、警官に限り、

認可された警備会社が拳銃を保有できる。

 この制度がどこか、黒木の脳に引っかかる。

なにが、なにが引っかかる。


黒木は顎に手を当て、壁に寄り掛かる。頭を巡らせる。

すると壁に掛けてあったガラス張りの額が地面に落ちてガシャンと割れた。

 『任侠道』

それなりの書道家によって書かれたと思われる達筆な書が足元に広がる。

「あー、兄ちゃん、普段ならボコボコにするとこだけど今は気にしなくて——」

三沢が黒木に気を使い、手を横に振る。


だが、黒木の脳はそんなことは問題じゃないと告げている。

「任侠道」

黒木の声が気色ばむ。

指揮所にいた一同、黒木の声の変貌に驚き振り返る。

「は? 」

三沢がぽかんとした声になる。

「あなたにとって、任侠道ってなんなんですか」

黒木は、しかと三沢と目を合わす。

「ほう、なにか考えがあるんだな」

三沢も黒木を、睨みつけるでもなく、しかし目を見開いて見返す。

「今、そんなこと言ってる場合じゃ——」

「場合ですよ」

割って入った後藤を黒木が制する。


「わしにとっての任侠道、な。原点は弱きを助け、強きを挫く、だ」

三沢が懐かし気な顔になる。

「俺ァ昔酒屋の息子でよ、金貯めてそれで一等地にキャバレーを開いたんだ。

ところがよ、ヤクザがやってきてショバ代だ、土地の利権がとか文句垂れてよ。

挙句の果てには風営法で店は閉店よ。だが裏じゃヤクザとマッポがつるんでたんだ。

そしたら先代がよ、いきなりヤクザと悪徳警官とっちめてそっくり返してくれたんで」

三沢の目には涙がうっすら浮かんでる。

「実は先代が俺の店が気に入って、お前は才能があるから、がんばれよってな。

頭が上がらんかった。しばらく店は続いたが、バブルが弾けたら、閑古鳥。閉店よ。

そしたら、お前先代がわざわざやってきて、お前、俺の組入らねぇか、

後ろ暗いことは絶対にさせねぇからよってな」

三沢はタバコを取り出し、一吸いすると壁に飾ってあった写真の前に置いた。

「恩義もあるしよ、ヤクザなったからには鉄砲玉でもやる覚悟はあったんだが、

これが驚いた。シャブはやらねぇ、ショバ代はマトモな額、賭博もやらねぇ……

つまり、組の運営はカタギさんの御礼金やらで賄ってたんだな」


「それがあなたの任侠道の原点ですか」

黒木は『任侠道』と書かれた立派な書を取り上げ、尋ねる。

「おう、勧善懲悪、弱きを助け強きを挫く、だ」

三沢の目は、先代の写真を見つめている。


 「ならばこの抗争を終わらせるのは単純です」

黒木は断言した。

指揮所の一同が黒木に注目する。


 「衣川会を解散、警備会社に改変します」




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