第六話
「藍澤、俺の彼女になれ」
「はあっ⁉ ぜんっぜん、わかってないじゃん! 私は独りになりたいの。悪目立ちしたくないの。恋人になんて、なれるわけないじゃん!」
「俺と付き合うことが悪目立ちで、髪を染めることが良い目立ち方なのか? その考え方は、俺とは違うな」
「考え方だけじゃない! そもそも、私とあんたは──」
「似てるさ。俺と、藍澤は」
松原くんと私が似ている? 何の根拠があってそんなことが言えるの。私には自信も勇気もなくて、いつも逃げてばかりで、結局は自分のことが一番大切。でも、そんな自分が嫌いで、傷付くことが怖くて、現実から目を背け続けている。
本当の私は、弱くて、仮面にすがらないと生きられない。ちっぽけな存在でしかない。松原くんみたいに、変わろうとする努力さえできない私のどこが、あなたに似ているというの?
それに、似てる似てないの問題じゃない。松原くんと私では比較にならない。住んでる世界が違うのだから。比べる手間なんてかけなくたって、私が誰かに勝てる要素は万に一つもないのだから。
いつまで経っても松原くんは帰ろうとしない。
どうして? どうして私なんかに構おうとするの?
「藍澤は、蒼浦高校一の美人だ。俺が保証する」
「冗談はやめて!」
「冗談でそんなこと言えるかよっ!」
私は、かわいくない。
私は、かわいくなれない。
私は、かわいくなってはいけない。
──記憶の蓋が少し開いた。
風に揺れる茶髪、少女の微笑み、赤い水たまり、腕に残る手形、甲高い笑い声……。
『あーあ、汚れちゃったねぇ』
私が、かわいいだなんて、許されない。
「もう……、私のことは放っといてよ。この部屋から、この家から、出ていって」
まさかここまで固いとはな。たぶん、そう言ったんだと思う。そして、視界から彼が消えた。
次の瞬間、全身に熱を感じた。火傷しそうなほどに熱い。でも、少しだけ、じんわりとした温かさもあった。
彼の体温が移ったのか、私の身体もしだいに熱を帯びていく。抱きしめられているのだと自覚したそのとき、パシャリと小さな音が鳴った。正気を取り戻した私は、ゼロ距離にいる彼を突き飛ばす。
「何、したの……?」
息が途切れ途切れになって、言葉が続かない。運動なんてしていないのに、心臓がせわしなく鼓動する。今まで経験したことのない感覚に、戸惑いを隠せないでいた。
松原くんは、スマートフォンをポケットに仕舞って、言った。
「俺が藍澤を変えてやる。だから、俺の彼女になれ」
それは、提案とか告白というよりは、脅迫に近いセリフだった。
私に、選択肢はなかった。
こんにちは、白木 一です。
今、ニヤニヤしながらこの後書きを作っております。
変態終末期ですね。
とりあえず、あらすじに書いた部分までは投稿できました。
言うなれば、序章、ですね。
予告としましては、次話からはデート編です。
まだまだまだまだ続きます。
これからも、白木 一をよろしくお願いいたします。