氷のラグーン。
観客の反応は想像通りだった。驚いて、固まって、興がさめる。
あからさまな非難や暴言が出てこないだけまだましだとさえ思う。
確か放送委員長である司会も、教職員代表として舞台上に招かれている学校長も含め、みな一様に引いていた。
『そ、それでは、マーメイドコンテスト午前の部。まずは自己紹介から参りましょう!』
本来の仕事を思い出したらしい司会が、動揺をにじませながらもプログラムを進行させていく。それでも数多くの視線が私に向けられたままだった。
『名前とチャームポイント、コンテストへの意気込み。それと、彼氏がいらっしゃるのかどうかも訊いてみましょう! まずは、一番の川本さんからどうぞ!』
マイクが司会から一番の人に移る。
空気もようやくコンテストらしいそれに戻った。
「川本流南でーす。チャームポイントはおめめがくりくりなところ? 優勝したら人気がもーっと出るみたいだから、ルナ、頑張るね! 私の彼氏は――、この会場にいるみんな、だよ?」
野太い歓声が会場を揺らした。
名字は知らなかったけれど、ルナという名前はよく耳にする。
女子生徒にとってのアイドルが亮介くんであるように、ルナと呼ばれる少女は男子生徒のアイドルで、ファンクラブも発足しているらしい。
亮介くんとは違って同性からの人気はほとんどないけれど、有名人ではある。
あざといけれど、かわいい。そんなタイプ。
「二番の、井土果子。チャームポイントは……、特にない。水泳部の部員獲得に繋がるから出場すべきだと勧められたのだが、嘘だったようだな。だけれど、勝負事には負けたくないのでグランプリはとりたい。恋人は――いる。えっと、よろしくお願いします」
今度は女子の声援が勝っていた。
見覚えのない人だけれど、かっこいいなと思う。コンテストに参加したきっかけは抜きにして、自信に満ちあふれている姿がかっこいい。
それに、私も言えるようになりたい。
違う、ならないとダメだ。
ただ立ち止まったままでは、背中を押す手も意味がない。
「三加元美環です! 友達がかわいいと褒めてくれて、なら出てみよっかなぁって、それでここにいます。友達からは肌が綺麗だってよく言われるかな。彼氏はぁ、まだいないけど、好きな人はいるよ。その人のためにもグランプリは絶対にとる!」
観客の反応は意外にも良かった。
友達が友達がって謙虚を装いながら、最後には抜け目なく味方を増やしていく。まるで、彼女の――楓のやり方そのもの。
嫌いだ。
ずるい楓が。
そして、そんな楓を羨ましいと思っている自分が、大嫌いだ。
ミカがマイクを片手に近付く。
あのときの楓と重なり、指先が痺れだす。
マイクが差し出される。
その手は、左手だった。
楓の影がミカから消えた。
「藍澤さんを好きになる人はいない。意味、わかるよね?」
私にだけ聞こえる声で、ミカは言った。
マイクを受け取り、私は一歩、前に出た。
こんにちは、白木 一です。
次話、みじかいです。
代わりにあとがき長々と書こうかなとか思っていたりいなかったりします。
活動報告ももっとちゃんと書かないとなとかも思っているのですが、なかなかに難しいです。




