少女に化けた鬼。
悪夢は、再び蘇る。
蒼浦高校の制服を着た彼女は、私にしかわからない毒をはらんだ笑顔を浮かべ、三十九人の生徒の前に立っていた。
笑顔を崩さず、身体に絡みつくあの声で、彼女は名前を唱えた。
「都立第二高校から転入してきた縁木楓です。仲良くしてくれたら嬉しいなぁ。ねぇ、も・み・じ、さん」
お辞儀に合わせて、彼女の右耳で緑が揺れた。
文化祭を一週間後に控えた五月下旬、梅雨は暗雲と彼女を従えて、私の心に雨を降らす。
彼女は、縁木楓は、昔から自分を隠すことが得意だった。誰かに合わせて自分を演じわけることが、異常なまでに得意な少女なのだ。
その特技を活かし、彼女はたった一日でクラスに馴染み、誰彼なしに仲良くなっていった。
それと同時に、彼女はある噂を広めていた。
松原亮介は蒼浦高校に恋人がいる。さらに、その女子生徒は帰宅部の二年生である、と。
蘭さんが恋人に間違われたときは情報が少なかったために、二週間ほどでうやむやになっていた。しかし、今回は事情が違う。蒼浦高校の二年生で帰宅部は六十人未満。男子を除けば約二十人。かなり数が限られてくる。
そして、ある生徒は覚えていた。亮介くんと私の、二度目の会話を。
「藍澤さん――だっけ? あんたさぁ、始業式の日、松原くんと何話してたの?」
彼女が転入してきた翌日、昼休み。いつも通り独りでお弁当を食べる私の机を、三人の女子が囲んだ。
クラスで一番騒がしい茶髪をショートにした人と、吊り目のボブの人、眼鏡をかけたセミロングの髪の人。私たちを眺めるように、少し離れて彼女もいた。
目の前に立つ茶髪の人が、話の口火を切った。
「松原くんに話があるとか言われて、屋上で、二人きりで、何してたの? 扉に鍵までかけて」
眼鏡の人が続く。
「そういえば、藍澤さん、あの日早退してたね。鞄を忘れてたみたいだけれど、松原くんが持って帰ってた。ひょっとして、家まで届けてくれたんじゃない?」
何で覚えているの? 今まで私に興味を持たなかったくせに。付かず離れず、たちの悪いいじめの標的にすらしない、そこにいるだけの空気にしていたのはあなたたちでしょ。
でも、私は言い返さない。
彼女以外はおそらく何も知らない。噂をうのみにしているだけで、それ以上の情報を持っていないのだろう。私が黙り、ぼろを出さなければ乗り切れる。なぜか彼女は口を開かない。私が我慢できれば、きっとうやむやになる。
吊り目の人が言う。
「四月になってから、松原くんはミカと帰らなくなったんだって。朝、学校に来るのも遅くなってるし、いかにも怪しいよね。藍澤さん、絶対何か隠してる」
ミカと呼ばれた茶髪の人は、今にもつかみかかってきそうだった。
「いい加減、白状したら? あんたなんでしょ、松原くんの彼女とか言われて舞い上がってるのは」
彼女は静かに笑っている。この状況を楽しんでいるかのように。
私はもう楓には負けない。負けたくない。あの苦しみを、心の痛みを、二度も味わうなんて嫌だ。
三人を無視して梅干しを口に入れる。
バンッ!
机が揺れた。ミカが身を乗り出し、距離を詰める。
「気持ち悪いんだけど。マスクしたままご飯食べて、マスクがないと生きられないわけ? マスク外せばあんたは死ぬの? 人と話すときくらい、マスク取れないの? ねえ、なんか言ったらどうなのよ!」
教室中の視線が私を射る。あのときと同じだ。私を敵だと、無言の空気が認めている。
圧倒的な支持を得たミカを止める者は、いない。
「あんたが外さないのなら――私が取ってあげる」
不意に伸びた手に反応できなかった。
ミカの手が顔に触れ、
「化けの皮、はがさせてもらうわね」
そこで止まった。
「化けの皮って何の話だ?」
こんにちは、白木 一です。
昨日変なテンションでキャラクターグッズと少女漫画を買い込み、はやく読みたいなぁと思っております。
このあとお仕事八時間ありますが。
来月は京都に行こうと考えています。
始発で行き、伏見神社を見て回って、資料を集めたいです。




