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モミジ、色づく。  作者: 白木 一
第三章 シスターコンプレックス王子様。
26/41

偶像の憂鬱。

「松之葉蘭――いい加減にしろっ!」


「すっ、すみませ……ん? 亮介、どうしたの? 怖い顔して」


 蘭さんの雰囲気が、私の知る蘭さんのそれに変わる。

 しかし、今度は亮介くんの様子がおかしくなった。真っ赤な顔で、彼は本気で、姉に逆上した。


「いくら姉ちゃんだからって、弟のプライバシーを侵してもいいわけないからなっ! 仕事で青春を満足に過ごせなかったとはいえ、姉ちゃんの恋愛の価値観を、俺や紅葉にぶつけるなよっ!」


「先に、女子の気持ちがわかんなーい、教えてくれーって泣きついてきたのは、どこの弟だったかしら?」


「それとこれとは話が別だ!」


「アドバイスしてあげるって私が言ったら、跳び上がって、姉ちゃんありがとうって抱きついたのは、どこのシスコンだったかしら?」


「と、跳び上がってまではいねぇよ!」


 ……抱きついたんだ。


「とにかく、だ。俺と紅葉は俺達のペースで進んでいく。それを姉ちゃんにとやかく言われる筋合いはない。金輪際、俺と紅葉の関係に口出しするなっ!」


 ぴしゃりと姉を拒絶した亮介くんに、蘭さんはたった一言、言い返した。


「嫌よ」


「嫌って何だよ、嫌って! これは、俺と紅葉の問題だろ。どうして姉ちゃんが関わろうとするんだよ!」


 どんどん機嫌が悪くなる亮介くんとは対称的に、蘭さんはにこやかに、弟の質問に答える。


「だって、楽しそうだから」


 なぜか蘭さんは私の方へと身体を向けた。


「学生時代は学校を休んだり早退したりが多くてね、目立ってはいたけど浮いていたの。友達をつくる時間すらないし、友達だった人たちとは自然と疎遠になっちゃうし。亮介が言った通り、青春の思い出はこれっぽっちもないの」


 亮介くんは静かに姉の話を聴いていた。

 私を見つめながら、蘭さんは続ける。


「少女漫画や恋愛小説は空き時間に読んでみた。ラブロマンスのドラマに出演したこともある。でも、何かぴんとこないの。恋とか愛とか言葉は知っていても、いまいち想像がつかないのよ。

 経験するのが一番なんだろうけど、色々と迷惑かけちゃうことになるから無理。

 困ったなぁと思ってたところに、亮介が恋をしたなんて言うじゃない。考えることは一つしかないでしょ?」


「だから、俺と紅葉を観察するために、逐一写真を送れなんて頼んできたのか?」


「そう……。紅葉ちゃんの写真しかなくて、思っていたものとは違ったけど。ツーショットみたいにラブラブした写真が見たかったのにね」


 なるほどなと呟き、亮介くんはソファに座った。腕を組み、何かを考え始める。


「それにね、もし紅葉ちゃんが亮介と仲良くなったら、こうして家に来る機会も増えるでしょ? そしたら紅葉ちゃんと話すことができるじゃない。

 私には弟しかいないし、仕事場では素の自分を出しにくいから、会話が全く弾まないの。亮介の話を聞いて、紅葉ちゃんに興味が湧いたのもそのせいかもね。本音で話せる友達が欲しかったのかも。さっきのおしゃべりも結構楽しかったしね」


 おしゃべりというか……ほぼ一方的に聞かされていただけなのですが……。


「うちの母さんでさえ、姉ちゃんの壊れた姿を見たことはないな」


「そりゃあそうよ。あんな姿、人に見せるものじゃないし。たぶん、二人以外に見せたことないね」


「初対面の人間にあんなになついた姉ちゃんは初めてだと思う。そうなると、姉ちゃんのためにも紅葉と姉ちゃんは仲良くなるべきなのか?」


 あれが松之葉さんじゃない、本当の蘭さんなのだろうか……。複雑な気持ちになってしまう。嬉しいというより見たくなかったということの方が当てはまる。

 憧れの人の普段の様子……。

 舞台裏なんて見るんじゃなかった。

 私の気持ちを見透かしてか、蘭さんはあっけらかんとして言った。


「余程気を許した人にしか見せないだけで、あれが私の素じゃないからね? 現実と妄想がごっちゃになっていただけなのよ」


「暴走中に自覚ないのが困るんだよな。それよりさ、紅葉は姉ちゃんのこと、どう思ってるんだ? 仲良くなりたい、放っておいてほしい、どうでもいい、とか。紅葉の正直な意見を教えてくれないか」


 私の正直な意見。

 私が蘭さんをどう思っているのか。



 昨日までは、今日蘭さんに逢うまでは、間違いなくそれを憧れだと答えていただろう。

 しかし、『松原蘭』としての蘭さんを知り、少なからず蘭さんの言葉を聴けたことで、心に触れられたことで、『松之葉蘭』に抱いていた感情は憧れではなくなっていた――。

こんにちは、白木 一です。

次話で松原姉編終了です。

眠いです。

ネマシュ。

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