間違いなお届け先。
蘭さんと私は二人並んで正座させられていた。
亮介くんが仁王立ちになって、私たちを見下ろしている。
私は蘭さんの隣で緊張しながらも、漂ってくる花のような香りを堪能していた。
柔軟剤か、香水か、もしくは生まれながらにしてこの匂いなのか。涼しげでやわらかな、少し甘さの混じった感じがする。柑橘系、だろうか。
「そこ、ぼうっとしない!」
怒られた。蘭さんの匂いを楽しんでいただけなのに。
「ちょっとぉ、どうして私たちが、お説教されないといけないのよぅ」
「ぶうぶう言っても聞きません。俺が訊きたいのは一つだけ。どうして紅葉がうちにいるのか、だ」
えっと――どういう意味?
私がここにいるのは、亮介くんがメールで、お姉さんを紹介すると伝えてきたから。お姉さんのことを隠そうとしていた理由にも納得できた。
それを、なぜ亮介くんが知らないの?
まさか忘れていた――はずはないと思う。
「亮介くんが誘ったから、来たんじゃない」
「知らねえよ。そんなことした覚えがないし。てか、いつの話だよ、それ」
「月曜日の夕方。ほら」
スマートフォンを取り出して、メールの文書を彼に見せる。
しばらく画面を見つめ、亮介くんは覚えていないと言った。
「こんなメールを送った記憶はないぞ。それにその時間ならいつも風呂に入ってるから、そもそも送れない。俺の発信履歴も空っぽだ」
画面をスクロールしていた亮介くんの指が止まった。心なしか、彼の肩が震えている。
不意に蘭さんが立ち上がった。
「おっと、電話だ。ごめんねえ、仕事の話かもしれないから、ちょっと出てくるね」
「着信音が聞こえない。家にいるのにマナーモードか? バイブにしても静かだったな。玄関に向かおうとしているけど、いつもはベランダだよな?
あれ? 電話はいいのか?」
「いいんじゃないかな。間違い電話だったから」
蘭さんはしれっと言い、足を崩して座った。
私も理解した。メールを送ったのは亮介くんではなく、蘭さんなのだと。しかし、納得できない。私にメールを送った理由がわからない。蘭さんにメリットなんてあるのだろうか。
亮介くんも同じことを考えていたらしい。
「私のことは秘密にしてって言ったのは姉ちゃんだろ。それを、人のスマホで勝手にメール送るわ、正体バラすわ。挙句の果てに暴走して、紅葉に迷惑かけるとか、何やってんだよ」
「メール、あれじゃダメなの? 亮介の気持ちを正確に書いたつもりなんだけど」
停止する、亮介くんと私。
怒られているのに一番この状況を楽しんでいる蘭さんは、
「ひょっとして……、妬けちゃった?」
「妬いてない!」
弟で遊びだした。
「そんなこと言って、紅葉ちゃんのこと大好きなくせにー。先週の土曜日は起きてからずっとそわそわぁ、帰ってきてからずっとにやにやぁ。
訊いてもいないのに紅葉ちゃんのかわいさを延々としゃべってたよね。我が弟ながら、あれには引いたわー。それに、聞かされてる方が恥ずかしいわっ! ほんとに」
言葉を切り、ちらりと私を見る。
自分の膝を見つめる私。
……狙われている。否、もう巻き込まれてしまった私には、逃げ場がどこにもなかった。
容赦なく言葉の矢が放たれる。
「紅葉ちゃんも亮介のこと、かなり意識してるでしょ? おねいさんは何でもお見通しよ? 『好きだよ』メールへの返信からして相当な入れ込みでしょうね。嫌われたくないから控えめに、でも想いは伝えたい。
そんな紅葉ちゃんの葛藤は、おねいさんがしっかり受け取ったわ! だからね、アドバイスしてあげる。心して聴きなさいっ!」
蘭さんに届いても意味がないのに……。
違う、そんなことは問題じゃない(わけでもないけれど)。私の亮介くんへの想いが、蘭さんに筒抜けてしまっている。つまり、蘭さんから亮介くんに、私の気持ちが伝わっている可能性もないとは限らない。
ああ……、消えてしまいたい。
でも、アドバイスは気になる。
さっきから的を射た発言が多い。熱愛報道が流れたことはないけれど、もしかしたら経験豊富なのかもしれない。聴く価値は大いにある――かもしれない。
私はさりげなく耳を澄ます。
しかし、一息置いた蘭さんの口から発せられた言葉は、
「今すぐここで、告白しちゃえばいいのよ」
大きく的を外していた。
ぷちんと、何かが切れた音がした。
こんにちは、けものフレンズにいまさらハマッた白木 一です。
はい、どーぞ!
が、いいですよね。
主題歌の話ですが。
そろそろ松原姉編が終わりますよーという宣言で今日は終わります。
脳内お花畑、恋愛脳の痛い気100%な私の書いた
『モミジ、色づく。』
よろしくお願いいたします。




