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モミジ、色づく。  作者: 白木 一
第二章 赤色の過去と紅色の未来。
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第十八話 紅葉色のそら。

 夕焼け色に染まる道を、亮介くんと手を繋いで歩く。

 赤い顔を隠すように、私は駅からずっと下を向いていた。

 私から始めたことなのに、恥ずかしさが込み上げて抑えられない。意気地のなさに泣きたくなる。

 亮介くんはすごい。言いたいことを声にだせて、行動を起こせて。

 私はまだ、恐怖も緊張も捨てきれていない。勇気や気概がちゃんと持ててはいない。どうすれば亮介くんみたいに、自分の想いを素直に届けられるのだろう。

 私の胸中など露も知らない亮介くんは、突然私に問いかけた。


「ひょっとしてさ、紅葉がコンビニに来なくなったのって、俺のせい?」


 ふと顔を上げると、亮介くんに初めて会ったコンビニが視界に入った。あれ以来ずっと避けていたために、無性に懐かしさを感じる。

 私はその日のことを思い出しながら、ゆっくりと質問に答える。


「確かに……、亮介くんの言葉がきっかけだったけれど、一番は……私の弱さ、かな。亮介くんに図星を指されて、誰かにわかってもらえたことが嬉しくて、恥ずかしくて、勝手に泣いて……。過去と向き合えない私の弱さが情けなくて、弱さを隠せた気になっていた私がばかばかしくて。弱い私がさらけだされてしまう気がして……」


「つまりは俺が悪いってことだよなあ。まさか泣かせてたなんて、全然気づかなかった。いまさらだけど、本当にごめん」


「だから、亮介くんは悪くないって」


「いや、それじゃあ俺の気がすまねえ。俺が悪かった。偉そうなこと言って、ごめん」


 亮介くんはやっぱり頑固だ。でも、嬉しい。誰も知らない彼の一面を、私は見ている。

 弱い私のことは嫌いだけれど、大嫌いだけれど、もし弱さがなかったら、亮介くんのそばにはいられなかった。私の弱さが亮介くんと繋がるきっかけになったのだから、少しは弱さを大切にして、受け入れるのもいいかもしれない。

 また、あのコンビニに行こうかな。



「そういえば、亮介くんは私と会ったときのこと、覚えていたの?」


「覚えていたんじゃなくて、忘れられないんだよ。綺麗な顔を隠してるのが気になって観察してたら、昔の俺みたいに見えてきてさ。後悔してほしくなかったから声をかけたんだ。紅葉は、身内を除けば俺の初恋の人なんだぜ」


 私が、亮介くんの初恋の人!?

 気分がふわふわして、どこかへ飛んでいってしまいそう――うん? 文章がおかしい。飛ばしている。


「身内って、どういうこと?」


「えーっと、言ってもいいけど……、俺のこと嫌いにならない?」


「内容による」


 亮介くんは困ったふうに頬をかいた。


「実は俺、シスコンなんだよ……。姉ちゃんよりいい人がいなかったから、今までずっと彼女つくれなくて……つくらなかった。だから、紅葉は俺の初恋で、初めての彼女なんだ」


 その言葉は嬉しいけれど、素直には喜べない。

 亮介くんはお姉さんが好きだったから、他の女子には興味を持たず、これまで彼女をつくらなかった、と。私が亮介くんの初めてになれたのも、ひとえにそのお姉さんのおかげということになる。複雑だ……。

 とりあえず、私がお姉さんよりもいい人だったから、亮介くんの彼女になれた。今はそう思っておこう。


「その……、今でもお姉さんにべったり、なの?」


「それがさ、紅葉と付き合うようになってから、姉ちゃんへの気持ちと紅葉への気持ちは全くの別物なのかなって。姉ちゃんのことは今でも好きなんだけど、恋愛対象とはちょっと違うというか」


「どういうこと?」


「母子家庭のせいで、母さんが家にほとんどいなくて、母親の代わりを姉ちゃんがやってくれてさ。俺はずっと姉ちゃんだけを頼りにしてきたんだ。要するに、姉ちゃんは俺の姉で、母親でもある、みたいな。普通の姉弟関係と比べて、繋がりが深いってわけ。まあ、紅葉の恋敵ってわけじゃないから、心配しなくてもいいよ」


 なぜか、私が亮介くんのことを好きだという前提で話している気がする。その……、否定はしないけれど。

 亮介くんは立ち止まった。

 いつのまにか私の家に着いていた。


「今日は、ありがとう」


 自然と口が開いた。


「楓――、あの子と遭遇するなんて想像もしてなかったけれど、亮介くんのおかげで堪えられたんだと思う。色々なこと引っくるめて、今日は楽しかった。ありがとう」


 いつも買い物をするときは、誰かの視線を気にしている。

 髪の毛を染めず、マスクをつけず、仮面を脱いだ私はただの弱虫。誰にも見つからないよう気配を隠しながら、必要なものだけを手早く買って帰る。

 私服で外出することは滅多にないから、おしゃれにこだわる必要もない。地味でも派手でもない、人目につかない程度で飾ればいい。

 でも、今日は違った。

 最初の方は視線が気になって落ち着かなかった。けれど、人ごみに流され、亮介くんに引っ張られているうちに、そんなことはどうでも良くなっていた。

 誰も、買い物に来た二人の高校生に興味などない。

 気付いてしまえば、周りの景色が見えるようになっていた。たくさんの人や物、そして、隣を歩く亮介くん。

 彼と一緒にいたからかもしれないけれど、何もかもが新鮮に思えた。着せ替え人形になるのも、思い返せば意外と悪くはなかった。


「こっちこそ、俺のわがままに付き合ってくれて、ありがと。次はさ、紅葉の行きたいところに行こう。明日はバイトがあるから、来週にでも」


「うん、考えとく」


「月曜日の朝、いつも通り迎えに行くから」


 またな、という亮介くんに、じゃあねと返す。気恥ずかしいけれど、何気ない挨拶でさえ嬉しくなる。

 扉を開けかけて、ふと思い出した。


「亮介くん。帽子、忘れてる」


 被ったままだった黒のキャップを、亮介くんに手渡した。


「ごめんごめん。俺たち、フードコートでかなり目立ってたから、変装用に被せたんだ。邪魔だったかもだけど、ないよりはましかなって。悪かったな」


「そんなことない。わざわざ私なんかのために……」


「そう思うんなら、紅葉はもう少し、自分に自信を持てよ? 紅葉はマスクがなくたって、充分強い。俺が保証する」


「……うん」


 最初の頃のような反感を、今は抱かなかった。

 亮介くんが心にもないお世辞を言わないと、わかっているから。


「また月曜日な」


 亮介くんはキャップを被ると、薄暗くなった道を歩きだした。

 私は彼の背中に向けて小さく手を振る。

 亮介くんの姿が見えなくなるまで、私はじっと立っていた。

こんにちは、白木 一です。


今回の話でデート編はお終いです。

次話からは、松原姉編となります。


まだまだ続きますが、脳内お花畑、恋愛脳の痛い気100%の私の書いた恋愛小説『モミジ、色づく。』

ぜひともよろしくお願いいたします。

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