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モミジ、色づく。  作者: 白木 一
第二章 赤色の過去と紅色の未来。
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第十七話 名前。

 帰りの電車は空いていた。

 並んで座る私たちは、ずっと無言だった。

 残り二駅になったところで、私は気になっていたことを口にする。


「あのね……さっきのことなんだけど……」


「気にすることはないさ。昔のことを話したくないって気持ちはわかるし、無理に聞きだそうとも思ってない。話せるようになったら聞かせてくれよ。一生教えられないっていうのなら、それでもいい」


「それもあるけど……違うの。松原くん……、さっき私を……紅葉って、呼んだ……よね?」


「へっ!? あっ……、あぁっ!!」


 松原くんの顔が一瞬にして朱に染まった。たぶん私も同じような顔になっていると思う。

 この反応を見る限り、松原くんは無意識に、私の名前を呼んでいたのだろう。


「ごめん、その……気分悪くさせて。あいつに釣られて、つい」


「きっ、気分は悪くなってない――から大丈夫。そういうつもりで言ったんじゃなくて、ただ気になったっていうか……」


「な、ならよかった」


 電車が駅に停まる。再び訪れる沈黙。

 どうしても松原くんに言いたいことがあるのに、うまくきっかけをつかめない。

 電車が動きだす。

 彼の息遣いだけが聴こえる。

 今まで、松原くんが私を引っ張ってくれていた。私を変えようと頑張ってくれた。それなのに、私は進むのが怖くて、変わることを恐れて、彼の善意にしがみつくばかりだった。

 私から変わろうとしなければ、何も変わらない。


『まもなくぅー蒼浦ぁー。まもなくぅー蒼浦ぁー』


 チャンスは、今しかない。


「「あのっ!」」


 彼が何を言いたいのか、何となくわかる。

 でも、ここだけは譲れない。ためらっていてはダメだ。

 緊張で震える喉から、私は声を絞りだした。


「名前で呼んでも、いいよ」


 澄んだ茶色の瞳が私を見つめる。


「本当に……いいのか?」


「二人きりのときだけなら」


 これが今の私にだせる、最大限の勇気だ。

 あのときの記憶も彼女の呪いも消えたわけではないし、まだ目の前は真っ暗で、道すら見えない。変わりたいけれど、なりたい私が見つからないから、どう変わればいいのかさえわからない。

 だから私は、今できることをしようと思う。

 私が今できること――それは、彼の気持ちに応えること。

 真っ暗で息苦しい世界から連れだしてくれた松原くんに、本当の私を見てくれる松原くんに、次は私が応える番だ。



 電車が停まると同時に、私は素早く立ち上がる。

 松原くんに左手を差しだし、


「行こっ、亮介くん」


「おっ、おう。そうだな……紅葉」


 彼の熱が伝わる。胸を焦がすほどの熱さえも、温かい。私に安らぎを感じさせてくれる。

 おんなじことを考えていたのにな、と、彼は小さく呟いた。聞こえたけれど、私は聴いていないふりをする。心の中では喜びながら。



 胸がちくちく痛みだす。

 この痛みの名前を、私は知っている。

 この痛みと向き合って乗り越えることができたなら、過去を過去として思えるようになるのだろう。

 まずは一歩を踏みだそう。



 私――藍澤あいざわ紅葉もみじは、松原亮介くんのことが、好きだ。

こんにちは、白木一です。


名前です。

名前なんです。


今回はそれしかいいません。


脳内お花畑、恋愛脳の痛い気100%な私の書いた恋愛小説をどうぞよろしくお願いします。

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