第十四話 初めての人。
「気分でも悪いのか?」
彼女のうわべだけの甘さとは違う、心のこもった落ち着く声が、耳に届いた。
「まつ……ばら、くん」
頬を涙が伝った。嬉しかった。
ずっと素っ気ない態度で彼から距離を取ろうとしているのに、松原くんはそんなことなど気に留めず、私に優しくしてくれていたのだ。
よく考えてみればわかることだった。わかろうとしなかった私が悪い。
このショッピングモールを選んだ理由も電車でのこともそうだし、部屋に入ったことは置いといて家まで忘れ物を届けにきてくれた。
ベンチから落ちたときはすぐ心配してくれたし、屋上で話した日も、扉に鍵をかけたのは誰かに話の内容を聞かれないための配慮だったのだと思う。
もしかしたら、それらは買いかぶりなだけで、特に深い意味はなかったのかもしれない。
でも、確実に言えることがある。
松原くんは仮面を被った私にも、そうでない私にも、変わらない態度で接してくれた。初めて逢ったときから、彼は私の仮面を見透かしていた。初めて私の内面を見てくれた人だったのだ。
家族でさえできなかったことを、してくれなかったことを、松原くんは拍子抜けするほどあっさりとやってのけた。
私は一生、そのことを忘れはしない。
こんにちは、白木 一です。
今日はものっそい短いですが、次回はすこぅしだけ長いです。